記者の目 / リフォーム

2015/3/13

「そっくり」だけでは終わらせない

住宅再生市場をリードする住友不動産

 中古住宅を全面リフォームすることで、新築住宅、もしくはそれ以上の商品に仕立てる手法は今ではすっかりポピュラーになったが、そうした住宅再生市場の認知度を向上させてきたのが、住友不動産(株)の住宅再生システム「新築そっくりさん」だ。その売上高は年間1,200億円を突破し、同社事業の柱の一つになっているが、さらに成長ドライブを加速させるため、新たな営業手法を展開し始めた。それが「常設モデルハウス」だ。愛知県岡崎市の最新モデルハウスを紹介しながら、同社の新たな戦略を探っていきたい。

岡崎市の体験型モデルハウス。外観はサイディングから瓦屋根まで全面刷新されており、「この建物は新築ではありません」ののぼりの通り、新築と見分けがつかないが、比較のため一部は従前のままとしている。また、増築はしておらず建物形状もいじっていない
岡崎市の体験型モデルハウス。外観はサイディングから瓦屋根まで全面刷新されており、「この建物は新築ではありません」ののぼりの通り、新築と見分けがつかないが、比較のため一部は従前のままとしている。また、増築はしておらず建物形状もいじっていない
モデルハウスの改修前の姿。地元の工務店が建てた在来木造住宅で、住宅展示場のセンターハウスとして使われていた
モデルハウスの改修前の姿。地元の工務店が建てた在来木造住宅で、住宅展示場のセンターハウスとして使われていた
新築そっくりさんの施工プロセスが体感できるコーナーとして設置した「工程展示スペース」。他の古屋から4畳半の和室を建物内に移設。その部屋が耐震補強・断熱補強を経て洋室にリニューアルされるまでを時系列で確認できる
新築そっくりさんの施工プロセスが体感できるコーナーとして設置した「工程展示スペース」。他の古屋から4畳半の和室を建物内に移設。その部屋が耐震補強・断熱補強を経て洋室にリニューアルされるまでを時系列で確認できる
工程展示スペースでは、床の一部をくりぬき、断熱補強の様子を確認できる
工程展示スペースでは、床の一部をくりぬき、断熱補強の様子を確認できる
耐震補強の手法を展示した部分。ブレースや補強金物に加え、腐朽した柱の一部を削り、新たな柱を継いで補強する手法も展示している
耐震補強の手法を展示した部分。ブレースや補強金物に加え、腐朽した柱の一部を削り、新たな柱を継いで補強する手法も展示している
リビングの一部は柱を現しとしており、梁補強が確認できる
リビングの一部は柱を現しとしており、梁補強が確認できる
新築そっくりさんは、仮住まいの手間を省くため、住みながら施工していくケースも多い。そうした場合、施工区画からの騒音や粉じんを居住スペースに入れないよう、区画養生を行なう。カーテンはファスナーが付いており、必要な時だけ開けることができる
新築そっくりさんは、仮住まいの手間を省くため、住みながら施工していくケースも多い。そうした場合、施工区画からの騒音や粉じんを居住スペースに入れないよう、区画養生を行なう。カーテンはファスナーが付いており、必要な時だけ開けることができる
階段はもともとあるものに新たな踏板を張り付けて改修する「貼り込み階段」
階段はもともとあるものに新たな踏板を張り付けて改修する「貼り込み階段」
真空断熱材による「内部断熱」を施した部屋。壁・床・天井の6面を真空断熱材で覆うことで、外壁を取り壊さずに施工が可能。遮音性も向上する。営業スタッフが手に持っているのが真空断熱材
真空断熱材による「内部断熱」を施した部屋。壁・床・天井の6面を真空断熱材で覆うことで、外壁を取り壊さずに施工が可能。遮音性も向上する。営業スタッフが手に持っているのが真空断熱材

モデルハウス活用で営業手法を刷新

 同社の「新築そっくりさん」は、阪神・淡路大震災を受け1996年に誕生。単なる化粧直し的なリフォームではなく、建物の耐震構造から手を入れ、耐震性も間取りや設備、外観に至るまで「新築そっくり」に再生するという広義のリフォームサービスであり、今主流となりつつある「リノベーション」を先取りした商品でもある。
 建て替えの50~60%のコストで新築並みに住まいを再生できることから、旧耐震の一戸建てや建て替えに制約の多い既存不適格の一戸建て等の居住者中心に人気を集め、累計施工件数は9万棟を突破。年間売上高も1,000億円を突破する、同社の屋台骨のひとつに成長している。

 ただ、リフォーム事業の販路拡大には、さまざまな制約が伴う。リフォームは唯一無二の商品であり、モデルルームやモデルハウスを作って、その商品性や特徴を説明するのは難しい。リフォーム業がいまだに中小主流のカタログ営業中心なのはそのためだ。
 同社の場合も、施主の許可をもらって施行中の現場を見てもらうなどアピールしてきたが、常時現場が用意できるわけでもなく、ニーズのある場所に必ず施工現場が出ることもない。そのため、新築・建て替えユーザーとの競合に負けない説得力、検討客に加え将来的な見込み客の開拓力、広域からの集客力不足が大きな弱点となっていた。

 そこで同社は、営業手法の一大改革に着手した。広告等を介した顧客からの問い合わせにレスポンスする従来型の“待ちの営業手法”ではなく、新築マンションや注文住宅と同様の「常設モデルハウス」を使った集客手法の導入、新築や建て替え層にモデルハウスを使ってリフォームの良さをアピールしていく“攻め”の営業手法である。これまでも、販売済みの新築マンションモデルを改修して使うなどのケースもあったが、一戸建てでもモデルハウスを展開していく。

施行前・施工後を比較できる「体験型」で訴求

 モデルハウス第1弾は、大阪・千里ニュータウンの総合住宅展示場に設置した。同社の2×4工法の注文住宅モデルハウス(築12年)を、“新築そっくりさん”によりリニューアルしたものだ。ただし、この建物は内外装ともほぼ完全にリニューアルが済んでおり、「新築住宅同様にリニューアルできる」という技術力のアピールが主要な目的だった。
 新築そっくりさんの主要なターゲットは在来型の木造軸組住宅(受注シェア9割)であり、千里のモデルハウスでは実際の施工手段の説明には使いずらい側面もあった。そこで、より営業訴求力の高いモデルハウスをめざし開設したのが、今年2月愛知県岡崎市に新設した常設モデルだ。

 同モデルは、住宅展示場「ハウスプラザ岡崎」に地元工務店が建設し、モデルハウス(センターハウス)として使っていた建物を同社が買い取り、そっくりさん仕様でリニューアルしたもの。築年数は17年。2階建ての在来工法建物で、延床面積は約62坪だ。
 最大の特徴は、内装・外装とも部分的に従来建物の状態をあえて残し、一部をスケルトン状態とするなど、改装中の様子と、改装後の変化をユーザーが確認できる「体験型」のモデルハウスとしたこと。他社の木造軸組工法を改修することで、ユーザーに対し、より現実的な提案をみせるのが狙いだ。岡崎が体験型第1弾となったのは、もちろん展示場の中古木造住宅が取得できたためだが、愛知県が、他のエリアに比べて、大規模戸建てフルリフォームのニーズが強いという土地柄も考慮したものだ。

リニューアルプロセスを追った工程展示

 外観は、そっくりさんのコアターゲットであるシニア世代に訴求するため、外壁、屋根等を古民家風にリニューアルしており、他社の新築物件との見分けは全くつかない。オプション扱いとして、日除けの格子やウッドデッキを設置。一部の瓦やサッシは従前のものをそのままにしており、施工前施工後の比較を行なっている。

 1階内部は、リビング、キッチン、和室など細かな間仕切りを取り去り、雰囲気や設備を変えたリビングキッチンを2パターン展示しているほか、吹き抜けを作り、梁の現しや梁補強を見せている。また、住みながら改修を行なう際に、一部区画を限定して養生する「区画養生」も行なっている。

 体験型を象徴する展示は、「工程展示スペース」だ。従来、和室の続き間だったスペースに、別の旧耐震戸建住宅から、4.5畳の和室をそっくりそのまま移設。その部屋が耐震補強・断熱補強を経て洋室にリニューアルされるまでを時系列で追ったものだ。わざわざ古い部屋を移設したのは、ベースの建物が「新耐震」であり、耐震補強の必要がなかったため。壁や畳をはがし、内部の柱を補強し、床をフローリングに、押入れをクローゼットに変えるリフォーム工程が、部屋の端から端まで歩くことで理解できるようになっている。

 2階部分には、まったく同じ形の洋室2室を、それぞれ別の施工方法により断熱強化したコーナーを設けている。ひとつは一般的な「外部断熱(壁等の断熱材を増やす)」、もうひとつが真空断熱材を使った「6面(内部)断熱」だ。
 内部断熱は、厚さ1cmほどの断熱材を真空アルミパックした薄型断熱材を使い、室内の内側を6面そっくり包み込んだもの。既存壁の内側に貼りこむため部屋の内法が3cmほど小さくなるが、断熱施工のため壁を取り壊す必要がないため、施工に制約がなくなる。また内壁が厚くなることから防音性が高まるおまけが付く。同社は、この施工法について特許を取得している。

 同社はこの体験型モデルルームで、そっくりさんの施工の実態をユーザーに訴求し、住宅展示場に来場した新築希望客や建て替え希望の回遊客を、見込み客として積極的に取り込んでいく狙い。そっくりさんの営業部隊は、すべてがエンジニアであり、営業から設計、現場管理まで一貫して対応していくことで、一邸一邸にあった最適なリニューアルプランを提案。新築のモデルと並べても遜色のない、ただそっくりだけではない「新築以上」のバリューを持った住まいとして提案していく方針だ。
 「リフォームでもここまでできる、新築住宅に代わる新たな選択肢として、また環境負荷の小さいエコ時代に対応した事業として提案し、愛知県のリフォームシェアナンバー1を狙いたい」(同社住宅再生事業本部東海事業所所長の横井太郎氏)。(J)

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