愛媛県松山市「セントラルハイム壱番館」の場合
いまや賃貸不動産市場は、全国どこからも苦境が伝えられているが、地方都市の賃貸オーナーの苦しみは並みのものではない。老朽化が進んだ賃貸マンションでは稼働率が50%を切ってしまう物件も珍しくなく、オーナー・賃貸管理業者が「本気」で立ち向かわなければ乗り切ることはできない。そうしたなか、空室解消に本気で取り組み、見事に乗り越えたオーナーを紹介したい。(財)日本賃貸住宅管理業協会レディース委員会の四国視察(6月11~13日)への同行取材で出会った、中野和夫氏だ。
空室率はなんと52%!不良入居者に苦しめられ…
まずは、愛媛県における賃貸住宅市場の現況を考察したい。古いデータとなってしまうが、総務省「住宅土地統計調査」(2003年10月時点)によると、愛媛県の賃貸住宅総数は18万3,300戸。このうち調査時に空室だった住戸は4万100戸で、時点空室率は21.8%と算出できる。この値は、瞬間値でしかないが、実質空室率も2ケタを大きく上回っていることは容易に推測できる。
無論、その後の5年間で賃貸住宅市場が好転したという話は、全国的に聞くことはできない。
本稿の舞台である、人口51万人、四国最大の都市である松山市でも、賃貸管理業者の話を総合すると、平均空室率は30%を突破しているのではないかと思われる。
今回紹介する「セントラルハイム壱番館」(地上7階建て、総戸数32戸)も、そうした市場に埋没しかけた賃貸マンションの1つだ。
オーナーの中野氏は、倉庫業などを営む実業家。2004年に、父親からオーナー業を引き継いだ。
「松山の中心部にもほど近いのですが、あまり治安は良くない場所ということもあり、いわゆる“その筋の方”が数多く入居してしまったのです。自主管理していたので、入居審査も甘かったんですね…」と振り返る中野氏。座して死を待つわけにはいかないと、アクションを起こした。
入居者が好みのクロスを張る
同氏はまず、抜本的なリフォームを前に、不良入居者を追い出しにかかった。最終的に空室率は50%まで上がったものの、そこからフルリフォームを開始した。
だが、愛媛県は全国主要都市のなかでも家賃相場が低いことで有名(実際、中心市街地の「松山市」駅までドアツードアで15分もかからない立地の賃貸マンションでも、ワンルームなら4万円以下、ファミリーでも6万円はしない)。
ところが、リフォーム費用は大都市圏と同水準。いい部屋が作れても家賃に反映させづらいため、大規模リフォームを躊躇するオーナーが多い。
だが、勝算はあった。同氏は、自らのネットワークを駆使して、リフォーム材料を集め、自ら大工を手配し工事を行なったのだ。この姿勢は、人気物件に生まれ変わった現在でもまったく変わらない。
「クロスもフローリングも、リフォーム業者を通した価格の半額程度で手に入ります。タイルは、メーカーの工場に行くと格安で買えるんですよ」と同氏。そうした努力で、リフォーム費用を通常の半額にまで抑えることに成功。家賃を上げることができなくても、十分リフォーム費用を回収できる算段を立てた。
さらに、画期的なサービスも生み出した。ある日、同社が、入居希望者をリフォーム途中の住戸に案内していたときのこと。同社スタッフが、「まだ、クロスを張っていないのであれば、入居者にクロスを選んでもらうわけにはいかないか?」と打診してきた。同氏は快諾し、入居希望者に自由にクロスを選んでもらい、ことのほか喜んでもらった。
この体験がきっかけとなり、オーナー負担で入居者がクロスやフローリングの柄・デザインを自由に選べるシステムを構築した。
1つとして同じ仕様がない“リフォーム”を実践
視察団一行は、実際に、リフォーム途中の住戸を見せていただいた。
同マンションでは、現在、すべてのリフォームをフルスケルトンしたうえでのリフォームとしている。中途半端な改修ではなく、完全に時代遅れとなった設備機器や内装デザインを一新し、競争力を生むためだ。
また、リフォームにあたっては、クロスもフローリングも各住戸ごとにすべて違うものとしており、1つとして同じデザインの住戸がないのも特徴だ。
見学したのは、専有面積60平方メートル、もともと2DKだったものを1LDKにリフォームした住戸。ダイニングと隣接する洋室を1部屋にしたものだが、従来の間仕切り部分にはすぐに間仕切りが設置できるよう工夫されており、入居者の希望を聞き設置を行なう。
クロスは、直接仕入れで抑えたコスト分で、調湿性のある機能クロスを採用。リビングの一部には、石調タイルが壁一面に張り込まれている。前記のような理由ありのタイルだが、見た目では全然分からず、ゴージャス感は相当なものだ。
キッチン背面には、電子レンジや炊飯器を置くのにちょうどいいカウンターが設置されている。「まったくのオリジナル。大工さんに言えば、すぐ作ってくれますよ」(同氏)。キッチン横は、クロスではなく、汚れが付いても簡単にふき取れるパネルが一面に張り込んである。「そもそも汚れが付きませんから、補修の心配がいりません。万が一傷がついてしまった場合でも、傷がついたパネルだけを交換すればいいので、原状回復のコストも抑えられます」(同氏)。通常のフローリングではなく、デザイン性のあるタイルを張り込んだ部屋も用意している。
また、1階住戸のリフォームにあたっては、2階以上のバルコニーよりかなり広めに使える「ウッドデッキ」を設置。ペットを放し飼いにできるようにした「ペット可住戸」としてアピール。1階でありながらプライバシーに配慮した住戸としても人気がある。
全戸数の73%をリフォーム、入居率は90%超まで回復
見学した住戸の改修費は約200万円。通常であれば、水回りすべてを新品に交換しただけで突破してしまう額だ。自ら材料を仕入れ、大工を手配している同氏の努力あってのリフォームといえよう。
なお賃料は、入居率アップを狙うため、リフォーム後も従前と変えることなく、月額5万5,000円から。専有面積80平方メートル台の3DKでも、8万5,000円。ペット飼育時のみ、共益費7,000円がプラスとなる。賃料据え置きに加え、「1つとして同じデザインの部屋がない」という個性も手伝って、同物件の入居率は平均90%を超えるまでになった。不良入居者を少しずつ整理しながら、リフォーム済み住戸はすでに73%まで拡大。同エリア屈指の人気物件にまで成長した。
「賃料にリフォームコストを乗せられる首都圏の方々がうらやましい…」と同氏は嘆くが、自ら汗をかき、地獄の底から這い上がった同氏を見ていると「オーナーも、闘わなければ生き残れない」という現実が、浮かび上がってくる。(J)
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【シリーズ記事】
・賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.8 オーナーとして心がけていることとは…(2009/6/8)
・賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.7 「アリコート目黒」の場合…(2006/1/18)
・賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.6 「ハウス」シリーズの場合…(2005/3/25)
【関連記事】
今回ご登場いただいた(株)日本エイジェントを取材している『月刊不動産流通』の記事はこちら!
・2008年5月号
<特集>入居者満足こそ満室経営のカギ!『テナント・リテンション策』
・2004年11月号
<編集部レポート>不動産営業、こんな時どうする? 入居から退居まで ~賃貸管理編
・2002年2月号
<アクティブ・カンパニー>『顧客の満足度を高めるため、新しいサービスを次々と展開。賃貸取り扱いは地域ナンバーワン』