海外トピックス

2022/7/1

vol.394 アムステルダムの「コンテナ学生寮」【オランダ】

 オランダは、ここ何年も住宅不足に悩まされてきました。日本の九州と同程度の国土面積に、約1760万人 (2022年3月時点)の国民がひしめきあって暮らしているのです(ちなみに2019年のデータによると、九州の人口は約1426万人)。

 また、大学などでは英語で受講できる講義が多く、学生の留学先としても注目されています。ただでさえ住宅不足なのに、立場の弱い学生や外国からの留学生たちは住宅の確保に四苦八苦。今回は、そんな学生たちの強い味方である「コンテナ学生寮」について紹介します。

オランダでのコンテナハウスの歴史

 そもそもコンテナは、物流業界で活用されているもの。貨物輸送に用いる金属製の大型容器で、大型船で物品を輸送する際などに用いられます。統一規格があるので、いくつも積み上げることも可能。船上では直接雨風にさらされ、かつ何度も使い回すことになるので、反復使用に耐えうる強度を備えているのです。
 そういった耐久性や収容力、使い勝手の良さが注目され、近年は世界中でコンテナを用いたオフィスや店舗が登場するようになりました。

1987年にオランダで開催した建築デザインコンテスト「リアリテイト」の入賞作品となったコンテナハウス (c)Naoko Kurata

 オランダにおけるコンテナハウスの歴史は古く、1982年にアルメレという都市で開催された建築デザインコンテスト「ファンタジー」(De Fantasie)において、すでにコンテナハウスでの暮らしが提案されていました。同市が87年に開催した「リアリテイト」(De Realiteit、英語ではReality)と呼ばれるデザイン・コンテストでも、コンテナハウスを5つ組み合わせたデザイン「CAMPUS」が入賞を果たしています。「CAMPUS」を始めとした入賞作は実際に建設され、現在でもアルメレ市内で見学できます(居住者がいるため内部の見学は不可)。

深刻な住宅不足。コンテナハウスに活路

コンテナハウス型の学生寮。全ての居室が中庭に面する。中庭には自転車大国らしく巨大な駐輪場を完備 (c)Roxanne Schultz

 前述のようにオランダは深刻な住宅不足にあるため、このコンテナハウスを活用しない手はありません。2005年には、コンテナを利用した学生寮が誕生しました。敷地面積3万1,020平方メートルの場所に1,000以上のモジュールが積みあがった様子は、さながら工事現場か物流倉庫のようです。1,000人以上が入居する大規模なコンテナハウス型の集合住宅は、世界初の試みだったとか。

こざっぱりとしたキッチンスペースと、バスルームにつながる扉 (c)Roxanne Schultz

 かつて入居者のロクサーヌさんという学生(当時)に、住み心地を教えてもらったことがあるので、室内もご紹介したいと思います。

 ロクサーヌさんが住んでいたのは、横幅2,5m、床面積25平方メートルの住戸。エントランスから最初に目に入るのは、ダイニングスペースとミニキッチンです。キッチンにはミニ冷蔵庫が備え付けられています。その少し奥に見えるのが、トイレとシャワーのあるバスルーム。

キッチンスペースの奥にある、プライベート空間 (c)Roxanne Schultz
バスルームのせり出しがベッドを隠してくれる (c)Roxanne Schultz

 せり出したバスルームの奥には、プライベートな空間があります。ベッドにチェストにソファと、リラックスするのに必要な家具がすべて揃っています。

 ロクサーヌさんがこの学生寮を選んだ理由は2つあります。それはまず、通っている大学に近く、公共交通機関へのアクセスが良い点。地下鉄でアムステルダムの中心街にすぐ行けるため、学業でも私生活でも便利な立地なのです。

 そしてもう一つの理由は、賃料の安さ。アムステルダムの一般的な家賃は学生には非常に高額ですが、コンテナハウスの家賃は、学生でも何とか工面できる金額です。ロクサーヌさんが住んでいた16年当時のこの学生寮の家賃は月額475ユーロ(22年4月現在、日本円で約6万5,000円)でした。加えて、そこに自治体からの家賃補助が175ユーロ付いたので、自己負担額は月300ユーロ(同約4万1,000円)。その値段でこの部屋に暮らせるならば、羨ましいくらいです。

借地契約が終了。現在は?

各部屋には、小さなベランダも付いている (c)Roxanne Schultz

 入居前は、「狭くて暮らしにくいんじゃないか」「隣家の騒音が気になるのでは」等と心配していたロクサーヌさん。けれど、家具の配置を工夫すれば、一人暮らしには十分な広さを確保できるほか、バスルームも付いているので、これといった不自由はないのだそう。隣の住戸からの生活音も、コンテナ同士が独立しているため、ほとんど気にならないとのことでした。また、誰かが部屋でパーティをする時は事前に近くの住人に声を掛けたり、Facebookのグループページで告知したりするので、事前に対策を取ることもできると言います。

 唯一、シャワーのタンクが小さいのは残念ポイントだったそう。「入居したばかりの頃は、シャワーの途中でお湯が足りなくなるとイライラしていた」そうですが、しばらくすれば要領も分かってきたので、乗り越えられたのだそう。

 ただロクサーヌさんとしては、自分が生まれ育ったような「普通の家」の住み心地は捨てがたいそう。オランダでは「コンテナハウスは学生のためのもの」というイメージが強いので、社会人になってからは一般的な家に引っ越すつもりだと教えてくれました。

 そしてロクサーヌさんのようなアムステルダムの学生たちを助けていたこの学生寮は、惜しまれながらも2020年に借地契約を終了。その後はオランダ北部のフローニンゲンという土地に輸送され、その地で新たに学生寮として組み上げられました。引き続き、住宅不足に苦しむ学生たちの住まいとして再利用されています。

倉田直子
オランダ在住ライター/タイニーハウス・ウォッチャー。リビア(革命から脱出)、英国スコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主な執筆ジャンルは、オランダの教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係など。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間」は、19年度の東京大学教育学部附属中等教育校の入学試験に採用された。「海外書き人クラブ」所属。

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