海外トピックス

2021/3/1

vol.378 デンマーク人が最も大切にしている価値観 “ヒュゲ”【デンマーク】

“ヒュゲ”とは?

アンデルセンも住んだ港町ニューハウン
デンマークでは自転車が広く普及

 日本でも近年、主に女性の間で、デンマーク語で“ヒュゲ”(心地よい)という、気の置けない家族や友人と、あたたかく、くつろげる時間を大切にするデンマーク人のライフスタイルが人気を集めているかと思います。

 確かに、デンマーク人は一般に、周りからどう思われるかということよりも、自分がどう感じるかということを基準に行動するため、自分がプライベートな時間を過ごす空間である住居やインテリアにとても大きな関心を持ち、服飾よりも、住環境を整えることに、エネルギーとお金を惜しみなく注ぎます。

夏は庭で太陽の光を感じてヒュゲ

“ヒュゲ”はデンマーク人のもの?

 例えば、20代の独身の青年の誕生日やクリスマスのプレゼントのお願いリストに、デンマークデザインの食器や家の装飾品が入っているということがごく普通にあって、私はデンマークに来た当初びっくりしました。日本の若い男性は、例えば独り暮らしをしていたとしても、あまり食器や家の装飾品に関心を持たないのではないでしょうか。

 しかし、“ヒュゲ”は決して贅沢なものに囲まれることが価値を持つ時間ではありません。お金がなくても、蝋燭であたたかい明かりをテーブルに灯したり、コーヒーを飲んだり、気の置けない人と集い、共にくつろぐことができれば、十分に「ヒュゲリ(心地よい)」と感じます。

お誕生日には国旗を飾って祝います

 そしてこの“ヒュゲ″は、決してデンマークだけが大切にしてきたわけではなく、実は言葉にしてこなかっただけで、日本でも日本人がずっと体験してきたことです。例えば、冬の寒い日に、家族や、仕事や上下関係のない、損得なしの中の良い友人で集まって、おこたで鍋を囲んでみんなでハフハフ言うあの感覚は、ヒュゲに他なりません。

 ただ、日本では、恐らく私たちの行動様式に意識しなくても深く根付いている儒教や武士精神から、あたたかなくつろぐ時間はあくまでもつかの間の休息に過ぎず、常に努力し向上することが人生の大義であるのに対して、デンマークでは、最終的に人生の滋味は、ヒュゲリな時間にあるということが、全くの罪悪感を伴わずに共通認識として重要視されているという所が異なると言えば異なるのではないかと思います。

 気候が精神の形成に影響するのではないかというのは、デンマークに来る外国人の多くが初めて実感することなのですが、冬が日本よりもずっと長く、日照時間が極めて短くなり、日中も日がささず灰色の空となるデンマークでは、外は寒くて暗くても、うちの中でなんとか快適に過ごすことは、冗談抜きで、精神を健全に保つ上で、非常に重要な課題であり続けてきたのです。

森の幼稚園
保育園のお散歩-消防車にくぎ付け

古くから伝わる「ヤンテの掟」

コーヒーショップの定員さん

 同時に、デンマークには「ヤンテの掟」という不文律があります。それは、「自分が特別であると思うな」というもので、自分が周りの人よりも優れていると思ってはならないという教えです。つまり、デンマークでは、自分や相手の資産や学歴や力の有無や立場の違いによって、服装や話し方を変えるのは恥ずかしいこととされます。
 実際例えば複数の人が話しているのを見て、どの人が国で一番の銀行の頭取で、どの人が近所のお魚屋さんなのかなどは、その人が専門知識を披露していない限り、全く分かりません。社長は大変気さくで、平社員は堂々と意見を言うというのが、デンマークの組織では普通です。

 日が長く快適な夏のうちに努力して寒い冬に備えなければ、長い冬を乗り越えられない厳しい気候に育まれたデンマーク人は、時間もきちんと守り、欧州では勤勉な性格と言われ、男女共に自立して仕事を持ち、所得の半分前後になる高い税金を払って国を支えています。 

 そんなアリ体質のデンマーク人が最終的に行き着いている価値観が、周りから称賛されることでも、周りよりも力をつけることでもなく、自分が気の置けない人と共にくつろぐことであるというのは興味深いことであり、独り暮らしの比率が40%に上るデンマークでは、それは実は現代ではなかなか得難いものになってきていることにも気づきます。


ウィンザー庸子
デンマーク公認ライセンスガイド、通訳、視察や撮影手配などのコーディネーター。デンマーク人の主人と2男1女の5人家族。2003年よりデンマーク在住。その間にデンマーク外交官の妻(配偶者は現在他省に勤務)としてタンザニア3年、バングラデシュ2年駐在。

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