記者の目

2009/11/24

世代間・地域間の交流を生むまちづくり

「保育と介護」の複合開発

 少子高齢化が進展するなか、世代間交流を生む地域づくりが、今、開発業者側の新たなテーマになってきている。  スターツグループのスターツケアサービス(株)(東京都江戸川区、代表取締役:引地 豊氏)は、介護・保育・教育・医療のトータルサービスを、地域密着で機能的に利用できるよう整備し、将来に渡って安心して暮らせるエリアの創出に取り組んでいる。  その一つ、同社が手がけた、保育園とグループホームを一区画に立地させた複合開発「東綾瀬複合施設プロジェクト」を紹介したい。

認知症対応型グループホーム「グループホームきらら東綾瀬」外観。落ち着いた外装、幅広いスロープのあるエントランスが特徴的だ
認知症対応型グループホーム「グループホームきらら東綾瀬」外観。落ち着いた外装、幅広いスロープのあるエントランスが特徴的だ
車椅子用トイレでは、便座横のバーを使って立ち上がった後、三段階に傾斜している手すりをつたい、洗面台横の手すりへと移行しやすいよう、綿密に計算されたつくりとなっている。目に入りやすいよう配色された赤色は、デザイン性も高い
車椅子用トイレでは、便座横のバーを使って立ち上がった後、三段階に傾斜している手すりをつたい、洗面台横の手すりへと移行しやすいよう、綿密に計算されたつくりとなっている。目に入りやすいよう配色された赤色は、デザイン性も高い
入口から見た洗面台。利用者の姿が映りこまないよう、居室の角にそって斜めに設置してある
入口から見た洗面台。利用者の姿が映りこまないよう、居室の角にそって斜めに設置してある
「東綾瀬きらきら保育園」のグラウンドから見て、手前から保育園、コミュニティコア、グループホームという位置づけで、一続きの空間となっている
「東綾瀬きらきら保育園」のグラウンドから見て、手前から保育園、コミュニティコア、グループホームという位置づけで、一続きの空間となっている
コニュニティコア外観。外はウッドデッキにベンチが配され、談笑しやすいスペースとしている
コニュニティコア外観。外はウッドデッキにベンチが配され、談笑しやすいスペースとしている
コニュニティコアの建物では、将来的には喫茶店などを運営、地域に開放し、障害者の雇用の場としても門戸を広げられれば、と引地社長は展望を語る
コニュニティコアの建物では、将来的には喫茶店などを運営、地域に開放し、障害者の雇用の場としても門戸を広げられれば、と引地社長は展望を語る

■高齢者の“力”を引出す、さまざまな仕組み

 同プロジェクトは、認知症対応型グループホーム「グループホームきらら東綾瀬」と、認可保育園「東綾瀬きらきら保育園」の複合開発。(独)都市再生機構(UR都市機構)が進める「旧綾瀬マンション」の建替え事業によるもので、スターツケアサービスが認知症対応型グループホーム、認可保育園、公園の建設・運営を条件として、一般定期借地事業者となったもの。2009年8月に竣工した。

 グループホームは11月1日より入居を開始し、木造2階建て、延床面積約550平方メートル。敷地面積は約1740平方メートルで、敷地内には元々あった樹木を生かし整備した小公園(約500平方メートル)や、家庭菜園などができる庭を設けた。月次利用料金は、要介護2の人で約18万5,000円(家賃、管理費、介護保険料込み)。
 建物は、居室が各階9戸ずつで計18戸。各居室には、簡易な洗面台があるだけで、家具は持ち込みを基本としている。認知症の場合、突然の環境の変化はパニックを起こす原因になり、慣れ親しんだものを利用する方がいいとされているからだ。

 共用部分は、居間・食堂、キッチン、洗面脱衣室、車椅子用トイレがある。車椅子用トイレの洗面台や手すりは、フィンランド製のものを特別に注文。利用者が自らの力だけで、便座から立ち上がり→洗面台まで歩く、という動作がスムーズにできるよう、効果的に手すりを配置している。
 また、洗面台の鏡を居室のコーナー部分に設置し、ドアを開けた際利用者自身の体が映りこまないようにすることで、パニックを起こさないよう配慮した。

 料理は、入居者自身が作ることになっているため、キッチンの天板は通常のタイプより5cmほど下げ、作業がしやすいようにしている。
 それに加え、定期的にレストランのシェフを招待し、フルコースのディナー会を開催したり、皆で外食に出かけたりといった取組みも予定している。

 中庭には、入居者1人当たり1つ、家庭菜園やガーデニングができる花壇を提供。土にふれながら植物や野菜を育てる楽しみを感じたり、保育園児との交流にも活用してほしいとの考えから。

■高齢者向け賃貸住宅から老人ホームまで。地域内での住替えを促進

   さまざまなタイプの高齢者向け住宅・施設・サービスを運営する同社では、身体状況に合わせて高齢者専用住宅や介護付き有料老人ホームへの紹介、引越しのサポートを実施している。その際、住まいの移行が“地域間でできる”ということが重要なのだと、代表取締役の引地氏は語る。  「せっかく認知症の症状が改善されてきても、まったく土地感のないところへ行くことになれば、また発症してしまうこともある。そこで、当社では地域のなかにさまざまなタイプの住宅・施設を建設し、住み慣れたまちで一連のサービスが受けられる、エリアごとのトータルサービス体制の整備を進めています」。

 具体的には、東京都江戸川区において介護複合施設、高齢者円滑入居賃貸住宅、グループホーム等、計8物件を建設。グループホーム3~4施設に対し、その移行先として有料老人ホームを1~2施設、その他必要なサービスを配置した。

 実際の住替えの際には、専門のコンシェルジュが当事者の家族と相談しながらサポート。専門スタッフがいることで、早めの住替え準備ができるほか、高齢者の身体状況の変化に合わせて迅速な対応が可能だ。

■地域が“見守る”“育む”時代へ

 一方、保育園は、10月1日に開園。敷地面積約1,690平方メートル、延床面積約740平方メートル、木造2階建て。定員は46名で、別途一時保育室も設けている。

 保育園とグループホームとの間には簡単な柵がある程度で、開放すれば自由に行き来ができるほか、両施設の間には、「コミュニティコア」という共有スペースを設けた。「施設利用者同士やそのご家族の交流の場としてはもちろん、将来的には簡単な喫茶スペースとして地域に開放できれば」(引地氏)と、両世代間や保育園児の保護者とはもちろん、地域住民との交流拠点となることをめざしている。
 建物内にはシステムキッチンを設置し、テーブルやイスが置けるスペースを確保。戸外はウッドデッキの広場を設け、ベンチも設置している。

 こうした複合施設を核として、地域全体で高齢者を“見守る”という意識が自然に芽生えれば、とその先の展望を引地氏は話す。「必要以上に戸締まりなどを厳しくするのではなく、万が一、利用者の方が一人で出かけてしまっても『○○さんが道に迷われていたようなのでお連れしましたよ』など、地域単位で見守る体制を築いていきたい」。

***

 核家族化が進むなか、子どもにとっても、高齢者ならではの「知恵」や「文化」「遊び」を学ぶ機会があることは大変有意義なはずだ。一説によると、俳句やあやとりなど、昔ながらの遊びを、高齢者も子どもも一緒に楽しむことで、双方の脳の活性化につながったという話もある。
 また、幼少期からのそうした経験は、その子どもたちが大人になったときの高齢社会についての認識や理解度にも良い影響を与えていくだろう。
 地域全体で高齢者を敬い、子どもを育み、そして見守ることができる、そんなまちづくりがこれからより必要とされていくはずだ。(umi)

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【関連ニュース】
東京・足立区に幼老複合施設を開設/スターツケアサービス(2009/10/2)

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