記者の目 / 仲介・管理

2014/11/14

エコを本気で考えた!

賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.13

 (一社)プレハブ建築協会の環境行動計画「エコアクション2020」における13年度の実績によれば、太陽光発電システムを設置した新築低層集合住宅(新築アパート)の供給率は46.2%。この数字を見れば、賃貸住宅でも太陽光発電システムの普及が進んでいることがわかる。しかし、これは通常、全量買取制度を利用したオーナーが売電するための設備。  今回紹介するのは、元環境省勤めのオーナーが、「入居者」がエコ生活を送るための太陽光発電設備等を設置した賃貸住宅だ。環境対策や再生可能エネルギーの活用などを考え、太陽光発電以外にもこだわりをもってつくっている。

「羽根木テラス・ビオ」外観
「羽根木テラス・ビオ」外観
壁面緑化中。植物は環境を考え郷土種を用い、種のバランスも考慮
壁面緑化中。植物は環境を考え郷土種を用い、種のバランスも考慮
エアコンの室外機には目隠しにもなる軽石の遮光壁を設置。水をかければ気化熱で周囲の温度を下げるのにも役立つ
エアコンの室外機には目隠しにもなる軽石の遮光壁を設置。水をかければ気化熱で周囲の温度を下げるのにも役立つ
2階には広めのウッドデッキも設置
2階には広めのウッドデッキも設置
ウッドデッキから眺めた庭
ウッドデッキから眺めた庭
リビングに設置したHEMSのディスプレイ装置。太陽光発電量や、使用量、節約具合が分かる
リビングに設置したHEMSのディスプレイ装置。太陽光発電量や、使用量、節約具合が分かる
庭には屋外の気温などを測る計測器も設置し、HEMSと連動させている。防犯カメラ付き
庭には屋外の気温などを測る計測器も設置し、HEMSと連動させている。防犯カメラ付き

◆環境対策から考えれば、賃貸住宅のエコ化は急務

 環境省勤めだった15年前、「人に『環境対策をやれ』といってる立場だから、まず自分が見本になろうと思った」と語るのは今回紹介する「羽根木テラス・ビオ」(東京都世田谷区、総戸数:2戸)のオーナー、小林 光氏。現在は環境政策論を専門とする慶應義塾大学大学院の教授でもある。
 当時は家庭でのエネルギー消費量の削減対策はほとんどなされておらず、また、個人宅向けの省エネ技術も少ない時代。そんな中、試行錯誤しながら実家(現在の自宅)を環境負荷の少ないエコハウスに改装。太陽光発電、太陽熱温水、風力発電設備などを導入し、壁面緑化を施した。そうした経験から、相続した土地の活用として賃貸住宅建設に踏み切った折に、環境負荷の低減を目指した物件、かつ入居者自身がエコ生活を実践できる賃貸住宅を考えたのは当然の流れともいえる。
 「15年前に比べ住宅の環境性能を向上させる技術はだいぶ進歩したが、賃貸ではまだまだ。環境対策としては、住宅ストックの約4割を占める賃貸を何とかしないといけないんじゃないか、という思いが強くありました」(同氏)。

 相続した土地にはもともと親族の家が建っており、当初は庭にあった緑が減るのを憂慮して公園としての寄付を考えたという。だが、更地にする費用は寄付する側が負担する必要があるとのことで、どうせコストがかかるならと、緑化や周辺住宅の採光を考慮したエコ賃貸住宅を建てることに。
 住戸はメゾネットタイプの2戸(2LDK・76平方メートル)とし、前面に約85平方メートルの緑豊かな庭を設置。入居者のみならず近隣住民も楽しめる庭として、世田谷区の「小さな森」の認定も受けている。なお、庭が優先のため、駐車場としての利用は不可とする徹底ぶりだ。

◆東北地方にも対応する断熱性能と創エネで、月約9,700円の節約に

 一番のこだわりは断熱性能。
 建築は工期の早さや、断熱・省エネ技術の性能を考え、大手ハウスメーカーに依頼、環境性能を高めるため賃貸アパートでなく注文住宅仕様とした。さらに通常の個人宅仕様より高い断熱性能を求め、数社から見積もりを取った際も、金額ではなく、「天井、床含めどれだけの断熱性能にしてくれるか」を基準に決めたという。こうして同物件は、次世代省エネルギー基準の東北地方で求められる断熱性能(III地域仕様)を保持。オプションで実測も行なっており、断熱性能を表す熱貫流率(部材の熱の通りやすさ)は、通常の戸建注文住宅の熱もれが2.7のところ、この物件では1.8と3分の1の熱もれをカットすることができているという。
 なお、窓もすべて「Low-Eアルゴンガス入り断熱サッシュ」を使用しており、壁面には小林氏のアイディアによるボルトでワイヤーを固定した壁面緑化も施している。

 太陽光パネル(京セラ製)に関しては各戸2.8kW搭載しており、余剰電力は売電可能。室内には太陽光発電システムからの専用コンセントも設置し、停電時などの際に自家発電電力を直接室内で使えるようにしている。リビングには入居者の省エネ行動を促進するためHEMSのディスプレイ装置も設置しており、発電量や、使用量、節約度合いを確認することができる。
 また、太陽光パネルは共用部用も設置しており、余剰電力は蓄電池(7kWh)に溜め、さらなる余剰分は売電する仕組みに。蓄電池の電力は、共用部の照明のほか、敷地内に設置されている井戸の電動ポンプを動かすのにも使用しており、防災対策として停電の際、電力以外に井戸水も使えるように考慮した。

 その他の省エネ設備としては、備え付けの照明はすべてLEDに。ガス機器に関しては賃貸ではまだ少ない高性能潜熱回収型を導入した。
 これらの結果、京セラや(株)環境エネルギー総合研究所による省エネ効果の試算では、余剰電力の売電含め太陽光発電による電気代の節約が月約7,500円、高断熱性能による冷暖房費節約が約1,000円、LED照明化や省エネ給湯設備による節約が約1,200円、合計約9,700円の節約になるとのこと。

◆利回りを低く設定し、相場プラス1万円程度の家賃に

 そこで気になるのは、建築コストおよび家賃だ。建築したハウスメーカーの試算によれば、太陽光発電パネル&HEMS、断熱材増設分・断熱性能向上費等、通常の個人住宅仕様と比較して1戸あたりのコストプラス分が約240万円。そのほか、家賃設定には考慮しないが大家のこだわり部分として蓄電池・井戸・壁面緑化の費用が約280万円。各種測定費用が約100万円とのこと。なお、太陽光パネルと蓄電池に関しては、国と都から約27万円の助成金を得ている。
 一方、「羽根木テラス・ビオ」の賃料は1戸当たり19.9万円。その他に、庭や防災設備の維持管理費5,000円、太陽光設備負担金6,000円を設定している。

 果たしてこの家賃は相場よりどれくらい高いのか?

 実は同物件の竣工は2014年3月。4月から募集してなかなか入居者が決まらず苦戦した末、10月中旬にやっと1人入居した。それを聞いた当初は単純に「設備分の上乗せで家賃がかなり高いのだろう」と考えた。おそらく誰しもそう思うだろう。
 だが、同氏によれば利益よりエコ賃貸の普及が優先のため、利回りを低めにし、太陽光設備負担金については、先の光熱費節約9,700円に対して6,000円と若干入居者が得する設定にしている。そのため、家賃のプラス分は相場並みの約1万円だという(相場の試算はポータルサイトやハウスメーカーデータ等より)。実際、記者もポータルサイトで検索してみたが、京王井の頭線「東松原」駅徒歩5分、2LDK、築1年以内という条件で、世田谷で専有面積76平方メートルの広さを考慮すれば、確かに決して高過ぎるわけではない。もちろん高級賃貸に相当するだろうが。

 入居希望者は週に1組ほどの割合で内見に訪れているそうだ。内見に来る場合は家賃は把握しているはずのため、決まらなかった理由は、ひとつには駐車場がないなどの他物件との条件の差にもよるだろう。だが、記者としては、この物件の良さを伝え切れていないことも大きな要因ではなかろうかと感じた。
 例えばこの物件は床の断熱性能を高めているので、室内に入ったときの足裏のヒンヤリ感が少ない。そこですかさず「足裏があまり冷たくないですよね?」などとその効果を伝えればユーザーはかなり実感できる。また、太陽光発電で節約できるだけでなく、賃貸物件で防災対策として非常用電源や井戸水まで考慮されているのは魅力的ではないか? さらに、戸建て仕様ならではの設備の良さもあるが、これも言われてみないとなかなか気付きにくい。一例を挙げれば、通常の賃貸物件より収納スペースも浴槽も大きくてスペースも広めになっている。十分プラスの条件にはなるはずだ。

 ただ一方で、確かに太陽光発電システムやHEMSの使い方、省エネ性能など、この物件のこだわり部分は難しい。説明用の冊子は置いてあるものの、案内する不動産会社にとって、自身も理解する必要があり、手間と感じるのはムリもないともいえる。オーナーは仕事を持っているため、通常は直接内見に立ち会っていないが、これに関しては現状、可能な限りオーナーが同行するしかないのかもしれない。
 だが、こうした情報をうまく伝えることができればむしろ、「形だけでないエコ生活を送りたい」「太陽光発電システムを使いたい」という人にとっては、初期投資が家賃プラス1万円ですむと考えれば安く感じる人もいるだろう。

◆今後エコ賃貸普及に必要なこと

 このように見てみると世田谷区という賃料相場の高いエリアであっても、現状では、残念ながらこうしたエコ賃貸物件を運営するのはまだまだ厳しいと今回の取材で強く感じた。

 では今後、エコ賃貸が普及するためには何が必要なのだろうか? 住宅における環境対策についての啓蒙や初期投資を下げる各種助成金は当然として、その他の要素は? 環境政策論を専門とする小林オーナーに聞いてみた。

 まず挙がったのが「賃貸住宅における断熱性能表示の義務化」。欧米では賃貸住宅においても断熱性能の基準値を規制している国があるそうだが、そこまでは無理にしても、物件情報や重要事項説明で必ず提示するように定める。その際は「光熱費で節約できる金額」などユーザーにとってわかりやすい形にすることも必要とのこと。
 その他では「エコ賃貸の価値の見える化」が考えられるとも。国内の研究成果の中には、高断熱・環境性能に優れる家に居住した場合の健康維持の経済効果を年間2万7,000円と推計している例もあるそうだ。さらにそれに基づいてサービスやメリットを提供する。例えば建築の際のローン金利を下げる(入居者が健康を保てばその分長く入居し、運営が安定する、かつ建築費が高額になる分、ローンも高額になるため融資側にメリットがある、という解釈)、エコハウスに住んでいる人の生命保険料を割引くなどが考えられるそうだ。

 エコ賃貸の普及は今すぐには難しいかもしれない。しかし今後、2020年までには、すべての新築住宅・建築物の省エネルギー基準への適合が義務化される。つまり20年以降、賃貸物件も今より省エネ性能の高いものが登場するようになるということだ。その段階になれば「断熱性能が低い賃貸物件の規制」なども将来的に考えられない話ではなくなってくる。今からエコ賃貸の可能性は考えておいた方がいいのではないだろうか(meo)。

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