海外トピックス

2019/2/1

vol.353 ライフスタイルが激変!一気に便利になったチェンマイの交通事情【タイ】

 タイ北部のチェンマイは、世界中の旅行客に人気の高い古都であり、山岳地帯ならではの自然豊かな環境から、日本を含む世界各国からロングステイヤーが集まる都市である。

 しかし、タイ第二の都市と称されていながら、高架鉄道や地下鉄が縦横無尽に走る首都バンコクとは比較にならないほど公共交通機関の整備が遅れているのが難点であった。移動は「ソンテウ」と呼ばれる乗り合いタクシーか「トゥクトゥク」という三輪タクシーに頼るしかなく、料金・行先は交渉制のため、土地勘がなく言語に不安のある外国人には敷居の高いものだった。

  そんなチェンマイの交通事情が、ここ1~2年という短い期間に一大革新を遂げたのである。

チェンマイの移動手段の定番ソンテウ。車両ごとに運行ルートが決まっているため、土地勘がないと利用は難しい

一気に普及したタクシー配車サービス

 最初の波は、2016年11月にチェンマイに進出したアメリカ発のタクシー配車サービス「Uber」だ。スマートフォンにインストールしたアプリで目的地を指定してタクシーを呼び出せば、料金は乗車前に確定し、ドライバーや車両情報までわかるという便利な仕組みだ。

 それまでは移動のたびに大通りに出てソンテウを探し、行先と料金をタイ語(英語)で交渉する必要があった。ソンテウは各車両で巡回ルートが決まっており、目的地の場所を説明しながらそこまで行ってくれる車両を見つけるのがひと苦労であった。

 それがUberを利用すれば、呼び出して3分程度でタクシーが到着し、ドライバーに説明しなくても目的地に辿り着けるのだから、定住者はこぞってUberを歓喜とともに受け入れた。

Uberの撤退とGrabタクシーの台頭

 ところがUberの難点は、無許可ドライバーが運送サービスを行う「白タク」にほかならないため、既存のソンテウ・タクシー業界から猛反発が起こり、陸運局も摘発に乗り出した。そしてUberは去年3月に東南アジア事業を競合サービスの「Grabタクシー」に売却、UberユーザはそのままGrabに移行した。

既存のソンテウ業界にとって無許可タクシー配車サービスは脅威。デモを行って排除に動くことも

 Grabタクシーも基本サービスは白タク行為に相当するのだが、特筆すべきは既存のソンテウや・公認タクシーを配車するサービスを加えたことだ。こうして抵抗勢力からの反対を最小限に抑えると同時に、今後白タク営業が排除されたとしても「公認タクシー配車サービス」としてGrabタクシーは存続できるわけだ。

アプリでGrabタクシー呼び出し。3分以内に到着可能な車両が常に複数台見つかるのがうれしい

定着の兆しをみせる「スマートバス」

 次に来た波が、「RTCシティバス」という路線バス。チェンマイでは何度か路線バスが運行されたことがあったが、市民や定住者にほとんど認知されないまま、いつの間にか廃止されているということの繰り返しだった。

スマートバスは最新鋭の大型ノンステップ車体を採用。大きな荷物の置き場所にも困らない

 そんな中、去年4月に運行開始したRTCシティバスは、今までとは本気度が違った。「スマートバス」とも称している通り、アプリを使ってスマートフォンの地図上でバスの運行状況がリアルタイムで表示されるのだ。市内6路線がそれぞれ30分間隔で運行しているが、利用者はバス停で長時間待つ必要はなく、近辺で用事をしながらバスの位置をスマホで確認すればよいのだ。

スマートバス開業から1年足らずだが、どのバスを利用しても座席がほぼ埋まっている。さらなる路線の拡充が期待される
スマートバスはチャージ式ICカードに対応。監視カメラを設置するなど、セキュリティ面の配慮は女性客には安心だ

 運賃は一律20バーツ(68円)。チャージ式ICカードを使えばキャッシュレスで乗車できるのは日本と同じだ。

 昔からチェンマイの交通事情を知る古参定住者は、今回はいつまで続くか・・・と懐疑の目で見ていたようだが、開業以来右肩上がりで利用者を増やしており、今度こそは市民の足として定着することは間違いないだろう。

市民の足代わりに!シェア自転車サービスの台頭

 チェンマイは典型的なクルマ・バイク社会で、徒歩で移動しているひとはほとんど見かけない。そんな当地のライフスタイルを変えるかも知れないのが、去年1月にサービス開始した中国発のシェア自転車サービス「モバイク」だ。

モバイク自転車はどこに乗り捨ててもよいが、所定のハブに返却するとユーザスコアが上がる仕組み
市街地でアプリをチェックすると、膨大な台数のモバイク自転車が徒歩圏に発見できる

 スマートフォンのアプリを使って近辺に駐輪されているモバイクをサーチし、開錠・課金までスマホで行えるのだ。自転車は、人が集まる場所なら目視ですぐ見つかるほど台数が豊富に用意されている。

 料金は10バーツ(34円)/20分とお手頃だが、250バーツ(850円)で90日間無制限で利用できるプランもある。

 交通量が多く路面状態が劣悪なチェンマイで自転車に乗るのは危険を感じるが、アクティブな外国人観光客は積極的にモバイクを利用し、地元の学生が通学の足として使う姿も見かけるようになった。

交通改革が成功した背景

 これら新サービスに共通する要素は「スマートフォンとの連携」だろう。その背景にあるのはタイにおけるスマートフォン普及率の急速な増加で、去年1月時点でタブレット端末を含めて83%にも達している。高度交通システムを構築するための基盤がようやく整ってきたのだ。

 また、スマートバスとモバイクに関しては、数年前から官民が協調して実証実験を重ねており、十分な勝算を得た上でスタートした事業である。開業当初から、早朝から深夜までバスが整然と市内を循環し、膨大な台数の自転車があまねく提供された状態であったことは、一気に普及するために欠かせない要素であったろう。

 さらに、Grabタクシーは既存のソンテウ・タクシー業界という抵抗勢力を巧妙に取り込み、リスクを最小限に抑えたことが大きい。

 これら新サービスで、市民や外国人定住者・観光客の利便性は飛躍的に向上した。基幹となる路線が確立したことで、既存のソンテウはそれを補完する手段として利用しやすくなり、各ステークホルダは役割分担を明確にしながら、都市機能の一部を担って成長していくことだろう。

●注:記載した情報は2018年12月現在のもの。日本円は「1バーツ=3.4円」で計算

横山忠道
2014年よりタイ・チェンマイに在住。2004年に日タイ政府間合弁技術者育成事業に従事したのを端緒とし、その後一貫して日タイを繋ぐ活動に専念。チェンマイ移住をきっかけにタイ専門ライターとしてデビュー。「サライ.jp」「トラベルコ・海外現地口コミ」など掲載媒体多数。リサーチ・分析スキルを持ち味とした執筆活動を続ける。海外書き人クラブ所属。

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2019/4/10

「記者の目」更新しました

“食”から“職”の築地へ」更新しました。
場内市場が豊洲へと移転した後も、日本伝統の「食」で外国人観光客などを魅了する築地市場。そこに3月、映像業界向けのクラウドサービスを手掛ける(株)ねこじゃらじが、クリエイター向けのコワーキングスペースをオープンしたという。「食」ならぬ「職」の場としての築地を模索しているようだ。