記者の目

2009/1/9

賃貸維新 西から吹く風(2)

賃貸住宅の敷金・保証金をめぐるトラブル解決に向けた業界の取組み

 賃貸借の世界では、原状回復にまつわるトラブルが非常に多い。問題解決のため、国をはじめ、各自治体などでもさまざまな取組みがあるものの、いまだ大幅な減少には至ってはいない。そんななか、一地方である徳島で特筆すべき取組みが進められている。今回はそれについて、2回に分けて記してみたい。(「賃貸維新 西から吹く風(1)」のつづき)。

(社)徳島県宅地建物取引業協会が策定・運用している「協会ルール」運用店のステッカー。退去時の補修負担割合を明確することで、顧客の不安解消・信頼獲得をめざす
(社)徳島県宅地建物取引業協会が策定・運用している「協会ルール」運用店のステッカー。退去時の補修負担割合を明確することで、顧客の不安解消・信頼獲得をめざす
(社)徳島県宅地建物取引業協会のホームページでは、「協会ルール」についてわかりやすくアナウンスしている
(社)徳島県宅地建物取引業協会のホームページでは、「協会ルール」についてわかりやすくアナウンスしている
「賃貸維新」と銘打った「賃貸フォーラム in 徳島」のパンフレット。フォーラムでの旗揚げなるか
「賃貸維新」と銘打った「賃貸フォーラム in 徳島」のパンフレット。フォーラムでの旗揚げなるか
原状回復や敷金をめぐるトラブル防止のため、市場統一を視野に入れて開催された「賃貸フォーラム in 徳島」
原状回復や敷金をめぐるトラブル防止のため、市場統一を視野に入れて開催された「賃貸フォーラム in 徳島」
商慣習は、各地域の歴史や風土を反映しているものではあるが…(写真はイメージ)
商慣習は、各地域の歴史や風土を反映しているものではあるが…(写真はイメージ)

広がる徳島宅協の「協会ルール」

 こうした現状を鑑みた不動産業界団体は、「トラブルや紛争のない透明性の高い賃貸市場を構築しよう」と立ち上がった。
 先陣を切ったのは、(社)徳島県宅地建物取引業協会(徳島宅建協会)。
 
 トラブルが発生する原因は、原状回復や敷金、保証金をめぐる共通概念やルールが統一化されていないことによる。それならば、自分たちで率先して統一のルールを定め、それを全国に広めていこうと立ち上がったのだ。

 同協会は、補修費の負担割合に関するルール「協会ルール」を策定し、2007年3月1日より同協会に加盟する950社で運用を開始した。
 これは、国交省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をベースに定めたもの。
 「通常使用による損耗や経年変化による修繕費用は賃料に含まれる」とし、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧する場合は賃借人負担とした。

 さらにもう一歩踏み込んだ施策を同協会ではとった。
 貸主・借主それぞれが負担しなくてはならない補修費の基準を明確に策定し、契約書等で明示。入退居時の不動産会社の立会いを義務化したのだ。

 例えば、賃借人の過失により壁紙を数十センチ平方メートルだけ破損した場合、同協会のルールではどうなるか。

 賃借人が破損した部分だけを修理すると、同じクロスを使っても、新しく貼った部分とそうでない部分とで色が微妙に異なってしまう。
 そうした場合、色合わせのため、全面を補修することになるが、賃借人の負担はクロスの最低単位分のみ。
 正確にはクロス最低単位分からさらに通常損耗・経年変化分を除いた分を賃借人が負担する。色を合わせるための補修は貸主の負担となる。

 こうしたルールを浸透させ、認知・理解してもらうため、同協会では度重なる周知に努めてきた。
 宅建業者向けの研修会はもちろんのこと、家主向けセミナー、消費者向けパンフレットの制作・配布、さらに地元テレビ局にも協力してもらい、アナウンスした。
 もちろん、同協会ホームページでも、協会ルールの基本的な考え方とともに、貸主・借主の負担区分一覧表、借主の負担単位、補修費負担数式等を掲載。誰でもいつでも知ることができるようにしている(http://www.11-23.com/oshirase/kyoukai_rule.html)。
 こうした地道な努力の結果、徳島県内における賃貸借をめぐるトラブルは、ぐっと減少したという。


賃貸維新。
不動産業界団体が「賃貸フォーラム in 徳島」に結集

 
 西日本の多くの地域では、原状回復や敷金精算をめぐるトラブルや消費者からのクレームは依然、増加傾向にある。

 そこで、市場ルールの統一化を視野に入れ、西日本の不動産団体が集まって有効策や成功例、今後想定される諸問題について、協議を進めている。

 徳島宅建協会をはじめ、志を同じくする不動産業界団体が2008年11月11日、徳島に結集し、「賃貸フォーラム in 徳島」【主催:全宅連中国・四国地区連絡会(会長:松尾金士(社)広島県宅地建物取引業協会会長)、(社)徳島県宅地建物取引業協会(会長:出口建夫氏)】を開催したのである。賃貸住宅の商習慣をめぐり、これほど大きな集会が開かれたのは、初めてのことだといえるだろう。

 当日は中国・四国・九州の宅建業者ら約300人が参加。契約書・重要事項説明書の書式の工夫や、入居時の立会いによる原状確認の必要性などについて報告されたほか、徳島宅建協会が採用している「協会ルール」の補修費負担の考え方、実践方法などが紹介された。
 
 そして総括として、「賃貸借の市場から古い慣習を払拭し、新しい明確なルールづくりに最善を尽くすこと」、「宅地建物取引業者としてはもちろん、事業者としてオーナーの理解を得て意識改革に努めること」、「トラブルは後始末より未然防止を第一と考え、説明責任を十分自覚すること」、「トラブルのない市場の確保を使命と考えること」、「時代を読み、時代の先駆者となる業者をめざすこと」の5つを一同で宣言した。


生き残れる商慣習はどれか

 商慣習は、その地域の歴史や風土を反映したものである。生活に根ざしたものであり、それぞれの地域経済や実態にもっとも相応しいスタイルなのかもしれない。

 しかし、地域社会はいま、グローバリゼーションの到来を受け、地域の特色として残すものと残さないものの取捨選択を迫られているのも事実だ。

 もちろん、市場の統一化や透明化という大義名分のもと、地域の特色が失われるようなことがあってはならない。しかし、社会構造が変化するなか、賃貸住宅の商慣習はどうあるべきなのだろうか。

 「この世に生き残る生物は、最も強いものではなく、最も知性の高いものでもない。残るのは、最も変化に対応できるものである」と、ダーウィンは言ったとか言わないとか。

 変わるものと変わらないもの。その見極めを間違えていいことは、おそらくないだろう。(ひ)

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