海外トピックス

2024/9/1

vol.420 ショッピングモールを中心とした街づくり【南アフリカ】

家族で安心して過ごせる場所

 南アフリカは、治安が悪い。これは国外からの旅行者や長期在住者だけでなく、南アフリカで暮らす南アフリカ人にとっても共通の認識である。特に治安悪化が問題となっているのは都市部が中心で、国内最大都市のヨハネスブルグは「世界最凶都市」と形容されるほどだ。

高層ビルが密集するヨハネスブルグ中心部だが、治安悪化により郊外へオフィス移転や住民の転居が進む。

 となると、普段の買い物から週末の娯楽まで、人々が安心して過ごせる場所が必要だ。その役割を担っているのが、ショッピングモールである。多くのショッピングモールでは、施設内や駐車場に警備員がいて、監視カメラが設置されているため、“比較的”犯罪が起こりづらいと考えられている。

 少し古い2018年の発表だが、南アフリカショッピングモール協会によると「南アフリカは世界で6番目にショッピングモールが多い国」という。場所によっては、異なるショッピングモールが道路を挟んで向かい合っていることもある。日本や他国同様に、スマホの普及率は9割を超え、オンラインショッピングも充実してきているものの、実際にオンラインでの売上は小売売上全体の約6%にとどまっており、日本の37.5%(2022年の市場規模)とは大きな差がある。2024年5月にはAmazonが南アフリカでもサービスを開始したものの、あまり快調とは言えない状態だ。

 週末にショッピングモールを訪れると、様々な人種の人々が家族や友人たちと楽しそうに過ごしている。買い物以外にもカフェやレストラン、映画館、スケートリンクまで、施設が充実しているショッピングモールは、南アフリカの人たちにとって欠かすことのできない存在だ。

 国内外のブランドやスーパーマーケット、ドラッグストアなど多数のテナントが出店するショッピングモール

自治体から治安改善と雇用創出が期待されるエリア開発

 南アフリカの治安が悪い要因の一つは、30%超えという高い失業率。所得の不均等さを表すジニ係数では、世界ワーストが南アフリカ。貧富の差が世界で一番大きい。

 ショッピングモールは、この失業率の改善にも一役買っている。ショッピングモール開発により、建設から開業後まで、数千人規模の雇用が創出できるからだ。さらに、ショッピングモールを中心に地域が整備され街が形成されることで、周辺の治安改善も期待されている。

「ゲートウェイ・シアター・オブ・ショッピング」(ダーバン)周辺に整備された公園。普段は近隣オフィスで働く人たちの憩いの場として、休日にはマーケットやライブなどイベント会場となる
夕方の乗り合いタクシー乗り場は、ショッピングモールや近隣施設で働くスタッフ(主に黒人)で混雑する

 首都プレトリアと最大都市ヨハネスブルグの間にあるハウテン州ミッドランドでは、不動産投資信託企業Attacq社が開発するウォーターフォールシティの開発が進んでいる。2016年、このプロジェクトで最初に開業したのが、総賃貸面積(GLA)13万平方メートル、300以上のテナントを擁するショッピングモール「モール・オブ・アフリカ」だ。その後、世界大手製薬会社ノバルティスや、世界4大監査法人のPwCやデロイトのオフィスビルが建設され、複数企業が入居するオフィスパーク、教育機関、ホテル、ハウトレインの駅などの建設・開業が続いている。隣接する住居街も徐々に広がっており、公園やウォーキングコースの整備も進んでいる。

 2016年時点の調査では、このプロジェクト全体の経済波及効果は総額約900億ランド、間接的な経済波及効果は1342億ランドと推定されており、完成までに86,000人の雇用が見込まれている。地域の雇用拡大や不動産価値の増大、税収の増加を見込み、自治体であるハウテン州のさらなる投資も決定した。

 他の地域でも、ウォーターフォールシティ開発を参考に、自治体を巻き込んだ開発が続く。インド洋沿岸にあるクワズールー・ナタール州では、同州最大都市ダーバンと州都ピーターマリッツバーグの間で総額300億ランド規模のウェスタウンを建設中だ。不動産開発・運営を手掛けるFundamentum Property Groupが率いるこのプロジェクトでも、最初に開業するのはショッピングモール。ウォーターフォールシティ同様に周囲には住宅やオフィス、物流倉庫などが開発され、近隣道路も整備される予定だ。

建設中のウェスタウンの様子。大部分がまだ更地だが、来年3月のオープンに向けてショッピングモール「ウェスタウン・スクエア」の建物だけは建設が進んでいる
2017年に開業した「バリート・ジャンクション・リージョナル・モール」(ダーバン郊外)からは、近隣で建設中の住宅街が見える

開業ラッシュの裏では課題も

 総賃貸面積1万平方キロメートルを超える大型ショッピングモールだけでも、直近2年間で10軒以上が開業。その一方で、投資の面では雲行きが怪しくなっている。小売業全体の売上減少の影響を受けていたり、テナントの空室率が上がっていたりと伸び悩んでいる側面があるためだ。オーナー権が売りに出されることも珍しくない。

 国内最大の総賃貸面積17.8平方メートルをもつ「フォーウェイズ・モール」(ヨハネスブルグ)では、好立地にもかかわらず空室率が17%で財政難が続いている。2024年第一四半期における巨大ショッピングモール(総賃貸面積8万平方キロメートル以上)の平均空室率は6.29%であり、前述した「モール・オブ・アフリカ」は総賃貸面積こそ国内8番手だが空室率は4.38%と好調だ。

 実際のところ、各ショッピングモールに入居するテナントはどこも似たり寄ったりだ。テナントの入れ替えやポップアップストアの誘致、共有スペースでのイベント開催による話題性で来場頻度の向上に努めたり、マーケティング会社が介入してリブランディングを行い顧客満足度の改善を狙う動きも進んでいる。

「フォーウェイズ・モール」の吹き抜けエリアで開催されたイベントの様子。他都市で人気のコーヒーショップが集結
他都市で話題のチケットレスサービス導入をアピールする精算機。「ギャラリア・モール」(ダーバン)
「ローズバンク・モール」(ヨハネスブルグ)では、毎週日曜日に最上階の駐車場でクラフトマーケットが開催されている
Googleレビューを参考にした人気ショッピングモールランキングでは首位独走中の「ヴィクトリアワーフ・ショッピングセンター」(ケープタウン)。総賃貸面積ではトップ10圏外で、ショッピングモールの規模は人気と比例しないことが証明されている

村上 未来
旅行会社勤務、外資系航空会社機内誌編集長を経て、2022年より夫の海外駐在に帯同し南アフリカ共和国で生活。南アフリカ観光局SA Specialistプログラム修了。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibit o.com/)会員

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