海外トピックス

2023/9/1

vol.408 ルーラ政権で復活した低所得者向け住宅計画【ブラジル】

バイア州サント・アマーロ市に新設された集合住宅地(Photo by Ricardo Stuckert/PR)

 極右と称された前政権から今年元旦に左派のカリスマであるルーラ氏が大統領に返り咲いたことで、ブラジルの政策に大きな変化が窺える。対外的には国際強調路線への復帰、内政的には環境対策への取り組みや先住民・貧困層への支援の強化が顕著だ。

 今年2月14日にバイア州サント・アマーロ市での式典で、ルーラ大統領が再開を発表した「Minha Casa, Minha Vida(我が家、我が生活)」もまた貧困層支援の一つだ。

式典で市民にマイホームの鍵を授けるルーラ大統領(中央)(Photo by Ricardo Stuckert/PR)

 この住宅計画はかつての第2期ルーラ政権(2007-10年)時の09年3月に発足されたもので、政府が都市部・農村部に低所得者層向けの集合住宅を建設し、入居希望者に対して助成金を与え、低金利で融資し、販売する計画だ。住宅を提供し、低所得者層の社会経済的成長と生活の質の向上させることと各州で建設を行ない雇用を生み出すことが目的だ。

大統領ら政府関係者に囲まれるジョジメイリ・サンタナ・ピニェイロさんと息子たち(Photo by Ricardo Stuckert/PR)
安心して暮らせるマイホームを得たピニェイロさんと息子たち(Photo by Marcelo Camará/MCid)

 モデルケースの一人として、大統領から新築マイホームの鍵を直接受け取ったジョジメイリ・サンタナ・ピニェイロさん(31歳)は、政府から低所得者向け給付金を受け取りながら、ネイルケアと洗濯業で三児を養う母。家賃の高騰のためにやむを得ず繰り返してきた引っ越しから解放されたことへの安堵を語った。

 「ルーラ大統領でなければ、家を持つことなどできなかった。ルーラは私のような人をたくさん貧困から救い、持ち家に暮らす尊厳を与えてくれている。マイホームで人生設計を立て、正規雇用を得て子供を養育していきたい」と新たな生活への期待は大きい。

 ルーラ大統領はサント・アマーロ市での式典で、全国9つの自治体で2,745軒の住宅をリリースし、26年までにブラジル全土に200万軒の住宅の完成させることを約束した。

低金利ローンで購入できるマイホーム

サント・アマーロ市のヴィーダ・ノーヴァ集合住宅(photo by AESCOM/MCid)

 政権の移行によって行政の計画が中断されることが珍しくないように、Minha Casa, Minha Vidaも前ボルソナロ政権下では、名称が変更され、規模が縮小されていた。

 現政権は発足直後の1月中に、18万6千軒の住宅が、未完のまま廃屋さながらに放置されていたり、未整備のまま入居者が暮らしていたりしているのを確認し、計画の再構築に乗り出したのだった。

 住宅への入居希望者は、持ち家を所有していないことが条件で、自己申告による収入や社会的地位に関するデータが審査されて選ばれる。入居者の資格として、ボルソナロ政権下では、月間世帯収入が2,640レアル(約7万9千円)以下の家族は対象外として切り落とされていたが、現政権ではこのような最下層の世帯を再び対象としたうえで、建設される家屋の50%をこの層の市民に充てることを発表した。

 住宅の形態は、一軒家から高層団地までさまざま。所在する都市の規模や、都市中心部の距離などによって、価格の上限が公表されている。

サンパウロ州ベルチオーガ市のアパートをローンで購入したカティ・カロリーネ・ドス・サントスさん(photo by AESCOM/MCid)
カティ・カロリーネ・ドス・サントスさん家族、ベルチオーガ市長(左)と連邦政府都市省大臣(右)(photo by AESCOM/MCid)

 例えば人口10万人以下の地方の自治体の一軒家なら13万レアル(約388万円)、人口75万以上の大都市(これにはサンパウロ市も含まれる)のアパート一軒なら16万4000レアル(489万円)までの販売価格の上限が定められている。

 これらの家屋を販売するに当たり、購入希望者には世帯収入に合わせた補助金が与えられる。月間世帯収入が2,640レアル以下の世帯を「グループ1」、2,640.01レアル以上4,400レアル以下を「グループ2」、4,400.01レアル以上8,000レアル以下を「グループ3」とし、グループ1・2に対しては、5万5,000レアルの補助金が支給される。またすべてのグループで最長35年までの住宅ローンを政府系銀行で組むことができる。

 金利は世帯収入により異なるが4.5%から8.16%と、不動産ローンの平均的な利率より低く抑えられている。それでも住宅200万軒を提供する国家の大規模プロジェクトであるため、かつてのアメリカのサブプライム問題のような債務不履行の多出が生じないことを期待したい。

再び“飢餓国”入りしたブラジルの政策として

 ルーラ大統領を筆頭とした労働者党(PT)主力の政権による、給付金の支給やMinha Casa, Minha Vidaなどの低所得者待遇は、政権・政党への支持獲得のための“ばら撒き”だと非難する声は少なくない。

 しかし、パンデミックの影響もあって昨年、ブラジルは8年前に脱した国連のハンガーマップに再び“飢餓国”として指定された。この場合の飢餓国とは国民の2.5%以上が日々の食料確保に困難である状況の国を指し、ブラジルは昨年この数値が4.1%であった。世界に名だたる農業大国であるにも関わらずだ。

 従来から貧富の格差は著しいが、更に拡大している現在、より多くの国民に住環境を提供するプログラムは採って然るべき政策だろう。

仁尾帯刀(にお・たてわき)
ブラジル・サンパウロ在住24年。フリーランスフォトグラファー兼ライター。写真作品の発表を主な活動としながら執筆を行う。写真・執筆の掲載メディアは「Pen」(CCCメディアハウス)、「美術手帖」(美術出版社)、「JCB The Premium」(JTBパブリッシング)、「Coffee Break」(全日本コーヒー協会)など。海外書き人クラブ会員。

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