水もなければ橋もない川
オーストラリア大陸の中心部にアリススプリングスは人口約2万6000人の街があります。人口的にはさほど大きくない街ですが、大陸南部の大都市アデレードと北部の中都市ダーウィンの中間地点であり、また世界遺産でもあるウルル(エアーズロック)などの観光拠点であるため、多くの旅行者を集めて賑わっています。
このアリススプリングス、町から50キロほどしか離れていないあたりから広大なシンプソン砂漠が広がることからもわかる通り、あまり雨が降りません。年間降水量は約300ミリで東京の5分の1ほど。しかもその少ない雨も夏場に集中して、冬場にはほとんど降りません。8月(南半球に位置するので季節が逆転します)の月間降水量は1ミリ。「ほとんど降らない」と言っていい状態です。
というわけで8月に訪れると「緑の少ない赤茶けた大地」という印象。ちなみに赤茶けているのはオーストラリアの大地が鉄分を多く含むためです。
そして川にもまったく水は流れていません。というかそもそも川を横切る道路が「橋」になっていない場所がほとんど。雨が多い時期でもたいした水量にはならないため、川を横切る道路の上に冠水させて流しているのです。
青々としたゴルフコース。その驚きの理由は?
そんな雨が少ない場所でもゴルフコースやスポーツグラウンドは青々としています。上空からの写真で見てみましょう。
この「アリススプリングスゴルフクラブ」は「世界の砂漠ゴルフコース10選」だけでなく、「オーストラリアのゴルフリゾート25選」にも入っているほどの素晴らしいコースです。
グリーンはもちろんフェアウェイも青々としていますよね。「ああ、人工芝か?」と思われた方もいるかもしれませんが、これがれっきとした天然芝。雨が多い夏ならまだしも冬では維持が大変そうですが、どうやって実現しているのでしょうか。
じつは「下水をリサイクルした水」を用いているのです。もちろん下水をそのままでは匂いも強烈でしょうし、スプリンクラーで撒いても最近などが空中に漂い健康被害が出そう。だからフィルターで越したり塩素などで科学的に処理したりして、安全な状態にして使用しているのです。
大都市でも「下水を飲用水に」の計画が!?
さてこの下水の有効利用。砂漠の街アリススプリングスだけの話でありません。じつは人口約124万人のブリスベンでも15年以上前に計画されたことがありました。
エルニーニョ現象が起こるとオーストラリア大陸東部の降水量が減るのですが、このときはブリスベンの水がめであるダム全体の貯水量が16パーセントにまで減少。このときは「庭の芝生などへの散水」も「洗車」も禁止。「シャワーも3分以内」と呼びかけられ、各戸にはシャワールームの壁にくっつけられる吸盤付きの砂時計も配布されたほどです。
そして実際に下水を水がめであるダムに戻すパイプラインの工事も始まりました。背に腹は代えられないということで、苦肉の策でした。
ただその後雨量が増えてダムの水量も戻ったため計画は立ち消えになりましたが……。
「安全と水はただ」と言われてきてまさに「湯水のごとく」水を使ってきた日本。ただ最近はは夏場のダムの貯水量が極端に減る年もありますよね。
「水の大切さ」を実感しながら生きていきたいものです。
柳沢 有紀夫
オーストラリア・ブリスベン在住に在住。オーストラリア関連の書籍以外にも『値段から世界が見える!』(朝日新書)、『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか?』(新潮文庫)、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)、『世界ノ怖イ話』(角川つばさ文庫)など著作も多数。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)のお世話係。