賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part23
本編は、2021年2月に配信した「9つの『趣味人』が集う」の続き。特定の趣味を持つ入居者がとことん趣味を楽しめる賃貸マンションを建てたオーナーのO氏。再び賃貸住宅を建てることになり、悩みに悩んだ末、再び「趣味人の館」を目指すことにした。様々なアップデートが図られた新たな賃貸住宅「エースター」(千葉県柏市)をルポする。
「平凡」にすべきか、「非凡」を貫くか…
まずは、オーナーO氏の紹介から。O氏は6年前、柏市豊四季一帯で農業を営んでいた義父から、賃貸アパートを引き継ぎオーナーデビュー。リノベーションや外壁塗装等を施し収益改善を図るなど、自ら考えた空室対策を展開。そのノウハウを注ぎ込み、自身が理想とする賃貸住宅「ガルガンチュア」(総戸数9戸)を、20年に建設した。同物件では「自動車・バイク」「フィットネス」「ゴルフ」「自転車」「陶芸」「音楽」など、趣味に特化した設備仕様を部屋ごとに設置。そのためだけに、各戸数百万円にも上る投資を行なった。O氏の狙いは功を奏し、竣工から3年間、何度かの入居者入れ替わりはあったものの、今も満室稼働を続けている。
さて23年、O氏は自宅を建て替えることに。夫婦2人が快適に過ごせる広さがあればいいと、自宅は平屋建てとした。それにより、まとまった規模の土地が手に入ることとなり、新たな賃貸住宅を建てることにした。ところが、そこでハタと頭を悩ませることになる。コンセプトをどうするかだ。
「ガルガンチュアは確かに成功しましたが、利回りを確保するため、付加価値分の賃料をいただいており、それなりの賃料帯となっています。そのため、一度空室になると収益には結構なダメージです。そのリスクを背負ってでも同じ道を行くか、ごくごく平凡な商品企画にまとめるか…」(O氏)。
それでも悩んだ末出した結論は、「ガルガンチュア」路線のアップデートだった。かくして「住んでくれる人たちにとことん趣味を楽しんでほしい」という願いを込め、賃貸住宅第2弾「エースター」(総戸数5戸)は誕生した。
建物はZEH仕様。全戸100㎡超にソーラーパネル付き
「エースター」は、戸数こそガルガンチュアより少ないが、住戸面積はさらに拡大し、全戸が専有面積100平方メートルを超えるメゾネット。1階が趣味のスペース、2階が居住スペース。広くなった分「趣味のスペース」がより充実しているのがウリだ。
建物は、ガルガンチュアと同じ鉄骨造2階建てだが、スペックは大幅に向上。耐震等級は3。断熱性能を高め、ZEH水準の省エネルギー性を確保。屋上には各戸専用のソーラーパネルを載せ、発電した電気は入居者が利用。余剰電力も還元する。物件周辺は閑静な住宅街だが、隣地にフットサルコートができたため、ほぼすべてのサッシを二重にしている(省エネ効果も狙っている)。駐車場は各戸に2台分、EVコンセント付きだ。
水回りは洗面所兼脱衣所の面積を広げ、カウンターを付けた「ランドリールーム」としている。全戸ガス乾燥機が備わり、室内の物干しポールも標準とし、外干しの必要はない。1戸を除きランドリームールは陽光が入るバルコニーに隣接しており心地がいい。在宅勤務者であればカウンターで仕事もできそうだし、主婦のマルチスペースにはもってこいだ。
4Kシアタールームに4柱リフト…趣味全振りの空間
では、ここからは「趣味」に全振りした各戸の特長を簡単に紹介していこう。ターゲットにする「趣味の世界」は、ガルガンチュアで成功したものばかりだが、いずれの住戸もさらに力が入っている(むしろ、入れ過ぎの感すらある(笑))。
1号室(1SLDK、専有面積約118平方メートル)は、ガルガンチュアでも好評を得た、車好きのためのガレージハウス。広さ45平方メートルのガレージは、開口部は幅6,000mmの電動シャッター付きで、大型車2台が余裕で収まる。好きな車やバイクを複数台所有し、自分で整備するような人にはたまらない仕様だ。
ガレージと玄関両方からアクセスできるホールは土間仕上げ。この住戸だけはLDKが横長で、日の光がしっかり入るのも特徴だ。
2号室(2SLDK、専有面積102平方メートル)は、12畳の防音シアタールーム付き。ガルガンチュアにも「防音室付き住戸」はあったが、今回は「ハコ」だけでなく4Kプロジェクター、スクリーン、アンプ、スピーカーを据え付けている。
いずれも、O氏がこだわりぬいて選んだもので、なかでも自慢はスクリーン。「一般的なロールスクリーンだと微妙に揺れてしまい、4K本来の画質が楽しめません。今回設置したものは一切シワが寄らない『張り込み式』。ただ、非常にデリケートな代物なので、入居者には気を付けて使ってもらうよう契約書に明記します」(O氏)(万が一汚損した場合、ちょっとびっくりするほどのお金がかかる(笑))。もちろん、楽器等の演奏を楽しむための防音室としても利用できるが、深夜帯の大音量、ドラムの演奏や声楽は騒音トラブル防止のため禁止している。
3号室(2LDK、専有面積101平方メートル)は、ガルガンチュアにも用意されていた「読書好き」のための住戸だ。「ガルガンチュアでは一番の優等生。退去されてもすぐに入居者が決まりました」(O氏)。25畳大のLDKの中心部を、1階床から2階の天井まで、高さ5メートル超の巨大な本棚が貫いている。その横のスケルトン階段を伝って本を出し入れするという仕組みだ。「ガルガンチュアでは本が落下する危険を考え1階天井までに高さをとどめていますが、今回は思い切って高さを取りました」(O氏)。
自在に調光可能なLED照明も仕込んでおり、リビングのインテリアとしても機能する。リビングの一部は床を18センチ下げ、籠り感を演出した。2階は、吹き抜けに面して8畳大のカウンター付きホールを設け、ライブラリーのように使えるようにしている。
4号室もガルガンチュアに続いて「ゴルフシミュレーター」を設置した住戸(2SLDK、専有面積107平方メートル)。人工芝が敷かれたゴルフ室は15畳大。ガルガンチュアの入居者の意見を参考に、床レベルを下げることで長尺のクラブを振った際も天井に当たらないように改良した。
そして、エースター最大の目玉が5号室(1SLDK、専有面積105平方メートル)。1~2階の吹き抜けを貫く「カーリフト」付き住戸だ。カーディーラー等で使われる本格的な4柱リフトで、上下2台の駐車が可能。さらに、2階のLDKはカーリフトの吹き抜けに向け3カ所の窓を設けており、リフトアップされた愛車を眺めることができる(耐震壁があるため、窓が分断されているのがなんとも惜しい)という、車好きには堪らない仕様だ。
ただし、不特定多数への自動車整備で使用することは禁止(O氏のコンセプトマンションは、自宅での営業を完全には禁じていない。シアタールームやガルガンチュアのフィットネスルームなどは、応相談としている)。筆者が住むなら間違いなくこの住戸だ。なお、住戸面積の過半をカーリフトが占めるため、この住戸だけは居室(寝室)が1階にある。
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23年末竣工した「エースター」は、現在鋭意入居者を募集中だ。東武アーバンパークラインの「豊四季」駅最寄りではあるが、1駅隣の「流山おおたかの森」駅圏まで含めた競争力を考え、「ガルガンチュア」同様、賃貸とは思えないゆとりある広さと、徹底的に趣味にこだわったハードで差別化した戦略に、O氏は自信を持っている。
本物件の賃料は、月額29万6,000~35万4,000円と、ガルガンチュアよりも若干お高め。ZEH水準の省エネ性、各部屋エアコン、ガス乾燥機、ホームセキュリティ、高速ネット回線、ソーラーパネルなどの建物スペックと、O氏がこだわりぬいた空間づくりのオンリーワン度(実はクロスや小物類も凝りに凝っているのだが、紙幅の関係で紹介は割愛する)を考えれば、まあ納得もできよう。
もちろん、O氏も抜かりはない。「物件の魅力、地域の魅力をしっかりと伝えてほしい」と、今回は地元・流山市の賃貸仲介・管理会社に客付けと管理を依頼している。市場にあふれる賃貸住宅の「極北」に位置するO氏の物件だが、その狙いは「入居者が心底住まいを楽しめるように」という点で、全ての賃貸オーナーが目指すべき点だと、改めて思った(J)