記者の目 / 開発・分譲

2009/2/3

“逆風市場”で大善戦

東急ホームズの建売住宅「ウェルタウン青葉台」を見る

 分譲マンションをしのぐほどの“逆風市場”となっているのが、建売住宅市場だ。(株)不動産経済研究所が調査した2008年の首都圏建売住宅の月間平均契約率は、わずか40%。10戸発売しても6戸が売れ残るという、厳しい状況である。  この逆風下でユーザーのハートをつかむには、商品企画や売り方に、それなりの創意工夫が必要となる。そのヒントになる建売住宅を見学してきた。東急ホームズ(株)が1月末から販売している「ウェルタウン青葉台 鴨志田の丘」(横浜市青葉区、総戸数14戸)がそれ。商品企画と売り方それぞれに一工夫凝らし、順調な滑り出しをみせている。

建売住宅「ウェルタウン青葉台」外観
建売住宅「ウェルタウン青葉台」外観
玄関から仕切りがなく、直接リビングに。階段も、リビングに設けることで、親子が顔を合わせ挨拶を交わす習慣づけを狙う
玄関から仕切りがなく、直接リビングに。階段も、リビングに設けることで、親子が顔を合わせ挨拶を交わす習慣づけを狙う
リビングから子供部屋への吹き抜け。子どもは部屋にいながら両親の雰囲気を感じることができる
リビングから子供部屋への吹き抜け。子どもは部屋にいながら両親の雰囲気を感じることができる
建物には不釣り合いなほど大きなウッドデッキも、親子のコミュニケーションを前提としたもの
建物には不釣り合いなほど大きなウッドデッキも、親子のコミュニケーションを前提としたもの
リビングルームには、巨大な「落書きスペース」。子どもの創造性は「落書きで伸びる」というのが、四十万靖氏の持論
リビングルームには、巨大な「落書きスペース」。子どもの創造性は「落書きで伸びる」というのが、四十万靖氏の持論
子供部屋は「2ドア1ルーム」。小さい頃はそのまま、成長に応じて本棚やパーテーションで仕切る
子供部屋は「2ドア1ルーム」。小さい頃はそのまま、成長に応じて本棚やパーテーションで仕切る
父親の部屋を想定した上げ和室。リビングに隣接させることで、子供が自由に出入りし、話や勉強をしたりするコミュニティスペースとして考えられている
父親の部屋を想定した上げ和室。リビングに隣接させることで、子供が自由に出入りし、話や勉強をしたりするコミュニティスペースとして考えられている
「ヘルスプロモーションデザイン」住戸のリビング。中央の和室は祖父母の生活スペースを想定しており、同時に3世代のコミュニケーションスペースとしても考慮されている。
「ヘルスプロモーションデザイン」住戸のリビング。中央の和室は祖父母の生活スペースを想定しており、同時に3世代のコミュニケーションスペースとしても考慮されている。

「郊外のバス便」に一工夫

 同社は、建築請負以外に、オーナーの土地有効活用手段として建売住宅を提案してきたが、近年は自社で用地を取得しての建売住宅開発も行なっている。同団地もそうした開発の一環として行なったもので、同社のソリューション事業本部が推進。販売も自社で行なう。

 同物件は、東急田園都市線「青葉台」駅からバス10分、最寄バス停から徒歩3分。総戸数14戸の建売住宅団地だ。住戸は、土地面積125~146平方メートル、建物面積95~108平方メートルの2LDK・3LDK。
 建設地は、東急グループが開発してきた「多摩田園都市」のなかでも、最も開発が遅いエリアで、周辺環境は抜群。ただし、駅からの距離は相当あり、アクセスはバスに頼らざるを得ない。都心へも、ドア・ツー・ドアでほぼ1時間かかる。「バス便物件」というのは、環境を差し引いても売りづらいのは、今も昔も変わらない。
 さらに、人気の田園都市だけに土地価格も安くはなく、1区画の土地面積は40坪前後に抑え込まれている。容積率は80%、地区協定による建物セットバックなどの規制などから建物面積も限りがあり、決して「広々」とした建売住宅ではない。

 言ってしまえば、売りづらい条件が揃っており、ありきたりの商品ではユーザーにそっぽを向かれる可能性が大きい、というわけだ。

 だが、この団地、販売開始の最初の週末2日だけで62組の来場を集め、1期分譲5戸のうち3戸を契約してしまった。この好スタートを支えたのが、あるテーマで統一された商品企画と、販売価格を引き下げるための「地上権付き分譲」、である。

テーマは「頭の良い子が育つ」家

 同団地共通のテーマ、それは「頭のよい子が育つ家」、つまり子育て配慮を盛り込んだ商品企画である。

 すでに、数多くのマンションや建売住宅で「頭のよい子が育つ家」を実践している四十万(しじま)靖氏が代表を務めるスペース・オブ・ファイブ(株)(横浜市西区)と提携。四十万氏と同社ソリューション事業本部の担当者がディスカッションを繰り返しながら、四十万氏の考えを、商品に落とし込んでいったもの。

 「頭のよい子が育つ家」と書くと、なんだか仰々しく感じるが、簡単に言えば、親と子どもが家のあちこちで自然にコミュニケーションできる家、ということである。四十万氏に言わせれば、「ちびまる子ちゃん」や「サザエさん」にみられるような家族のふれあいこそが、子供の創造性や探究心を伸ばし、「頭をよくする」のだという。

 玄関は、仕切り戸もなくリビングに直結している。2階への階段も、リビングにある。キッチンは対面チッキンだ。これらは、言うまでもなく、一日のほとんどをLDKですごす主婦と子供とのコミュニケーションを密にするための工夫だ。
 リビング外には、建築面積に不釣り合いなほど大きなウッドデッキも設置している。これも、コミュニケーションの場として考えている。また、柱や幅木は、子供がぶつかっても怪我しないように、丸く面取りをしている。リビングに、大きな落書きボードやパソコンを使った伝言板を設置した住戸もある。

 子供部屋と1階リビングとは、吹き抜けでつないでいる。これは、部屋にいながらも家族の息吹を感じさせるための配慮。子供部屋は全戸「2ドアワンルーム」としている。子どもが小さいうちは本棚などでゆったりと仕切るか、1部屋として使用。子供が成長し、「どうしても仕切りが必要」となれば、別の部屋にできる仕掛けである。2階に洗面所を設けず、その代わり階段踊り場を広くしているのは、本棚等を置いて、親子がコミュニケーションできるスペースを考えているためだ。

 いずれも、いまどき目新しい工夫ではないが、その1つ1つを「子育て」で結びつけているところに、この住宅独自の提案がある。

 また、1期5戸のうち1戸は、「ヘルスプロモーションデザイン」として、ユニバーサルデザイン、3世代コミュニケーションをテーマにした住戸として提案されており、玄関の敷台と手すり設置、全室引き戸、1,200mmの廊下幅、引き戸付き大型トイレ・浴室を提案。まっ先に申し込みが入ったという。


子育て世代を支援する「地上権付き分譲」

 一方、販売面での工夫は、土地の所有形態を「所有権」と「地上権(普通借地権)」との選択制としていること。子育てにお金のかかる30歳代・40歳代がターゲットのため、少しでも初期費用が安くできるように配慮したいと打ち出したものだ。

 1期5戸の所有権での分譲価格は5,500万~6,150万円。これが、地上権分譲(期間30年、1回目更新後20年、以後10年毎に更新可)の場合、3,780 万~4,150万円まで引き下がる。購入時に地代3ヵ月分の敷金が必要となるほか、地代が月額2万8,500円~3万3,500円かかるが、逆に土地固定資産税は必要ない。もちろん、土地所有者は東急ホームズだから、常時所有権に移行できる。

 これがズバリ当たった。「田園都市線沿線の場合、どうしても土地価格が張り販売価格は高くなりますので、この地上権販売は効果があると自信がありました。私も、まっ先にお客様にお話ししていますし、反応もいいです。実際、契約済の3戸のうち2戸は、地上権での販売でした」(ソリューション事業本部営業部主任・宮坂浩一氏)

 集客の難しい郊外の小規模建売団地にして、滑り出しからこれだけの反響を集めるのは、並大抵のことではない。その意味で、同団地から学ぶことは多いはずだ。(J)

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