
家はシェルター。身体の安全を外敵から守る建物と言える。安らぎを得られる場所でもあるが、この場合はむしろ「ホーム」という言葉がイメージとして浮かぶ。
家が建築物、構造物とすると、ホームは家の内側、つまり家庭とか生活の場というイメージが近い。ホームシック、ホームタウン、ホームクッキング、そしてアットホーム等、個人的で暖かな暮らしを喚起させる言葉でもあろう。
「わが家にまさる所はない」
1900年に出版された本「オズの魔法使い」はミュージカルや映画化もされ、アメリカ人なら誰でも知っている話。
中西部の農場に住む少女ドロシーは竜巻に巻き込まれて愛犬と共に空高くオズの国へ飛ばされ、かかしやライオンやブリキマンをお供に、悪い魔女と戦ったり良い魔女に助けられたり…、さまざまな冒険を経て、ついに魔法の赤い靴を踏み鳴らしてカンサスの農場に無事に舞い降りる。
家族と抱き合ってドロシーは “No place like home!” とつぶやく。「わが家にまさる所はない」と。
home は、自分が一番落ち着ける住みかに違いない。
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小津映画に見る昭和初期の日本の生活様式
「オズ」で思い出したが、昨年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏はあるインタビューで小津安二郎の映画に影響を受けたと述べている。さらには周囲の何人かのアーティスト達も小津監督の映画を賞賛しているので、不思議に思って何本か見てみた。
半世紀も昔、昭和の初めだろうか。そこには日本の伝統的な生活様式へのこだわりがあるようで、静けさや調和した室内がゆっくりと時間をかけて映し出される。
当時は珍しくない日常の光景だったのだろうが、特に障子を通したおだやかな光と美しさが印象に残る。
ローアングルなインテリアの心地よさ
もうひとつ小津監督の映画で目につくのは「ロー・ポジション」だ。低い位置にカメラを定め、めまぐるしく動かずに撮影されているので、見る人に心地よい安定感を与える。
アメリカの暮らしでは、一日中靴を履き、背筋を伸ばしてダイニングテーブルで食事をするが、その習慣にはいまひとつ馴染めない感がある。特に靴を履いていることを前提にデザインされた欧米や北欧のソファは、ゆったりと座ろうとすると、短い足が床につかない。ハイヒールシューズでないと素足ではサマにならないのだ。
小津監督の映画を見て、日本人は元来畳に座る暮らしが長かったためか、全ての家具や飾り物を低い位置に定めたインテリアが体も心も気持ちよい、ああ!そうなのだ、と納得。
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土地柄、気候風土に合った住まいづくり
それぞれの土地にはそれぞれの気候風土に合った素材や建築様式があったのだ。伝統的な素材建材を改めて見直すのも悪くないと思う。古い映画は古臭いと決めてかからずに、カズオ・イシグロ氏やアーティスト達が小津監督の古い映画からインスピレーションを得たように…。掘り出せば「たから」が出てくるかもしれない。
ちゃぶ台やふとんは小さなスペースをいくとおりにも使い分けて使う素晴らしい方法で、うまいスペースの使い方だと多くのアメリカ人から賞賛されてくすぐったい。
友人がニューメキシコ州にアドビ様式の家を夫婦二人で数年がかりで建てたが、土壁はわらと水と土をまぜて木組みに塗り込める。日本の伝統的な壁土と同じであるが、構造的に日本とは多少違うし、窓を小さくとっている点も違う。強烈な日差しと暑さを防ぐため。これはニューメキシコの風土に合った伝統的な建築法で日本では通用しない。
カーテンより、天然素材のシェイドがトレンド
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最近アメリカでは、ウインドウ・トリートメントの傾向として、カーテンよりもシェイドやブラインドを使うようになってきた。モダンなデザインで天然素材を使ったシェイドが目につく。
障子紙の風合いを持つ素材も人気がある。プラスティックや金属のブラインドは下からひもを引っ張って開閉するが、このハニーコム新素材は外光を取り込むさまざまな工夫がなされ、自在に上げ下げできる。真ん中の部分だけに目隠しとしてブラインドを使い、窓上部を開けておくと、青空が見えるし明るい日差しが入ってくる。

不穏な空気漂うアメリカ。安息の場は…?
先ごろフロリダ州の高校で17人が銃で撃たれて亡くなる悲惨な事件があった。学校の先生は武器を携帯すべきという意見まで出て、アメリカは西部開拓時代に逆戻りした様相。シカゴでは走行中の車から任意に他の車を狙って銃撃したりカージャックが頻繁に起き、一般市民の間に不安と緊張感が強い。
家にたどりつき、安全を確認して、手足を伸ばし寛げる「住みか」にぜひ落ち着きたい。
ホームスウィートホーム。
その巣は静けさと美しさに満ち、家具やサイドボードや装飾品が低い位置に配置されているすみかに違いない。
http://www.conradshades.com/product/catalog/type/rfOnly
https://www.selectblinds.com/cellular-shades.html?Page=2
Akemi Cohn
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。