記者の目 / 開発・分譲

2007/8/28

復権するか、郊外型のまちづくり

分譲開始から2年、近鉄不動産「手賀の杜」をみる

 ここにきて、郊外型の大規模建売団地が人気を集めている。都市型のマンションライフでは得られない豊かな自然環境、子育て世代が安心できる街全体の防犯性、あるいは戸建住宅ならではの広さがウケているようだ。こうした大規模団地を最も得意とするのが「電鉄会社」であり、彼らの分譲する質の高い郊外型団地が、郊外型建売市場復権のカギを握っている。今回は、電鉄会社の中でも大規模団地開発に積極的な近鉄不動産(株)が手がける「近鉄・柏ニュータウン ローレルヒルズ手賀の杜」(千葉県柏市)を紹介したい。

「近鉄・柏ニュータウン ローレルヒルズ手賀の杜」。分譲から2年半が経過し、美しいまち並みが整ってきた
「近鉄・柏ニュータウン ローレルヒルズ手賀の杜」。分譲から2年半が経過し、美しいまち並みが整ってきた
「コミュニティ道路」は、U時型道路の「底」にあたる部分を結ぶ、幅8mの道。インターロッキング舗装がなされ、車は通り抜けできない
「コミュニティ道路」は、U時型道路の「底」にあたる部分を結ぶ、幅8mの道。インターロッキング舗装がなされ、車は通り抜けできない
「コミュニティ道路」に面する「コミュニティ街区」は、分譲が行なわれる度に大人気となる。これまで80戸あまりを販売
「コミュニティ道路」に面する「コミュニティ街区」は、分譲が行なわれる度に大人気となる。これまで80戸あまりを販売
住民がワークショップを通じて企画し、自ら作り上げた「ひだまりの公園」
住民がワークショップを通じて企画し、自ら作り上げた「ひだまりの公園」
地下に埋設した調整池の上を公園として利用した「スポーツ広場」
地下に埋設した調整池の上を公園として利用した「スポーツ広場」
コミュニティハウス内階段に書かれた黒田征太郎氏のかわいいイラスト。住民の子供達の絵も添えられている
コミュニティハウス内階段に書かれた黒田征太郎氏のかわいいイラスト。住民の子供達の絵も添えられている
「手賀の杜」入口の銘板も、黒田氏の手書き。公園の案内等のデザインも同氏が手がけている
「手賀の杜」入口の銘板も、黒田氏の手書き。公園の案内等のデザインも同氏が手がけている
ガスを使ったマイホーム発電機「エコウィル」を全戸に導入。オール電化を上回る省エネ性を発揮し、排熱利用で環境にもやさしい
ガスを使ったマイホーム発電機「エコウィル」を全戸に導入。オール電化を上回る省エネ性を発揮し、排熱利用で環境にもやさしい

首都圏屈指の湖「手賀沼」に隣接

 同団地は、JR常磐線「我孫子」駅からバスで14分(もしくは同線「柏」駅からバス23分)に立地する、総開発面積約49ha、計画戸数1,650区画(うち同社分譲分は740戸)と いう大規模ニュータウンだ。
 開発地は、柏市湖南特定土地区画整理組合が施行する土地区画整理事業地で、同社は1990年、地域地権者と「土地区画整理事業の推進に関する基本協定」を締結。2001年の組合発足を受け土地区画整理事業業務代行を請負、造成を開始。05年4月から分譲を開始している。

 団地が面する「手賀沼」は、千葉県柏市と我孫子市にまたがる広さ約650ha、7市1村を流域とする首都圏屈指の湖。かつては、「日本一汚い」という水質汚濁で不名誉なレッテルを貼られていたが、自治体や周辺住民の努力で劇的に改善されており、水辺空間の整備も進んでいる。開発地は、この手賀沼を北側に望む高台で、おおらかな水辺と緑が借景として楽しめる。もちろん、団地内もふんだんに緑が設けられており、都心では味わえない「LOHAS」的生活が楽しめる。

 最寄駅にはバス移動となるアクセス難はあるものの、都心へは1時間圏内でアクセスできる。また、管理組合により、小学校や商業施設を循環する住民専用のタウンバスも運行されるため、日常生活にそれほど不便は感じまい。

ふれあいと緑化がテーマの「コミュニティ道路」

 ランドプランは、手賀沼から柏方面へ抜けるメインストリートを軸に、手賀沼寄りを「イーストヒルズ」、柏よりを「ウエストヒルズ」として開発。最低敷地面積を150平方メートルに制限するなど地区計画を策定。区画間の距離がたっぷり採られており、通風・採光に配慮している。
 区画内道路は幅員5m以上を確保し、歩行者専用の緑道も設置。通りごとにシンボルツリーを配している。オープン外構を基本とし、夜になると自動点灯するガーデンライトは、街区のライトアップ効果と防犯効果を備える。計画戸数の半数近くを分譲する同社により、街区ごとに建物の形や色彩がコントロールされている。

 同団地の大きな特長となっているのが、「コミュニティ道路」だ。同団地内の道路には、一直線に通り抜けできないよう、意識してU型に湾曲させている部分がある。この「U」字の底にあたる部分を結ぶ、幅8mの道が「コミュニティ道路」である。
 歩道部分はインターロッキング舗装がなされ、ふんだんに植栽を施した車止めを設置しているため、車が通り抜ける心配が無い。また車道においては、「U」字型のカーブによって、入ってくる車の車速は大幅に落ちるうえに、そもそも通り抜けを目的とした道路ではないため、限られた車しか入ってこない。
 つまり、道路というよりは、道路に面した住戸同士のコミュニティ空間に近い造りとなっている。主婦同士の井戸端会議にはもってこいだし、子供たちも安心して遊ばせることができるスグレモノだ。

 また、広さ約1万5,000平方メートルの中央公園を筆頭に、イーストヒルズだけで大小5つの公園を設置。面白いのは、これらの公園が「調整池」の上に造られているということ。調整池は、防災目的に一定規模の住宅地に義務付けられているが、まちの美観を損ねるだけでなく、子供が遊んでいて溺れたり、害虫が発生したりと、大雨が降らなければ「百害あって一利なし」の施設である。それをコストをかけてまでわざわざ地下に埋設し、さらに地上空間を緑化までしたわけだから、同社のまちづくりに対する意気込みが伝わってくる。

黒田征太郎氏も支援 住民自らがまちづくり

 同団地は、開発当初から住民のコミュニティ作りを支援し、住民自らがまちづくりに参画していくことをめざしている。

 同社では販売開始前から、地域の人々とのコミュニティ形成を目的とした「趣味と文化」「食と暮らし」「遊びと学び」の3つのフォーラムを立ち上げ活動を推進。5つの公園の1つ「ひだまりの公園」は、住民自らが考えて公園を作ることを目的に、ワークショップを設置。全体のレイアウトから遊具、樹木の選定まで住民自らが行なった。
 また、管理組合が中心となったコミュニティ活動も盛んで、菜園貸し出し、田植え、夏祭り、サークル活動などが展開されている。
 現在は、新しいコミュニティハウス建設に向けたワークショップが行なわれており、08年3月に完成する予定だ。

 また、まちづくりのサポーターとして、イラストレーターの黒田征太郎氏を起用。販売センター(コミュニティハウス)やタウンバス、公園などの案内看板にオリジナルのイラストや書き文字を提供しているだけでなく、公園造りなどのまちづくりイベントで住民と一緒になって参加している。

「エコウィル」全戸設置で環境に配慮

 同社販売分の住戸は、これまでに10期にわたり285戸が販売済みで、3年で「イーストヒルズ」の分譲に目処が付きつつある。郊外型の建売住宅は、年間50戸売るのも大変なご時世だけに、この数字は立派である。なかでも、コミュニティ道路に面した「コミュニティ街区」が、その安全性や居住性を評価され5期・80戸すべてが即日完売している。

 建物は2×4住宅で、期毎にさまざまなビルダーが参加している(最新11期は三菱地所ホーム(株)など)。専有面積100~120平方メートルの4LDKが標準だ。販売期間が狭間であったため住戸の見学ができなかったが、これまで販売してきた住戸は、リビングステア(階段)や、吹き抜け、可動間仕切りなどによる家族のコミュニケーション作りをテーマにしていた。

 また全住戸に、マイホーム発電「エコウィル」を導入。電気をガスによる発電で賄い、その排熱を給湯や暖房に利用することで、「オール電化」を上回る省エネ性能を発揮。環境にやさしいのが売りだ。ネックは初期導入コストだが、分譲価格は平均3,000万円~3,500万円であり、闇雲に転嫁された様子は無い。

 これまでのところ、購入者は柏市、我孫子市、松戸市の近隣3市で9割を占めるが、神奈川県や埼玉県からも、その環境と大規模団地ならではのスケールメリットを評価したユーザーが足を向けているという。

デベ冥利に尽きる大規模団地開発

 筆者は最近、郊外型の大規模建売団地を積極的に取材するように心がけている。ここ数年、分譲マンションを中心とした「都心回帰」にばかり注目が集まっていたが、「そう遠くないうちに、必ず郊外団地への回帰が起こる」と予想していたからだ。

 嬉しいことに、予想は当たった。環境問題の高まりとともに、LOHAS的生き方を志向するユーザーが増え始め、壊滅状態だった郊外建売市場にも、一筋の光明が見えてきた。なかでも、インフラにたっぷりコストがかかった大規模団地、土地区画整理事業の復活は嬉しい限りだ。

 「手賀の杜」のようにコンスタントに売れる団地はそう多くはないが、「開店休業」状態だった数年前とは違い、徐々に分譲戸数は増えている。こうしたまちが評価されることは、周辺地域にも悪いことではない。それこそ、「新たな付加価値を生み出す」という「ディベロッパー」冥利に尽きることではないだろうか。(J)

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