記者の目 / 開発・分譲

2009/2/12

“コレクティブハウス”をヒントにした新しい住まい方

リノベーション賃貸住宅「CULUM浜田山」の仕掛けとは?

 北欧などでは、すでに30年ほど前から認知されている“コレクティブハウス”という居住スタイルがある。それぞれが独立した住戸に住みながら、共用のリビングや空間を積極的に利用するという住まい方だが、日本ではまだまだ馴染みが薄い。  (株)コプラスは、個人の物件オーナーからその活用方法について相談を受け、このコレクティブハウスの思想を生かした賃貸住宅「CULUM浜田山」(東京都杉並区、全16戸)を完成させた。新たな住まい方を提案する同物件についてレポートする。

「CULUM浜田山」外観。白壁にところどころ不燃木の茶色がアクセントとなって、モダンな印象を受ける
「CULUM浜田山」外観。白壁にところどころ不燃木の茶色がアクセントとなって、モダンな印象を受ける
リノベーション前の外観。どことなく時代遅れの感があり、築21年という年月を感じさせる
リノベーション前の外観。どことなく時代遅れの感があり、築21年という年月を感じさせる
「G-type」77平方メートルの住戸。可変性のある1LDKに変更、何とも開放感のある空間に生まれ変わった
「G-type」77平方メートルの住戸。可変性のある1LDKに変更、何とも開放感のある空間に生まれ変わった
まるでジャングルのようだった中庭(従前)が、入居者同士がくつろぐ憩いの場に
まるでジャングルのようだった中庭(従前)が、入居者同士がくつろぐ憩いの場に
コモンルーム未完成の壁(右側)。コミュニティづくりのきっかけとして、壁塗りが入居後初のイベントとなる
コモンルーム未完成の壁(右側)。コミュニティづくりのきっかけとして、壁塗りが入居後初のイベントとなる
各住戸ごとに1区画が割り当てられている屋上菜園。雨水をためる樽や共同の物置を設置するなど、さまざまな工夫がみられる
各住戸ごとに1区画が割り当てられている屋上菜園。雨水をためる樽や共同の物置を設置するなど、さまざまな工夫がみられる

リノベーションを選択した理由とは?

 京王井の頭線「浜田山」駅から徒歩6分、駅前商店街の賑わいから離れた閑静な住宅街にある同物件、オーナーは埼玉県に住むある個人地主だ。過去数回、埼玉の土地を都内の収益不動産に買い換えてきており、築21年の賃貸マンション活用方法を同社に相談したのがこのプロジェクトの始まりという。

 欧米と比べ、新築偏重といわれている日本の住宅供給事情を鑑みれば、解体して新築するという選択肢もあっただろう。
 しかし、同社はあえて躯体とサッシ以外の「フルリノベーション」を提案。従前の建物プランが魅力的であったこと、簡易耐震診断で問題が少なかったこと、総工事費削減(約3割カット)と工事期間の短縮化が図れることなどが主な理由だ。

 また、交通利便性、周辺環境の良さなどから、住みたいまちとして人気が高い浜田山には、今後、周辺に新築の競合賃貸物件が増えてくることが予想される。そうした新築物件とは一線を画し、「時とともに味わいが出る住宅」として生かしていこうと差別化を図る狙いもあった。

 リノベーションでは、茶色のタイル貼りで少々時代遅れの感があった外観を、タイル剥離防止機能のある塗料を用いて白く塗装。さらに、外壁の一部とバルコニー部分に不燃木を貼り、温かみのあるモダンな印象を与えるものに変更した。

 各住戸は、3DKから大型のリビングを主体とした1LDKのプランに変更し、可変性のある、ゆったりとした生活感を醸し出す雰囲気のデザインを採用している。

 内装は極力コストを抑えたが、唯一フローリングには資金を投入したという。
 具体的には、浮造り無垢杉板のフローリングを採用。木目に凹凸があり、通常のフローリングとは違ってすべりにくくなっているうえ、素足で歩くととても気持ちがいいうえに、植物性のワックスで仕上げるなど、健康面にも配慮した。
 また、全室ペット可であるため、同フローリングはペットの足にかかる負担を軽減し、付いた傷も目立たないという効果もある。

“コミュニティライフスタイル”を提案

 もう一つ、今回は「集まって住む」ことで入居者がお互いに協力し合い、安心して豊かに暮らす“コミュニティライフスタイル”を提案。
 そのための仕掛けが3つ、用意されている。

 まず、入居者同士が気軽にくつろいだりイベントができるよう、広場とベンチを中心にすっきりとしたスペースの中庭を設計。従前の中庭は、草木がぼうぼうと生い茂り、とてもくつろげる雰囲気ではなかったというが、現在はシンボルツリーとなる木「ソヨゴ」を植樹し、入居者の憩いの場として生まれ変わった。

 次に、入居者が自由に使用できるコミュニティスペース「コモンルーム」を中庭に面した位置に配置した。入口のドアを開けると、中庭のシンボルツリーやベンチとつながり、一体感のある使い方もできるという。
 ユニークなのは、壁の1面が未完成であることで、じつは入居者に、ペイントしてもらう予定なのだとか。入居者同士の親睦を深める目的と、自分たちの暮らしに愛着を持ってもらうため、あえて仕上げは入居者自身にまかせているのだという。
 「今後は入居者の挙手でイベントを開催したり、習い事教室を開いたりと、積極的に利用していただければ嬉しいです」と語るのは、同社コンサルティング事業部 事業企画グループ シニアプランナーの清水正人氏。

 最後は、各住戸ごとに1区画が割り当てられている屋上菜園。
 家庭菜園を楽しむも良し、ガーデニングを楽しむも良し、入居者の自由に自然を楽しんでもらうためのスペースだ。
 菜園の脇には、水やり用の水道代節約を意識し、雨水樽を設置。また、利用するたびに各住戸から菜園道具を持ち運ばなくて済むよう、共同の物置も設置した。さらに、風に舞いにくく、一日中影にならない屋上に適した保湿性の高い土を選んだという。

住むごとに魅力が増す建物に

 住宅専有面積は23.65~77.00平方メートル、月額賃料は8万8,300~24万300円(共益費込み)。すでに、16戸のうち15戸が契約済みだという。

 1月31日より6組が入居を開始、同日にはカギの引渡しと設備の説明を兼ねた入居者同士の顔合せ会が催されている。入居者全員でコモンルームを覗いたり、屋上菜園を見学したりと、入居者同士のコミュニケーションもすでに図れているようだ。

 「隣に住んでいる人を知らない」「会話を交わしたことがない」というのが当たり前になりつつある現代の住まい方に、同社は「待った」をかけるべく、今回のプロジェクトに着手、新たな住まい方を提案した。
 「入居した当初より、3年後、5年後、10年後のほうがいい建物だと、入居者の方に言っていただきたい。住むごとに魅力が増す建物になるよう、入居者同士、そしてわれわれと入居者の方々、それぞれにコミュニケーションを取りながら、共に協力し合えるコミュニティライフの実現をめざしたい」と語る清水氏。
 ユーザーニーズが多様化していくなかで、果たして“コミュニティライフスタイル”がどれだけ浸透していくのか、今後の動向を見守りたい。(I)

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