記者の目 / 開発・分譲

2008/12/25

ユーザーニーズに応えるということ

ナイスが全力を注ぐ「YOKOHAMA ALL PARKS」

 2008年、マンションは本当に売れなかったが、理由は明確で、いわゆる3P(立地、企画、価格)に代表されるマンションの商品要素が、ユーザーの求めるレベルとあまりにもかけ離れていたからだ。これをどれだけ縮めることができるかが、マンションディベロッパーにとっては、09年最大の課題となるだろう。  そうしたなか、“ユーザーが求めるもの”を謙虚に追い求め、商品化したマンションがある。ナイス(株)他による「YOKOHAMA ALL PARKS」(横浜市鶴見区、総戸数1,424戸)がそれ。立地と価格のバランスがよく、商品企画も地元ニーズにマッチさせた、「売れる要素」の詰まったマンションだ。

「YOKOHAMA ALL PARKS」完成予想図。「PARKS」の名の通り、敷地内に11もの公園が設置される
「YOKOHAMA ALL PARKS」完成予想図。「PARKS」の名の通り、敷地内に11もの公園が設置される
工事が進む現地。総面積は6haにも及ぶ。敷地奥(南側)に走るのはJR東海道線
工事が進む現地。総面積は6haにも及ぶ。敷地奥(南側)に走るのはJR東海道線
第1街区のメインアベニューに沿って、シラカシ並木が続く「セントラルパーク」は、イングリッシュガーデンをイメージしたもの
第1街区のメインアベニューに沿って、シラカシ並木が続く「セントラルパーク」は、イングリッシュガーデンをイメージしたもの
マンホールトイレ、防災水槽、かまど兼用ベンチなどが設置され、周辺も含めた防災拠点としての機能を持たせた「グランドパーク」
マンホールトイレ、防災水槽、かまど兼用ベンチなどが設置され、周辺も含めた防災拠点としての機能を持たせた「グランドパーク」
共用施設棟「パークスヴィラ」の屋上も緑化した
共用施設棟「パークスヴィラ」の屋上も緑化した
専有面積71平方メートルの4LDK。スパンは7.8mと広く、廊下面積を少なくするため、中入り玄関を採用。洋室3室とLD+和室とのPP分離を図っている
専有面積71平方メートルの4LDK。スパンは7.8mと広く、廊下面積を少なくするため、中入り玄関を採用。洋室3室とLD+和室とのPP分離を図っている
面積は限られているが、間口を広くとるなどして開放感を持たせたリビング
面積は限られているが、間口を広くとるなどして開放感を持たせたリビング
子供部屋は4畳大がメイン。でも、広さより「1人に1部屋あること」が子育て世代には重要なのである
子供部屋は4畳大がメイン。でも、広さより「1人に1部屋あること」が子育て世代には重要なのである

総面積約6ha。エリア最大級の開発規模

 同物件は、京浜急行本線「八丁畷」駅から徒歩8分、またはJR南武線「尻手」駅から徒歩11分に位置する、全11棟・総戸数1,424戸という大規模マンション。設計・施工は(株)長谷工コーポレーション。
 総面積約6haもの敷地はトラック工場跡だが、周囲は建売住宅やマンションが建て込んでおり、ごく一般的な住商混在エリアといって差し支えない。敷地の南東は運行本数の多いJR線に接しているが、建物は線路からセットバックされており、気になるレベルではないだろう。

 相鉄不動産(株)など3社とのJVとはいえ、商品企画は事業比率40%を握るナイスが主導。営業スタッフだけで26名を動員し、これから3年間かけて開発・販売していく、同社としては社運をかけた、過去最大のプロジェクトだ。そのため、商品企画の練りこみに、用地取得から実に3年をかけたという。
 幾分、慎重になりすぎた感もあるが、結果的にこれが良かったといえる。なぜなら、この間マンション価格は急騰しユーザー離れが起こり、景気の悪化の追い打ちもあり、市場は短期間で崩壊したからだ。
 同物件は、用地価格が高騰する前の取得だから、価格設定は弾力的にできる。あとはユーザーニーズをじっくり見据えた商品作りに注力すればよかった。

大規模ならではの作りこみと、安全・安心への配慮

 まず、大規模ならではの作りこみが、大きなセールスポイントだ。

 「PARKS」と名がつくように、敷地内には大小合わせて11の公園を設置。緑地率は40%、共用施設棟には屋上庭園も設置した。
 その1つ「グランドパーク」は、ソーラーライト、マンホールトイレ、防災水槽、かまど兼用ベンチ、上からシートをかぶせることでテントになるパーゴラなど、災害発生時には地域も含めた防災拠点としての機能を持たせた。自走式駐車場へのアプローチと歩道を立体交差にするなど、安全性の高い歩車分離の配慮もなされている。

 建物も、全棟に免震構造を採用。デザイン面では、エントランスと下層部を、同社マンションに共通する「レイヤードブラウン様式」(近代建築をモチーフに、スクラッチタイルやブラウンタイルを多用したデザイン)でまとめ、上部はライトブラウンのタイルとガラスバルコニーを組み合わせ、落着きとモダンな雰囲気を同居させている。
 縦25mの屋内プールや、認可保育園、キッズルーム、ゲストルーム2室、パーティルーム4室、居住者専用ショップなど、共用施設もスケールメリットをいかし充実させている。

根強いニーズがある「70平方メートルの4LDK」

 最も早く着工され、09年初頭から本格販売に入る第1街区は、3棟・310戸。住戸は3LDK・4LDK、専有面積58~82平方メートル。70平方メートル前後の4LDKが、過半数を占める。
 「ずいぶんと住戸面積が小さいな」「そんな小さな4LDKを欲しがるユーザーがいるのか」と思われる方もいるだろう。だが、この「小面積・多部屋」の商品戦略こそ、同社が10年以上続けている“専売特許”である。

 「ファミリー層には3LDKが売れると言いますが、売れるのではなく、それしかないから買っているのが実態だと思います。多くのファミリーでは、入居するときはともかく、子供が生まれ成長するにつれ、個室を多く必要とします。でも面積を大きくすれば、当社が得意とする横浜・川崎エリアでは、(平均的な取得可能価格の)4,000万円を超えてしまう。そこで、部屋数を多く設けながら面積を抑え、メニュープランの充実と家族構成の変化に合わせて柔軟に間取りを変えられる構造とすることで、ニーズに対応しているのです」とは、同物件を担当する、住宅事業本部首都圏営業部課長・上野浩氏の弁。

 総戸数50~100戸の小規模マンションが主力の同社は、「小学校の学区内で売り切る」と平田恒一郎社長が述べるように、個々の物件で、地元ニーズを徹底的に掘り起こし、それに合った物件を販売している。その過程で、横浜・川崎エリアのニーズを長年分析し生まれたのが、この戦略である。
 「続けている」「売れている」ということは、「ユーザーに支持されている」ことの裏返し。同物件も、1,000戸を優に超える大規模ではあるものの、「半径2~4km圏のユーザーメインで売っていく」(同氏)と、従来通りのスタンスを変えてはいない。

 もちろん、70平方メートルに部屋5つ(LDK含め)を作るのだから、1部屋の面積は限られる。LDは10畳前後、主寝室は6畳、他の部屋は4~5畳、収納も限られた広さしかない。通常であればスパンもせいぜい6m前後だろう。
 そこで同社では、廊下面積を減らし、中入り玄関でPP分離を図ったり、正方形に近い部屋配置により、70平方メートルにもかかわらず、8m以上のスパンを確保したりと、専有面積の圧縮はしても、ちゃんと使い勝手にも配慮している。

圧倒的な低価格。事前反響だけで100戸即完

 第1工区の販売価格は、最多価格帯3,900万円台、坪単価にして203万円程度。隣接する川崎駅周辺は坪単価250万円を突破し、もっと横浜寄りのエリアでも、このマンションより高いマンションは数多い。前記した通り、用地を高値掴みしなかった分、価格を抑えることができた。さらに、大規模ならではのプレミアムもある。

 ユーザーも、それをちゃんと理解している。今夏から始めた販促活動は、周辺エリアへのチラシ配布がメイン。にもかかわらず、9月末には事前反響が1,000組、物件会員も800組を突破してしまい、対応が困難になり、いったん告知を休止したほど。11月の会員優先分譲も、当初70戸の予定を100戸に増やした。もちろん、即日完売だ。

 地元ユーザーに認知され、商品企画と価格がついてくれば、マンションは自然と売れる。それは、好況だろうが不況だろうが関係ない。この至極基本的なことを、多くのディベロッパーは忘れてしまったのだろうか。(J)

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