記者の目 / ハウジング

2009/4/20

賃貸住宅も「エコ」の時代

積水ハウス、環境配慮型ブランドを積極提案

 あらゆる産業で避けては通れないハードルとなった「エコ」、それは住宅・不動産業界とて同じ。環境への配慮を欠いた商品は、いまや商品として成り立たくなりつつある。ところが、不思議なことに、この「エコ」というハードルが極端に低い商品がある。利回り商品の、賃貸アパート(マンション)だ。  とは言うものの、ユーザーの環境意識が高まるなか、オーナーや住宅メーカーがこれを無視し続けるのは命取り。そこでいち早く対応したのが、積水ハウス(株)。環境配慮住宅ブランド「グリーンファースト」に賃貸住宅もラインナップし、オーナーに積極的に提案していく。同社の東日本第1号物件を取材した。

東日本初の「グリーンファースト」ブランド対象となった、賃貸住宅「シャーメゾン・エコスタイル」外観。写真では見えないが、南面(写真手前方向)を中心に、屋上にびっしり太陽光発電パネルが並ぶ。最大発電量は、9.6kw(同時に9600wの電気機器を使用できる)
東日本初の「グリーンファースト」ブランド対象となった、賃貸住宅「シャーメゾン・エコスタイル」外観。写真では見えないが、南面(写真手前方向)を中心に、屋上にびっしり太陽光発電パネルが並ぶ。最大発電量は、9.6kw(同時に9600wの電気機器を使用できる)
外壁は光触媒により雨で汚れが落ちる。外構は、同社が推奨する「5本の樹」を取り囲んでベンチを作りコミュニティスペースとしたほか、敷地内に風を通わせる「風抜き」としても機能させる
外壁は光触媒により雨で汚れが落ちる。外構は、同社が推奨する「5本の樹」を取り囲んでベンチを作りコミュニティスペースとしたほか、敷地内に風を通わせる「風抜き」としても機能させる
2層構造をいかし、1階天井高もゆとりの2600ミリを確保。サッシュ高も2300ミリと、賃貸住宅ではかなりの高さ(ただし、次世代省エネ基準ではないため、単層ガラス)
2層構造をいかし、1階天井高もゆとりの2600ミリを確保。サッシュ高も2300ミリと、賃貸住宅ではかなりの高さ(ただし、次世代省エネ基準ではないため、単層ガラス)
太陽光発電が割り当てられる5戸に備わる発電モニター。発電量が使用量を上回っていれば、居住者は電力会社に売電することができる
太陽光発電が割り当てられる5戸に備わる発電モニター。発電量が使用量を上回っていれば、居住者は電力会社に売電することができる
1階リビングに吹き抜けがある住戸。その高さ5メートルを優に超える。基本的な断熱性能が高い「エコ」住宅だからなせる技
1階リビングに吹き抜けがある住戸。その高さ5メートルを優に超える。基本的な断熱性能が高い「エコ」住宅だからなせる技
オーナーが採用にこだわったという螺旋階段。
オーナーが採用にこだわったという螺旋階段。
キッチンは当然IHクッキングヒータ採用。「分譲マンションなみのグレード」と説明を受けたが、それはちょっと言いすぎ…。
キッチンは当然IHクッキングヒータ採用。「分譲マンションなみのグレード」と説明を受けたが、それはちょっと言いすぎ…。
クリアガラスのスライディングウォールを多用。自在に仕切ることで、ライフスタイルに合わせた空間を演出できる
クリアガラスのスライディングウォールを多用。自在に仕切ることで、ライフスタイルに合わせた空間を演出できる

「エコ」が生む競争力

 なぜ、賃貸住宅の環境配慮が遅れているのか?
 それは、言うまでもなく、賃貸住宅が「利回り商品」として、この世に存在しているからだ。

 分譲マンションや建売住宅、注文住宅であれば、断熱性向上、エコサッシュ(Low-E)、オール電化、太陽光発電といった環境への投資は、「光熱費の減少」という形でユーザーに帰ってくる。
 しかし、賃貸住宅の場合、「オーナー」が環境投資をしても、その恩恵を受けるのは原則「居住者」である(共用施設の光熱費に充てる=オペレーションコストダウンはできるが、大したメリットはない)。賃料に反映できなければ、喜ぶのはユーザーだけだ。

 では仮に、環境投資分を賃料に反映したとする。その場合、家賃上昇分を上回るユーザーメリットがなければ、今度は入居者が支持しない。
賃料に反映できなくても、入居率が下がっても、結果として利回りは下がる。利回りを下げる投資など、オーナーが許容するわけがないのである。

 ならば、「環境投資分を賃料に反映(利回り確保)させたうえで、ユーザーに十分なメリットを与え、安定した入居率を維持する」ビジネスモデルであれば、オーナーも選択の余地が出てくる。それが実現すれば、競争が激しい賃貸市場において、「エコ」が大きな競争力となりえる。そのビジネスモデルを、積水ハウスが編み出した。

「個別売電」でユーザーメリット

 同社は今春から、太陽光発電システムや家庭用燃料電池等を搭載し、CO2削減に貢献する住宅を、「グリーンファースト」に名称統一し、環境対策レベルが高い商品として提案している。さらに、この両方を搭載し、居住時CO2排出量をほぼゼロにする住宅については、「グリーンファーストプレミアム」として差別化している。

 賃貸住宅における「グリーンファースト」は、これらの条件に加え、太陽光発電システムで発電した電気を各住戸に配分する仕組みが加わる。これにより入居者は、太陽光発電による発電分の光熱費が軽減でき、さらに余った電気を「売電」できるメリットも生まれる。

 この「太陽光発電の個別分配」と「個別売電」は、各エリアの電力会社との協議が必要となる。同社はすでに、関西電力、東京電力との協議を終了。このほど、東日本第1号の「グリーンファースト」対応の賃貸住宅、「シャーメゾンエコスタイル」を完成させた。

 同社によると、同仕様の標準的な2階建て賃貸住宅4戸(次世代省エネ仕様オール電化、延床面積約220平方メートル、1戸当たりの太陽光発電約2.3kw)の場合、年間年間CO2排出量が64%削減され、1戸あたりの光熱費は11万円(月額約9,000円)ダウンする。逆に、オーナーの負担は戸当たり7,000円~8,000円程度。つまり、コスト上昇分を賃料に上乗せしても、ユーザーメリットはそれ以上となる。

高い環境性能が実現する個性的間取り

 東日本第1号となったのは、首都圏郊外となる、埼玉県上尾市に建築された総戸数7戸のシャーメゾン(木造賃貸住宅)。間取りは、1LDK・42平方メートル~2LDK67平方メートル。うち5戸がメゾネットという賃貸住宅だ。

 建物は、南北方向に細長いが、ちょうど中央部分を境に、東西方向に雁行させている。そのため、南向きの屋根面積を増やせており、屋上に搭載した太陽光発電パネルは90平方メートル、出力9.6kwに及ぶ。これが生み出す電力を、ファミリー向けの5世帯で案分する。もちろん、各住戸はIHヒータ+エコキュートのオール電化。既設の照明はLEDや蛍光ランプなどの省エネ型、エアコンも高効率タイプだ。
 
 間取りも個性的だ。2層構造を活用してリビングへの大きな吹き抜けや螺旋階段の採用、クリアガラスのスライディングウォールによる空間の多目的使用の提案などは、利回り・効率重視の賃貸住宅では見られない。吹き抜けというのは、省エネルギー性からみると非効率だが、次世代省エネなど躯体の省エネ性能がしっかり確保できていれば、何ら問題はない。高い環境性能が商品力も向上させる証左だ。

 ただし、「分譲並み」と謳われる設備機器については、ややグレード感に欠けるものだった(賃貸住宅として考えれば、と注釈すればトップレベルではある)。

 賃料は、月額7万4,000円~10万8,000円。最寄りのJR「上尾」駅から徒歩20分。上尾から都心まで1時間以上かかることを考えれば、間取りの魅力を差し引いても、(首都圏勤務のユーザーに対しては)かなり強気の値づけである。実際、客付けを担当する積和不動産(株)関係者によると、周辺相場より7,000円以上高めの設定らしい。

 しかし、5戸については、1戸あたり約2kwの太陽光発電モジュールが割り振られる。同社試算とほぼ同条件だから、ユーザーは月額9,000円程度かそれ以上の光熱費削減の恩恵にあずかれる。オール電化契約を生かし、電気代の安い深夜(23時~7時)に電力消費の多い家事をする(洗濯、食器洗い、掃除)など住まい方を工夫すれば、ユーザーはさらなるメリットを享受できたりもする。このあたりをアピールすれば、他物件との差別化効果はありそうだ。

さらなるハードルアップが課題

 もっとも、記者はいくつかの疑問も感じた。まず、同社の「グリーンファースト」が、オール電化や太陽光発電は条件としながらも、建物そのものは「次世代省エネ基準」を条件としていない点だ。設備機器がどれだけ省エネルギー性能を高めても、建物の基本性能が低ければ、せっかくの省エネとトレードオフとなってしまう。

 確かに、建物の省エネ性能をあるレベル以上高めても、それに見合うだけのオーナーメリットは生じづらい。しかし、ユーザーメリットを高めれば、入居率アップという形でオーナーにも帰ってくるのだから、環境投資を怠るべきではないし、住宅メーカーも積極的にオーナー周知してほしい。

 もう1点は、入居者への周知活動の徹底だ。「エコだから家賃が高い」という一本調子のアピール、この不況下では、ユーザーは素直に受け取れまい。オーナーの環境投資がユーザーに還元されることはもちろんだが、持ち家住まいだろうが、賃貸住まいだろうが、これからは「エコ」を意識した生活をしていくべきだと、業者もオーナーもしっかりアピールしていくべきだろう。

 この2点さえ解消されれば、「エコ賃貸」はさらに大きなブランド力を持つはずだ。(J)

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