記者の目

2005/12/7

初の「環境共生」タワーマンションが完成

地域親和に注力した大京「ライオンズタワー月島」

 (株)大京の「ライオンズタワー月島」が、2005年11月25日完成した。超高層タワーマンションとしては日本で初めて、(財)建築環境・省エネルギー機構の「環境共生住宅」認定を受けた物件だ。地域親和と環境共生への取り組みは半端ではない。従来、環境共生住宅といえば、従前の環境を生かした「環境共生」が主眼だったが、「月島」は一から環境創造を行なったうえ「地域親和」に力を入れたのが特徴。下町のよき情景である路地を寸断することなく再生し、建物敷地を積極的に近隣に開放するなどしている。とかく、環境破壊のイメージが付きまとうタワーマンションのあり方を、180度転換させる力を持った物件だ。

「ライオンズタワー月島」外観
「ライオンズタワー月島」外観
以前は大手運送外車の配送センターだった敷地(写真上)が、周辺に開放された緑溢れる空間(下)になった
以前は大手運送外車の配送センターだった敷地(写真上)が、周辺に開放された緑溢れる空間(下)になった
 
 
周辺の街並みとの連続性を実現した「路地」の再生
周辺の街並みとの連続性を実現した「路地」の再生
桟橋をイメージしたオブジェ「月見の桟橋」
桟橋をイメージしたオブジェ「月見の桟橋」
「渡し舟」のオブジェ
「渡し舟」のオブジェ

下町の「路地」をマンションで再生する

 「ライオンズタワー月島」は、中央区佃2丁目(東京メトロ有楽町線・都営大江戸線「月島」駅徒歩1分)に位置する、敷地面積約4,700平方メートル、地上32階建て総戸数281戸のマンション。建設地は、ヤマト運輸の配送所跡地。周辺は、東京大空襲でも被害を免れた古くからの住宅地で、細い路地に囲まれた低層住宅が連なっている。用途地域も、第二種住居地域だ。その一方で、敷地周辺にはそれら低層住宅を「威圧」するかのように、超高層マンションが点在し、コントラストをなしている。

 そうした事情もあり、大京は「地域環境との融合」をコンセプトに、周辺街並みとの連続性、佃・月島の歴史ある情景を盛り込んだランドスケープ、威圧感を与えないデザイン、そして緑が乏しかった敷地に緑をふんだんに施した環境創造を行なうこと等を盛り込んだ商品企画を提案。周辺住民もこれを受け入れたというわけだ。ちなみに、共用施設として町内会施設も設けているが、これはマンション建設の「妥協案」として設けられたのではなく、中央区側から打診があったものを、大京が受け入れたもの。いかに、この計画が住民に歓迎されたものであるかを証明するエピソードだ。

 最も大きな特徴が、周辺に伸びる「路地」を、そのままマンション敷地に引き込んだこと。このマンションの周辺には、低層住宅を縫うように幾本もの「路地」が走っている。日本の古きよき光景であり、「佃」という街のシンボルでもある。だが、従前はこの路地がこの敷地により寸断されていた。この路地を敷地内で繋げるため、敷地内に4本の路地を走らせた。もちろん、この路地は外部に解放され、周辺住民が自由に通行できる。近頃のマンションは、セキュリティを強化するあまり、まるで「篭城」のように外部から遮断した空間となっているものが多いが、「月島」はマンションそのもののセキュリティは強化しつつ、周辺環境との連続性を持たせた。容積率は603%が許されるところを400%に納め、空地率は実に63%。タワー面積率は25%だから、共用施設を除いた空地率だけ見れば75%。いくら高層化しているとはいえ、「常識外れ」の開放率となる。
 「開放感」を増す取り組みとしては、1階の階高を11mとし、大型のガラスカーテンウォールにより構成される「フローティングタワー」としたことも特徴。11mとは、周辺木造家屋の高さであり、この高さまでの空間に拡がりを持たせていれば、視覚的圧迫感が低減するからだ。
 こうして敷地を解放しながら、大小7つの庭園など、敷地のいたるところにコミュニティ空間を設置している。そうした空間には、地域文化を継承として桟橋をイメージしたオブジェ、渡し舟のオブジェ、道祖神のオブジェなどを設置。路地を含めたマンションの腰周りは、周囲の環境と見事に融和している。もちろん「環境共生住宅」としての環境創造にも力を入れており、駐車場は地下に埋設。敷地を取り囲むように植樹された約1万3,000本もの緑が、都市型マンションには無縁な四季の彩を添えている。

 肝心の住戸はというと、オール電化を採用し、SI工法により水周りも含めた間取りの可変性を持たせた。専有面積56~190平方メートル、78戸が100平方メートル超。価格は80平方メートル台の3LDKが7,000万円台、坪単価233万円と発売当初はほぼ相場並みだったが、「湾岸人気」はさらに高まっており、今となっては割安感もある。昨年7月から販売を開始。約3,000組の来場者を集め、半年間で完売した。

なぜ増えぬ「環境共生住宅」

 大京は、「環境共生住宅」に対し真剣に取り組んでいる、ほとんど唯一のマンションディベロッパーだ。同社は、民間ディベロッパーとして初の環境共生マンション「グリーンティエラ星が丘」(扶桑レクセルとのJV)を2001年に供給したほか、02年には「団地供給型」としては初の認定住宅となる「フォレストレイクひばりが丘」を供給。既存樹と一体になって溶け込んだ低層マンション群は、関係者の度肝を抜いた。その後は、今回紹介した「月島」や「エルザ世田谷」など、超高層マンションの環境共生住宅にもチャレンジしている。

 (財)建築環境・省エネルギー機構が1999年から開始した「環境共生住宅認定制度」だが、認定住宅は一向に増えない。首都圏では、団地供給型・個別供給型合わせてわずか15事例にとどまっている。理由は簡単だ。認定を受けるには、「カネ」も「時間」も「手間」もかかるからだ。環境共生住宅認定を取得するには、環境への配慮、耐久性、省エネルギー、バリアフリー、室内空気質で一定要件をクリアしたうえで、「提案類型」と呼ばれる独自の提案を最低2項目しなければならない。もちろん、地域住民の反対が起きた場合は、認定が受けられない。さらに、認定を取ったからといって高値で売れるわけでもなく、事業者や購入者に対する税制等の恩恵などもない。これでは、「利益優先」のディベロッパーでは触手が伸びないのは当たり前だ。
 しかし、「環境問題」は、いまや全産業界の重要なテーマでもある。そうした重要な問題に真摯に取り組む姿勢があってこそ、ディベロッパーとしての存在価値も高まるというものだと思うが、読者の皆さんはどう思いますか?(J)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。