
606公園は、廃線となったシカゴ市内鉄道路線跡の画期的な土地利用法である。
シカゴ市のど真ん中、東西4.32kmに及ぶ公園として10年かけて完成。都心の混雑した道路から隔離され、道路を見下ろす高架の公園である。そこへ入る出入り口は13箇所ある。だから「公園」とよぶよりは都会のトレイル/遊歩道と言った方がぴったりする。
都会の喧騒を眼下に、ゆったりと…

零下5℃、雪も残っていた寒い初冬の週末だったにもかかわらず、ジョギングをする人や犬の散歩をする人、赤ちゃん連れの家族などでトレイルが賑わっていたのには驚いた。
と言っても混んでいるわけでは決してなく、人影はまばらでちらほら。都会の喧騒やストレスから逃れて静かな時間をここでは過ごせる。歩くのに疲れたらベンチでのんびりと眼下に広がる都会をながめるのもいい…、時がゆったりと流れてゆく。
トレイルのコンクリート歩道は凍りついた部分が多く、つるつるすべって転倒しそうで怖い。しかし両脇には滑り止めのゴムがしいてあるので、不安なく走れる。

敷設から100年で廃線へ
成り立ちを辿ってみよう。
1874年の大火で灰燼となったシカゴだが、その後復旧に励み、市は都心から郊外の工場へ資材を運ぶブルーミングディール鉄道を敷いた。しかし、市の経済発展に伴い路線周辺に住宅が立ち並び、線路を横切る人や車で何千もの死傷事故が起きたため、市は鉄道を一部高架に変更した。
そして100年余り過ぎた1990年代にはブルーミングディール鉄道路線はいくつかの理由で廃線となり、草ぼうぼうの路線跡と成り果てた。

4つのまちをつなぐ独創的な遊歩道
この界隈はシカゴ市中心地でもあり、住宅が隙間なく建っている。シカゴ市公園局(Chicago Park District) は、周辺の住宅地を買い上げるとともに、さらにどういう利用法があるか多くの関係者と話し合った。
その結果、ブルーミングディール路線が都心でありながら周囲に林をはじめ緑が多い点に注目。当初は単なる公園にする予定だったが、最終的には路線に関わる4つの町をつないで何千人もの住民や来訪者が楽しめる独創的な都市公園/トレイルプロジェクトを立ち上げたのだ。

鉄道の幅は遊歩道にちょうどぴったり。同公園局と公有地信託 (The Trust for Public Land) が主となり、シカゴ市交通局ほか多くの団体やボランティアが参加して国にも援助を乞い、総工費107億円、約10年を費やして最近完成したのである。
郵便番号を公園名に。デザイン性も重視

市の関係者と町のボランティア達は数えきれないほどの会合を重ね、美的かつ実用的であることに重点をおいて何度もプランを練り直した。
今、このトレイルを歩くと、視覚的にデザインを考慮しているのが即座に感じられる。そしてその背後には都市の歴史が埋蔵されている。周辺の住宅もモダンでお洒落でワクワクする。
「606」という公園の名前はこの区域の郵便番号。13箇所あるトレイルへの出入口はゆるやかなスロープに設計され、乳母車やウォーカー、車椅子などが使用しやすく配慮してある。出入口のわきには犬専用の公園も作ってあり、引き綱をはずして走ったり、犬同士遊べるスペースとして人気を呼んでいる。
春にはフェンス一面に草が伸びてゆき、芝生も緑が深くなり、沢山の花が咲き乱れてさぞ美しい遊歩道になることだろう。地元の祭りや小学校のアートイベントが予定され、活気づく様子が目に浮かぶ。

https://www.the606.org
https://www.the606.org/about/photos/
https://www.yelp.com/biz_photos/the-606-bloomingdale-trail-chicago?select=8hwZ6JUy_ww3DiB8H9POEQ
Akemi Cohn
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。