記者の目 / 開発・分譲

2007/10/2

「別荘」を持つマンション

共用施設に新しい提案 藤和不動産他「アクアテラ」

 ゲストルームにキッズコーナー、スポーツジムに温浴施設…。大規模マンションの差別化戦略として、これまでさまざまな共用施設が提案されてきたが、ついに共用施設に「別荘」を持つマンションが現れた。藤和不動産(株)他が販売している「W.W.W.ワンダーワイドワールド(アクアテラ)」(東京都足立区)だ。  業界初の試みである一方、その別荘を単なるリラクゼーションの場とするだけでなく、別荘を核にした入居者間のコミュニティー形成も行なっていくという。その別荘が、物件竣工に先立ち完成した。

共用施設として設けた3棟の別荘。藤和不動産による「那須ハイランド」でも、レストランやアミューズメントパークに隣接した恵まれたエリアに作られた
共用施設として設けた3棟の別荘。藤和不動産による「那須ハイランド」でも、レストランやアミューズメントパークに隣接した恵まれたエリアに作られた
全戸に大型のデッキが付いており、家族そろってのバーベキューなどが楽しめる
全戸に大型のデッキが付いており、家族そろってのバーベキューなどが楽しめる
既存林を伐採。広々とした芝生の広場を作った。子供たちを遊ばせるのにはもってこい
既存林を伐採。広々とした芝生の広場を作った。子供たちを遊ばせるのにはもってこい
3棟のうち1棟は、別荘地内を流れる渓流に面しており、川のせせらぎを楽しめる。渓流沿いには、3家族分のベンチも設置してある
3棟のうち1棟は、別荘地内を流れる渓流に面しており、川のせせらぎを楽しめる。渓流沿いには、3家族分のベンチも設置してある
マントルピースのあるリビング
マントルピースのあるリビング
お風呂は現地施工。壁にはヒノキが張り込まれ、天然石で囲まれた贅沢な作り
お風呂は現地施工。壁にはヒノキが張り込まれ、天然石で囲まれた贅沢な作り
3棟とも大きな吹き抜けを設けており、開放感がある
3棟とも大きな吹き抜けを設けており、開放感がある
 「当社は、ここ数年、マンションでの家族のつながり、入居者間のコミュニティー形成に力を入れてきた。そこで、その舞台として、別荘を使うことを考えた」と語る、藤和不動産・首都圏事業本部第三事業部長の南伸一氏
「当社は、ここ数年、マンションでの家族のつながり、入居者間のコミュニティー形成に力を入れてきた。そこで、その舞台として、別荘を使うことを考えた」と語る、藤和不動産・首都圏事業本部第三事業部長の南伸一氏
「アクアテラ」完成予想図
「アクアテラ」完成予想図

「ハコ作り」からの脱却で厳しい市況乗り切る

 「首都圏マンション市場は、一時の勢いに陰りが出てきている。このような中で、単なるハコ作りだけでは、お客様に本当の満足を与えることはできない。当社は、ここ数年、マンションでの家族のつながり、入居者間のコミュニティー形成に力を入れてきた。そこで、その舞台として、我々の大きな財産である『那須ハイランド』を使うことができたら、どれだけ素晴らしいか、と考えた」(藤和不動産・首都圏事業本部第三事業部長・南伸一氏)。

 南氏の指摘する通り、大量供給が継続し、あまつさえ「新価格」「新新価格」などと称した価格高騰が続くマンション市場に対し、ユーザーは厳しい目を向けている。そうした厳しい競合下での差別化策として、大規模マンションでは、さまざまな共用施設が競うように提案されてきたが、「住まいの本質」を求めるユーザーからの評価は芳しくなかった。
 また、近年はハードの質に加え、「そのマンションではどんな住まい方ができるのか」というソフトがより重要視されるようになった。

 こうした背景のなかでの「別荘」の提案である。なるほど、敷地内・建物内にある共用施設とは一味も二味も違う。マンション業界初の試みでもある。ただ、「別荘」と言っても、それ単体では「ハコモノ」である。では、同社は一体どんな仕掛けを用意しているのだろうか?

「買えば5,000万円」のコテージが3棟

 別荘は、栃木県那須郡の「藤和那須ハイランド」内にある。同地は、「東京」駅から新幹線でも車でも2時間強のアクセス。同社が1964年から開発を手がけてきた、広さ1,000ha、別荘区画数5,000、別荘棟数1,400棟を誇る一大リゾート地。アミューズメントパーク、ゴルフ場、テニスコート、サッカー場、温泉施設などのほか、生活利便施設等のインフラも充実。同社による通年管理が行なわれ、快適なリゾートライフが楽しめる。

 今回、用意した別荘は、同エリアの中核施設である「那須ハイランドパーク」に隣接する、広さ約3,500平方メートルの敷地に建設された、3棟のコテージ。建設地は、標高600mと同エリアでは低い場所に位置し、気候が安定していることからほぼ通年利用が可能。また、レストラン等の利便施設も近い。

 建物は、2×4工法のいわゆるコテージだが、高級部材であるレッドシダー(スギ材)を外壁に使用。また、多人数でのバーベキューも楽しめる大きなウッドデッキ、2層の吹き抜けにシーリングファン、リビングのマントルピース(暖炉)、現地施工の御影石張りバスなど雰囲気も抜群だ。風呂は、天然温泉が引き込まれている。そのまま販売するとしたら、4,500万円から5,000万円はするというから驚きだ。
 間取りは2LDK、広さは93平方メートルと101平方メートルが2棟。渓流に面する住戸は、子供のいない家族向けにアダルトな雰囲気に仕立て、残りの2棟は家族連れやファミリー、友人同士が楽しめるカジュアルなつくりにしてある。
 また、別荘周囲の敷地には、子供達が自由に遊べる芝生の広場や、散策路、渓流に面したベンチスペースなどを設置している。
 入居者は1室1泊2,000円(繁忙期5,000円)で1回2連泊まで借りることが可能。周辺のコテージは、最も小さなタイプでも一泊1万8,000円程度取られることを考えると、かなりの満足感があるはずだ。

 一方、共用施設としてのオペレーションは、これまでにはない工夫が必要となった。現行の区分所有法では、遠く離れた2つの建物を区分所有することができない。そこで、「アクアテラ」の建物所有者全員で構成する管理組合を法人化。その法人に同社が別荘建物・敷地と温泉受湯権を無償譲渡することで、組合員である所有者全員が別荘を利用する形態をとることにしている。

 また、そのオペレーションコストは毎月のマンション管理費・修繕積立費の一部が使われる(管理費からは900円、修繕積立金からは200円)。たとえ、別荘が「稼働率0%」としても、これだけの負担ですべてのオペレーションコストが充足できる。したがって、利用者の支払う利用料金は、まるまる管理組合法人の「別荘運営収入」となり、別荘に係る不測の経費に対しての予備費となる。

 組合そのものが、法人として「別荘事業」を運営していくこの手法。管理組合法人に柔軟性があれば、複数の同社マンションで別荘をシェアしたり、他社のマンション居住者に貸し出したりといった活用法も出てくるかもしれない。

別荘が入居者コミュニティーの舞台に

 同社は、この別荘を単なる「共用施設」、癒やしの空間として使おうとは考えていない。この別荘を舞台に、入居者のコミュニティーを活性化することを大きな狙いとしている。

 800戸以上の入居者が利用する別荘は、普段顔を合わせることのない入居者の出会いの場となる。敷地内には、入居者同士が集える場所がいくつも用意されており、コミュニケーションを図るには格好のシチュエーションだ。また、この別荘は、2戸同時に予約することが可能となっているため、気の合う入居者同士で同時に利用することもできる。

 家族間でのコミュニケーション、入居者仲間での利用、管理組合のイベント利用など、さまざまな活用方法が考えられそうだ。

「別荘」の良さ全面に出した販売戦略に転換

 最後になったが、「アクアテラ」そのものの紹介もしておきたい。

 同物件は、東京メトロ南北線「王子神谷」駅徒歩16分、隅田川と荒川に挟まれた再開発「ハートアイランドSHINDEN」内に立地する、地上17階地下1階建て・222戸のA棟、地上14階地下1階建て・203戸のB棟、地上18階地下1階建て・395戸のC棟からなる総戸数820戸のマンション。住戸は、平均面積97平方メートル超、100平方メートル超のプランが全体の4割を超える320戸と、東京23区内ながらゆとりある広さをウリにしている。

 特別贅沢な造りはされていない標準的なファミリー向けマンションだが、販売価格は、3,800万円台~7,500万円台、最多価格帯4,900万円台、平均坪単価170万円と、高騰が続く都内のマンション市場下では割安感がある。6月の販売開始から、これまでに1,700組が来場し、206戸を販売した。ただ、「別荘」を積極的に評価する購入者は、現場の感覚ではまだ「1割」程度だという。
 「これまで現場でも、完成予想図を見せるだけでしたから、その良さを伝えきれていなかった。別荘が完成し、販売担当者が見学できたことで、具体的にその良さを把握できた。今後は、購入希望者や購入者への現地見学会も開催していくほか、折込みチラシ等のプロモーションも別荘を全面に出していく」(首都圏事業本部第三事業部・高橋茂夫部長代理)。

 共用施設を建物の「外」に設けること、さらにそれを核にした新しい入居者コミュニティーのあり方の提案、という斬新な試みがユーザーにどう評価されるか。結果が楽しみだ。(J)

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