記者の目 / 開発・分譲

2022/3/10

「市民に光を当てる」シェア空間

「LIGHT UP LOBBY」外観

 「地元で仲間がほしい」「まちを盛り上げたい」「起業について相談したい」…。そんなニーズに応えるため、商業施設やオフィスビルの一角を“交流拠点”や“起業・創業拠点”とする事例が増えている。東京都府中市で2021年7月に開業した「ホテル ケヤキゲート 東京府中」(客室数156室)では、2階部分の一部をシェアスペースとして地域へ開放。コロナ禍という逆風の中でも、府中の活性化とビジネス創発を目指し、日々イベント開催などに取り組んでいる。運営に携わる2社に取り組みの経緯や反響を取材した。

足を使って地域住民のニーズを深掘り

「ホテル ケヤキゲート 東京府中」外観。「府中」駅とペデストリアンデッキでつながる

 府中市は2017年に京王線「府中」駅前の文化施設「府中グリーンプラザ」(1980年開業)跡地の利活用事業について、事業者募集をスタート。プロポーザルに参加したスターツコーポレーション(株)(東京都中央区、代表取締役社長:磯﨑一雄氏)は、駅前好立地ということでホテル開発の提案を進めていた。しかし市より「まちににぎわいをもたらし、経済波及効果が生まれるような“プラスアルファ”の場が欲しい」との要望が。そこで、全国でコミュニティ拠点の開発等を展開する、まちづくり会社ドラマチック(東京都台東区、代表社員:今村ひろゆき氏)に協力を仰ぎ、共にプラン検討に着手し始めた。

 まず行なったのは、足を使ってまちのニーズを探ること。「府中に関連したニュースやSNSを徹底的に調査し、地域活動に積極的な人や、地域密着で事業を展開する人などにも現地でヒアリング。すると『起業、複業したい』『もっと地域活動に加わりたい』との声が想像以上にあったため、そうした人たちを支援できる場を計画しました」(今村氏)。

「LIGHT UP LOBBY」内観。コワーキングスペースに加え、左の扉の奥にはミーティングルームも配備
左がカフェエリア「marble」。写真奥の棚が「ヒトハコ書店・レコード」

 コワーキングスペースのほか、パン・お菓子等を各自の屋号で製造・販売できるシェアキッチン、棚一つひとつを“店舗”とし、出店者がお気に入りの本やレコードを陳列・販売できる「ヒトハコ書店・ヒトハコレコード」など、多彩なシェアスペースを用意。また、旧「府中グリーンプラザ」で37年間営業していたカフェ「サングリア」がプロデュースする「marble(マーブル)」も誘致し、利用者がコーヒーや軽食を楽しめるようにした。コンセプトは「市民に光を当てる場所」。施設名を「LIGHT UP LOBBY(ライトアップロビー)」とした。

 このプランは府中市から高く評価され、18年に本利活用事業の事業者にスターツコーポレーションが選定。その後、建物竣工までに運営計画の検討、地域との連携をさらに深め、竣工後、ライトアップロビーの運営はスターツグループの一員であるスターツアセットマネジメント(株)(東京都中央区、代表取締役社長:平出和也氏)とまちづくり会社ドラマチックが共同で手掛けることとなった。

「LIGHT UP LOBBY」外観。外にもテーブルやベンチを設置し、市民の憩いの場として利用
2階の多目的スペース。普段はホテル宿泊者の朝食スペースとして利用されているが、小規模イベントの会場として貸し出している

販路の確保などトータルで起業を支援

「ヒトハコ書店・レコード」。棚一つひとつを“店舗”として貸す。出店者はお気に入りの本やレコードを展示・販売できる

 コワーキングスペースの利用は、周辺に居住するサラリーマンや学生が主だ。ヒトハコ書店・レコードは無料トライアルを通して定期的に出店の問い合わせがあり、徐々にメンバーも増えているという。出店者の背景はさまざまだ。「中には、以前府中で八百屋さんを営み、今はイラストレーターとして活躍する方も。『自分の本が多くの人の目にふれ、販売する機会をもらえて嬉しい』との声をいただいています」(今村氏)。

パンやスイーツ、お弁当などを製造・販売できるシェアキッチンスペース。出店情報は施設のホームページやSNSで随時公開している

 一方シェアキッチンは、「コロナ禍で食関係の事業を始めようという人が減っていることもあり、なかなか利用者数が伸びていないのが現状です」、とライトアップロビーの責任者であるスターツアセットマネジメント 不動産コンサルティング部の髙嶋俊輔氏は言う。利用促進のカギとなるのは、ソフトサービスの充実だ。
 「現在、併設するカフェ『マーブル』と連携し、府中でネットワークを拡大している最中です。ゆくゆくは市内で開催する食関係のイベントを利用者に案内するなど、販路の確保をサポートしていきたい」(今村氏)。また、店舗の開業を見据えた支援も検討している。「ホテル2階には、スターツグループが展開する総合不動産ショップ『ピタットハウス府中店』が入居しているため、物件探しのお手伝いができます。その他、スターツグループ各社や地元企業とも連携を図りながら、開業に係る手続きや税務処理の専門家を紹介するなど、トータルで起業を後押しできれば」(髙嶋氏)。

 その他のスペースでも随時ソフトサービスを拡充し、利用者増を図っていく考えだ。

マンスリー会員がイベントの発案も

「複業」をテーマにしたトークイベントの模様。実際に複業経験のある今村氏も登壇した。「私も何かやってみようと思った」「複業する勇気が出てきた」など好評の声が

 ライトアップロビーの核となる取り組みとして、定期的なイベント開催がある。内容は、毎回講師を招き行なう「トークイベント」と、会員(コワーキング・シェアキッチン・ヒトハコのマンスリー会員)間の「交流イベント」に大別される。トークイベントでは、「フードデザイナーに必要なこと」「住んでいる街で仕事を作る方法」など、起業や複業をテーマに講演会を開催することが多い。参加者は、20代半ばから50代と幅広いという。

 コロナ禍のため開催形式には気を配りつつ、交流イベントにも積極的だ。「今年の年始にはお互いの自己紹介も兼ねて、各自が立ち寄ったタイミングで書初めをすることに。22年の抱負を書いて、壁面に掲出しました」(今村氏)。また、“推し”本や映画、韓国ドラマ・グルメ、まちのおすすめスポット等々、各回テーマを設けて自由に語り合う会も開催。適宜オンラインを活用しながら交流を楽しんでいる。

マンスリー会員の交流イベント「推し本を語る会」の模様。オンライン上でお気に入りの本を紹介し合い、交流を深めた

 今村氏は、「我々が主導するのではなく、会員が自発的に運営していくことが理想だ」と語る。実際にこうしたイベントはマンスリー会員からの発案が多く、「クラブ活動」的にイベント開催ができるよう運営側がサポートしているという。「今は働くママたちを応援するイベントを計画中ですが、これもメンバーからの発案。意見を吸い上げて企画に反映しています」(同氏)。

 一方で、コロナ禍は懸念材料だ。「本来なら、もっと人を集めて、頻繁にイベントを開催する予定でした。皆で日本酒を持ち寄って飲み比べて、みたいなフランクな交流会を開けないのは残念。今後、感染拡大の状況を注視しながら、少しずつイベントの規模を大きくしていきたい」と今村氏は語る。

ホームページ等で随時イベントの開催日程を告知している

グループ一体で利用促進図る

 ホテル(運営:スターツホテル開発(株))との連携も視野に入れる。「ホテルへ宿泊すれば、併せてライトアップロビーも利用できるプラン等も検討中です」(髙嶋氏)。また、スターツグループで出版事業を展開するスターツ出版(株)と連携し、女性向け情報誌「OZmagazine(オズマガジン)」と女性向けWebメディア「OZmall(オズモール)」で施設のプロモーションも行なっていく考えだ。「目指すは、今後約1年以内でのマンスリーメンバーの倍増です」と今村氏は力強く語った。

◆◆◆

 ハード(建物)を開発し、運営を他社に委託するという、いわゆる「大家業」だけでは、生き残っていくのは難しい時代になりつつある。求められるのは、ソフトサービスの充実。自社で積極的に運営に携わり、多様な施策を講じることで、「施設の満足度、果ては地域の満足度の向上につながる」と髙嶋氏は言う。ライトアップロビーという場が、府中というまちにどのようなインパクトを与えていくのか? 今後も動向を追っていきたい。(丈)

※写真提供:スターツアセットマネジメント(株)・まちづくり会社ドラマチック

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