東京「隅田川」沿いの築古オフィスビルを再生
都市部では、ホテルや旅館、簡易宿所の開発が爆発的に増えている。その中で既存物件を活用した案件も増加。また、単に「寝て泊まる」という用途だけでなく、「その地域や立地を楽しむための場」としての宿泊施設も増えてきた。今回は、東京の名所の一つといえる「隅田川」沿いに立地する築29年のオフィスビルを改装し、「清澄白河」という立地特性を踏まえてつくりこまれたホテル「LYURO 東京清澄 -THE SHARE HOTELS-」(東京都江東区、収容人数102人)を紹介する。
◆“リバービューバスルーム”等、立地を生かす
(株)リビタが運営する「THE SHARE HOTELS」は、遊休不動産を有効活用し、地域に開かれたシェアスペースを設けて、“その場所にしかない新しい出会いと体験を提供する”をコンセプトとしたホテルシリーズ。初弾は16年3月に石川・金沢でオープン。今回は第2弾にあたる。4月14日にグランドオープンした。
「LYURO 東京清澄」は、延床面積1,589.90平方メートル。鉄骨造地上6階建て。東京メトロ半蔵門線「水天宮前」駅徒歩10分、都営大江戸線「清澄白河」駅徒歩10分。築29年のオフィスビルを旅館にコンバージョンした。隅田川沿いという立地のほか、下町の風情を残しながら美術館やカフェなどが集積している「清澄白河」という地域性をコンセプトに反映している。
1階はロビーや女性専用のドミトリータイプの客室、2階は飲食店、3階は男女共用のドミトリータイプの客室、4~6階は個室タイプ(4種)の客室(23室)で構成している。
川側の個室(18室)は、開口部を大きく確保し、リバービューが楽しめる空間としている。バスルームもあえて窓側に設置し、景色を楽しみながら入浴することが可能。隅田川に縁のある葛飾北斎の浮世絵や江戸小紋の壁紙も特注で制作し、使用した。室内にいながら、その土地ならではのロケーションや文化などが感じられるように仕上げた。
また、建物全体では、ブルーを多用しているほか、「川」という漢字から3本線をモチーフにしたグラフィックデザインを、物件名など各所に採用している。
◆川沿いのテラスを半公共的なスペースに
2階屋外には、川沿いに沿って44mに及ぶテラスを造作。東京都の「かわてらす」事業に応募し、採択されたことで、隅田川沿いの遊歩道から直接テラスまでつながる動線を確保し、宿泊者や飲食店利用者以外でも立ち寄れる空間に仕上げた。
「かわてらす」事業は、京都の川床の東京版という位置付けで、水辺のさらなる魅力向上と地域の活性化を目的に、東京都が河川敷地を活用して飲食店等の営業を許可するもの。さまざまな人が立ち寄れることで、多様な交流を促進する。
1階も、ロビーだけでなく、清澄白河に集まる人が好むようなセレクトショップやアートギャラリーを併設することで、歩行者等も取り込む。
4月に開催した記者会見の場で同社代表取締役社長・都村智史氏は、「宿泊機能だけでなく新しい価値を生み出すプラットフォームになることを目指す」と意気込んだ。2月下旬より開始した予約状況は、自社ホームページや宿泊サイトでの集客となったが、ゴールデンウィークを中心に家族連れから反響が高かったという。オープンから間もないため、まだ立地や価格を理由とした利用者が多いようだが、ここにしかない川沿い空間を評価する人も多く、今後リピーターが増えそうだ。
競合が増えている中、同社は「他社では扱いにくい物件を手掛け、徹底的に高品質なリノベーションで差別化していく」方針だ。また、料金も、個室が1室当たり1万5,000円~、ドミトリーが3,600円~。ドミトリーが割安なのはもちろん、個室も1部屋当たりの料金のため、人数によっては一般的なビジネスホテル等と比較して、安価な設定となる。
◆不特法改正で、地方での案件増えるか
現在国会で審議中の改正不動産特定共同事業法が成立すれば、地域の不動産会社によって、小規模な空き家や空き店舗を活用した宿泊施設開発などへの障壁が下がる。有名な観光地や交通アクセスの要所などでなくても、地域の魅力をとらえたホテルができれば、新たな人の流れやコミュニティ形成が期待でき、地域に賑わいが生まれ、住居エリアとしての魅力創出にもつながるのではないだろうか…。期待が高まる。(umi)
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