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2017/12/25

建物と人をつなぎ、まちの魅力を残す

 国内外から多くの観光客が訪れる北海道小樽市。明治期から現在に至るさまざまな建物が混在したまち並みが特徴的で、観光の中心である小樽運河近くでは古い倉庫だった建物が飲食店や駐車場として再生されている。その小樽のまちでは、歴史的建造物を含めた古い建物の保存に向けた活動もNPO法人などが展開している。

古い建物が残るまち並み

小樽運河
小樽を代表する観光スポット・小樽運河。取材した日もたくさんの観光客が訪れていた

 小樽は、明治期から戦後直後まで、ニシン漁をはじめとした水産業、石炭の積み出しを中心とした海運業など、港湾を核としてまちが栄えた。そうした産業で財をなした富裕層が集まり、従業員・人夫の給金も良かったことから第二次大戦直後ぐらいまでは大変賑やかなまちだった。当時はまち全体が裕福で、住民も強固で豪奢な“いい家”を建てていたのだという。

 これが戦後になり、ニシンの不漁、石炭から石油へのエネルギー革命、鉄道・自動車・航空といった陸・空の交通網や運輸環境の整備・発達によって、小樽の基幹産業であった水産業や海運業が徐々に衰退、北海道経済の中心地は札幌に移っていった。

 こうした事情を背景に小樽のまち並みは独自の進化を遂げていく。高度経済成長に乗り遅れ、所有者が建物を建て替えられなかったということも、今日のさまざまな時代の建物が混在する小樽のまち並み形成に影響を与えたとも言われている。

観光
古い倉庫が観光情報を発信する施設に
びっくりドンキー
こちらも古い倉庫。ファミリーレストランが利用している

 まちを歩くと、明治~昭和初期の古い石造、鉄筋コンクリート造など、さまざまな時代のさまざまな構造の建物が混在している。歴史のありそうな石造りの倉庫に「貸店舗」の貼り紙があるなど、今なお現役で使われていることが印象的だ。特に小樽運河沿いの歴史的建造物は、おおむね再利用が進んでいる。

 例えば、倉庫だった建物が駐車場や飲食店、チェーンのファミリーレストランとして使われているほか、見学施設、美術館、アイスクリーム店といった用途に再生され、周辺での観光需要を吸収している。また、JR「小樽」駅と小樽運河を結ぶ大通り脇の建物は、新しい建物でも「築古・石造」風につくっており、まちの雰囲気づくりに一役買っている。

「陰のある大人のまち」を残す

 そうした小樽のまちの雰囲気を残すために2012年に設立し、空き店舗・空き倉庫・空き家と住みたい・使いたい人をマッチングする活動を続けているのが、NPO小樽民家再生プロジェクト(代表:中野むつみ氏)だ。同NPOは不動産会社やデザイン会社の役員、地元の住民、勤務者らで構成。中野氏自身は、札幌の公共事業関連の補償コンサルタント会社の専務取締役を務めるなど、小樽で生まれ育った人だけでなく、小樽に魅了された人たちが集まった。

 同NPOでは、こうした歴史的建造物だけでなく、まち中のそこかしこに所在する古い建物を維持・保存し、小樽のまちの落ち着いた雰囲気を維持しようとしている。「小樽はどこか陰のあるところも魅力なのです。その雰囲気を魅力に感じ、移住・開業してくれる人と建物をマッチングしていきます。小樽の古い建物を残し、雰囲気を維持することで、新たな観光の可能性が出てくるのではないでしょうか」(同氏)。

 中野氏によれば、小樽のまち中にある石造倉庫をはじめとした古い建物は、もちろん旧耐震ではあるが、構造自体は強固であり寒さ対策を含めた内外の化粧さえしっかりすれば住みたい・利用したいと思う人が多いという。

まちなか
このような古い建物がまちの至るところに残っている
まちなか
古い倉庫が貸店舗として現在も利用されている

 不定期開催している相談会などによって、古い建物を利用してもらいたいオーナーと、古い建物を利用したい利用者を引き合わせている。設立から1件目のマッチングが成立するまで2~3年の月日がかかったが、これまでに8件の売買・賃貸をマッチングした。「例えば、『この建物を使いたい!』という人がいても、適切な使い方とは言えない場合、所有者がそうした用途での利用を求めていない場合などもあり、なかなか難しいのが現実でもあります。そうした調整をわれわれが担っています」(中野氏)。

 これまでにマッチングに成功して条件調整を経て成約した8件は。ガラス店だった建物がライブハウスとして再生した事例や、病院の建物が民泊施設になった事例など、住宅以外の用途が中心。11月には、昭和9年築の古い石造倉庫がリフォームを経てカフェとしてオープンした。

 17年9月には、石造倉庫をテーマにしたシンポジウムも開催。約80人を集め、飛び込み客もあり、立ち見が出るほどだったという。

不動産会社やリフォーム会社と協力

 マッチングした後の内見や条件調整、リフォーム工事など、契約・入居に向けた作業は、地域の不動産会社・リフォーム会社が担う。「当初、条件調整まで当NPOで引き受け、不動産会社の業務は契約のみというかたちにしようとしていましたが、上手くいかず。マッチングから契約までを不動産会社やリフォーム会社に任せることが賢明だということが分かりました」(同氏)。そして、不動産会社やリフォーム会社からの紹介料を活動資金としている。入居後は、同NPOがホームページやSNSで入居した店舗や企業の宣伝をするなど、広報・宣伝などの面でも支援している。

ライブハウス
手前の建物が、同NPOがマッチングして成立したライブハウス。元はガラス店だった

 「使いたい」人は多くても、貸し出すことを躊躇する人が多かったことや、相続などで引き継いだけれど、現所有者は遠方にいて連絡がつかないなどといったことも多いのだという。そのため、「広報活動などを通じて、当NPOの活動をPRし、全国的に情報発信していくことも大切だと考えています」(同氏)という。

 中野氏は、小樽のまちなみづくりの課題をこう語る。「小樽には現在、地域住民らによる約60ものNPOがあり、まちづくりや空き家活用をしています。実はその連携があまりないのが課題。団体同士、横の連携ができればもっと幅広く横断的な取り組みができると考えています」。

 同氏いわく、小樽を大切に思う気持ちは変わらないが、みな「自分が一番小樽を愛している」なのだとか。「私は小樽の生まれではないので第三者的にみることができ、かえって地元の人たち同士をつなげる役割ができるのではないかと思っています。今後、そうした活動もしていきたいですね」(同氏)と語る。

◆◆◆

 小樽のまちには、どこか陰がある。それはネガティブな意味ではなく、『落ち着いた大人のまち』という意味だ。中野氏らの取り組みは、そうした雰囲気を無理やり“陽”に転換することなく、ありのままの姿を生かすことで、小樽のまち全体の雰囲気を守っていこうというものだ。そして、小樽の魅力を再発信し、観光面でも新たな風を吹かせるのが狙い。

 まちの魅力を存分に引き出す建物の使い方を提案する「媒介者」のような存在がいることで、既存建物を適切に使い続けるまちづくりにつながっていく。実例こそまだ少ないがこうした活動が広がっていくことを期待したい。(晋)

中野さん
「小樽の落ち着きのあるまち並みを残したい」と語る中野氏

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