海外トピックス

2020/9/1

vol.372 快適至極!川をゆくカタマラン(双胴船)で通勤&通学【オーストラリア】

 「船で通勤・通学している人がいる」。そう聞くと「島と本土を結ぶ渡し船」的なものを思い浮かべる人が、日本では多いかもしれない。
 だがオーストラリア第3の都市で、都市圏人口250万人のブリスベンでは、船は立派な通勤・通学の足となっている。

混まない、揺れない、心地よい。
3拍子揃った通勤の足

双胴船の「シティーキャット」。上部は運転席のみ。船の後ろ側にも屋外席がある
ブリスベン川。船が運航するエリアはだいたい200メートル以上の幅がある

 市のまんなかを蛇行して流れるブリスベン川を優雅に行き来するカタマラン(双胴船)。ブリスベン市交通局が運航する「シティーキャット」(CITY CAT。CATはCATAMARANの略)だ。

 内陸部にある市の中心部まで、上流からも下流からも約30分。料金も「Go Card」(日本のSuicaやICOCAのようなICカード乗車券)で支払えば、どこまで乗っても大人3.37豪ドル(約252円。非ラッシュ時だと2.70豪ドル=約202円)。ちなみに同じゾーン内の移動であれば、電車やバス、そして市の中心部のみを走る小型の船「シティーフェリー」と同額だし、それら別の交通機関に乗り換えても料金は変わらない。

近場を結ぶ「シティーフェリー」

 船による通勤・通学が優れている点はいくつかある。

 まずは通勤・通学の時間帯におけるいちばんの問題である「渋滞」がないこと。車はもちろん電車も、ブリスベンでは中心駅近くでいくつかの路線が立体ではなく平面で交差しているため、もともと速度があげられず、遅延も日常茶飯事だ。というよりも遅延がないほうが珍しい。だが川の上はほとんど渋滞知らずだ。

 また川には波がなく、しかもバランスが安定した双胴船なので、揺れもほとんどない。水上というよりも氷上をすべるように動くようなイメージだ。バスはもちろん電車よりもずっと快適に過ごせる。

ブリスベン川ではカヤックやパドルボート、水上スキーを楽しむ人も多い

 日本の台風クラスの暴風雨でもない限り、欠航もほとんどない。太平洋南部などで発生するサイクロンはオーストラリア北部を直撃することはあるが、ブリスベンまでやってくるのは数年に一度といったレベルだ。

 屋根と窓に囲まれた室内席だけでなく、開放的な屋外席もある。亜熱帯とはいえ冬場は風が当たると少し寒いし、夏場は時間帯によっては日差しがきついが、季節によっては快適至極。いや、夏でも風にあたりながらの通勤・通学は気持ちがいいかもしれない。

いくつもの橋をくぐる。下から見上げる橋はより巨大に感じられる

第三の交通機関としての可能性

ブリスベン中心部の街並み

 この「シティーキャット」および「シティーフェリー」に関して、先日おもしろい新聞記事を見つけた。「交通渋滞」と「電車内の混雑」(日本の大都市のようにすし詰めになることはないが)を解消するために、「ブリスベン市交通局は船の料金を無料にすべきだ」と主張している人たちがいるというものだ。

 オーストラリアの場合、通勤費はいわゆる「自腹」のことが多いし、定期券という制度がないので月曜日から金曜日まで毎日乗れば一回あたりの料金が半額ぐらいになるということはない。一日につき行き帰りで約500円。月20日として約1万円が浮くと考えれば、住んでいる場所にもよるが船での通勤・通学に切り替える人もかなりいそうだ(ちなみに郊外の船着き場の多くには、無料の駐車場が用意されていたり、時間無制限の路上駐車ができたりするようになっている)。

 船は、鉄道(地下鉄やモノレールなども含む)とバスに次ぐ第三の公共交通機関として、大いに可能性がある。

夜のブリスベン市中心部。ビルや山の上からでなく、川から見上げる夜景には一味違った趣がある

 地価が高騰していても、船着き場以外は買収する必要はない。今ある川を利用するだけ。建設費も船着き場の設置以外にかからない。問題として挙げられるのは、水量がある程度ある川でなければ運行できないことくらいだが、こればかりはどうしようもない。

 ちなみに東京でも、浅草と日の出桟橋やお台場を船で結ぶルートがある。料金はお台場~日の出桟橋という乗船時間約20分の短い区間で大人片道520円、浅草~日の出桟橋約40分が通常860円(豪華版の船だと1200円)。完全に観光客相手の「遊覧船」的料金設定だ。調べてみたら運行をしている会社名も「東京都観光汽船」。

 個人的には東京都交通局あたりがより安価で運航する「通勤通学の足」があってもいいと思うのだが、いかがだろうか。


柳沢有紀夫
文筆家。1999年にオーストラリア・ブリスベンに「子育て移住」を敢行。世界100カ国300人以上のメンバーを誇る現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える!』(朝日新書)、『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか?』(新潮文庫)、『ビックリ!! 世界の小学生』(角川つばさ文庫)など著書多数。

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