記者の目 / 開発・分譲

2007/5/24

オフィス街ならではの再開発

丸の内再構築第一ステージ完了間近「新丸ビル」がオープン

 4月27日にオープンした「新丸の内ビルディング」。初日総動員数は10万人と好調なスタートを切った。そもそも同エリア一帯は、官有地であったものを、三菱地所(株)の全身である三菱社が1890年に払い下げを受け、開発を進めてきた地域。昭和30年代の映画や小説などにおいては「丸ビルに通う勤め人」が人々の憧れとして多く描かれている。しかし、そんな価値観は時の流れとともに次第に薄くなっていった。  そこで、同社は1998年、「丸の内」の再ブランディングを掲げた。「世界で最もインタラクティブが活発な街」をめざし「丸の内再構築」を進めるというもの。02年の「丸の内ビル」を皮切りに、同年9月に「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」、03年3月に「日本工業倶楽部会館・三菱UFJ信託銀行本店ビル」、04年8月に「丸の内OAZO」、07年3月の「サピアタワー」など13ものビルを建て替え、竣工。07年9月の「ザ・ペニンシュラ東京」の開業で、いよいよ再構築第一ステージが完了することとなる。

「新丸ビル」外観(右)。行幸通をはさみ「丸ビル」(左)
「新丸ビル」外観(右)。行幸通をはさみ「丸ビル」(左)
「ビジネスエンパワーメントゾーン」のラウンジ。カフェのような内装となっている
「ビジネスエンパワーメントゾーン」のラウンジ。カフェのような内装となっている
「エコッツェリア」内のサロンゾーン。デスクなどにも木材を使用している
「エコッツェリア」内のサロンゾーン。デスクなどにも木材を使用している
「日本創生ビレッジ」内のオフィススペース。少人数からでも入居できる
「日本創生ビレッジ」内のオフィススペース。少人数からでも入居できる

商業ゾーンのターゲットは「大人の男性と女性」

 「新丸の内ビルディング」(以下、「新丸ビル」)は、JR「東京」駅と皇居を結ぶ行幸通をはさんで「丸の内ビルディング」(以下、「丸ビル」)と向かいあわせ。「丸の内 OAZO」も併せた東京駅西側のエリア、いわゆる「丸の内」の回遊性を狙っている。

 地上38階地下4階、敷地面積約1万平方メートル、延床面積約19万5,000平方メートル。コンセプトデザインに英国のマイケル・ホプキンス卿を起用。クラシックな外観と内装は、新しいビルにありがちな近未来的なものではなく「落ち着き」のある雰囲気に仕上げた。特に東京駅側の入り口は、アーチが連なる空間に専門店が建ち並ぶ“パサージュ(フランス語で小径の意。商店街のこと)”となっており、まちの中を散歩するように買い物をすることができる。

 地下1階~地上7階に位置する商業ゾーンは“素敵な空間”をテーマに「大人の男性と女性」がターゲット。ちなみに「丸ビル」のターゲットは「丸の内OL」であり、新丸ビルは顧客層を一段と広げたことになる。

 入店している店舗は高級感がありつつも、手が届く価格帯を扱うものも多い。例えば、丸の内エリアで初となるコスメフロア「マルノウチボーテ」には人気ブランドや女性誌と連携したサロンなど12店舗が入店。また、男性ファッション店ではオーダーメイドのスーツを扱う店舗が複数入店している。
 商業ゾーンの中には、飲食店40店舗が出店、日本初進出となる世界の各店も多い。中には同社が直接出店依頼をしたという下町の名店・ホルモン専門店の「日本再生酒場」もあり、大注目だ。なお、10店舗は26時まで開いている。ハードワーカーの多いビジネス街ではうれしいサービスだろう。同社では初年度売り上げ220億円、来場者数2,000万人を見込んでいる。

ジムやエコ創造施設など、一味違うオフィスエリア

 10階~37階はオフィスゾーンとなっている。基準階では天井高2.85+OAフロア15cm、有効面積3,000平方メートルの大規模空間を実現した。
 9階の「ビジネスエンパワーメントゾーン」は、同ビル入居テナントの共有スペースとなっており、最大200名収容可能な貸し会議室や約1,100平方メートルのラウンジ、1日500円で利用できるジムなど、通常のオフィスビルにはない施設が設置されている。

 10階に誕生する「エコッツェリア」は、新たな環境共生技術やライフスタイル変革のためのソフトウェアを生み出す“エコを創る広場”。大会議室などから構成されるサロンゾーンと、丸の内の環境データをリアルタイムで見ることができるマルチタッチディスプレイなどを設置したコミュニケーションゾーンの2つからなっており、有限責任中間法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会の活動拠点となる。同協会は丸の内エリア内の環境活動、ビル設備やインフラの効率化・最適化などの環境技術を実証する予定で、この場で生み出された環境活動や技術を同エリア内の企業に対し導入を働きかけるとともに、セミナーやイベントを開催、丸の内発の「環境文化」の創造をめざす。

 ちなみエコッツェリア内では、「旧・新丸ビル」で使用されていた板ガラスをパーテーションとして再利用。ここでも“エコ”を実施している。
 
ベンチャー企業を育てる「日本創生ビレッジ」

 近年、新しいビルの竣工が相次いだ。そのため、「結局、どこも同じなのではないだろうか…」と思われる向きも少なくはないだろう。物見遊山でわざわざ来訪するエンドユーザーは目新しさが薄れたら、足を運ばなくなる(そもそも多くの商品は店舗に行かずともインターネットで家にいながら買い物ができる)。“エコ”でさえ定着してしまえば特色とはならないだろう。それではブランディングの一環として、新丸ビルの特色をどのように打ち出し、どのようにリピーターを獲得するか…。

 それは、このまちでどのように人を育むかにかかっているのではないだろうか。そして、ここで1人前のビジネスマンや企業家として新生した人々に、まちに対し、いわば帰巣本能のような愛着を持ってもらうことが何よりも効果的なのではないだろうか。

 そういった意味で、最も注目できるのが10階にオープンする日本初の“新事業の創造拠点”、「日本創生ビレッジ」だ。
 日本創生ビレッジの目的は、ベンチャー企業を支援し育てること。「丸ビル」から移転した新事業や人的ネットワークの創出をめざす個人メンバーである「東京21Cクラブ」(会員数480名)や、事業初期段階にあるベンチャー企業をターゲットに、オフィスを小割で貸し出す。
 利用料の負担軽減を図るインセンティブプログラムを用意するほか、産学連携担当教員や会計士も参画、入居者に対し総合的な支援を進めていく。
 なお、同社は、これらのサービス提供の対価として新株予約権を取得、互恵ビジネスモデルを構築した。こういった仕組みも、企業が集中している丸の内ならではだろう。

 「拡がり」「深まり」をめざし丸の内再構築は、いよいよ「第二ステージ」に進むことになる。第二ステージでは「丸の内」と「有楽町」の結節点に位置する、「三菱商事ビル」「古河ビル」「丸ノ内八重洲ビル」の一挙建て替えなどが行なわれる予定だ。
 三菱地所では、大手町・丸の内・有楽町地区全体の一体的な更新を進めていくとしているが、すべてのステージの完成形を見てみたい。(中)

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