昨年、開業10周年を迎えた「東京スカイツリータウン」(東京都墨田区)。東武鉄道が主導した一連の開発によって、もともと広大な貨物ヤード跡地が広がっていた押上エリアは、ピーク時年間3,000万人を集める一大観光地へと生まれ変わった。20年には「とうきょうスカイツリー」駅~「浅草」駅間の高架下に商業施設「東京ミズマチ」が、隅田川に歩道橋「すみだリバーウォーク」が整備され、ますます注目が高まっている。
東武鉄道の主要拠点として街が発展を遂げていく中、東武グループで不動産開発、仲介・管理等を展開する東武不動産(株)(東京都墨田区、代表取締役社長:田中 浩氏)も近年、同エリアでの街づくりに注力している。テーマは、“地域と一体で街を盛り上げる”こと。地元商店との関係構築に向けた草の根活動などを取材した。
飲食店の本格弁当が300円!社員に大好評
2020年12月にスタートした「お弁当DAY」は、同社が墨田区内の飲食店から弁当・軽飲食を購入し、ランチタイムに社員向けに提供する取り組みだ。発案者は管理部総務グループの福田裕子氏。本社の福利厚生を通じて、墨田区にある魅力的な飲食店を社員に少しでも紹介できればという思いで企画した。
「私は営業ではないので、街の商店とのつながりはなかった。いきなり訪問して参加を呼び掛けても賛同を得るのは難しいと思い、ひとまず周辺の飲食店にビラを配布しました。反応のあった店舗から他店を紹介してもらい、数珠つなぎで協力店舗を増やしていきました」(福田氏)。現在、20店舗が協力しており、ジャンルはカフェ、割烹、焼き肉屋、ハンバーガー屋、洋食屋などジャンルは多岐にわたる。
実施は毎月1~2度。店舗への交渉、ピックアップ、販売すべてを福田氏が行なう。社内のリフレッシュスペースを売り場にし、毎回弁当なら40個程度、パン・ケーキなら100個程度がずらりと並ぶ。800~1,000円の弁当を300円で提供するなど価格は安価で、販売開始からものの数分でほぼ完売する。時には「デザートDAY」と称して、スイーツの販売も行なっており、これも好評だ。
「現在も、協力店舗の拡大に向けて、呼び掛けを続けています。よりたくさんの飲食店を社員に紹介したいため、基本的には毎回違う店舗から商品を購入する方針です」(同氏)。
地元商店とコラボギフトを作成
地元商店とのネットワークを生かして、新たな取り組みも生まれた。
その一つが、「とうきょうスカイツリー」駅至近に店舗を構えるバナナスイーツ専門店「バナナファクトリー」とのコラボ企画だ。東武不動産の社名、バナナファクトリーのロゴマーク等をプリントしたノベルティを作製し、22年6月の数日間、同店舗で877(ばなな)円以上購入した客に対してプレゼント。東武不動産のイメージカラーである緑色を使用したピスタチオケーキも企画・販売し、店舗の集客に貢献した。
次に手掛けたのが、ギフトボックス「すみだの街歩き」だ。バナナファクトリーとコーヒー専門店「しげの珈琲工房」とコラボし、焼き菓子やコーヒーパックを封入。お歳暮や取引先等への手土産として使用している。菓子・コーヒーと共に「すみだの街歩き」という小冊子も同封し、両店舗の紹介、同社の街づくりへの想いなどを発信している。
ギフトボックスは福田氏の手製で、商品のセレクトや商店との調整、小冊子および帯のデザインまですべて一人で行なう。「今後、他の店舗にも声を掛けて、ギフトボックスのバリエーションを増やしていきたい」と同氏は話す。
浅草通り周辺の拠点開発も視野
これから視野に入れるのが、“にぎわい拠点”の開発。同プロジェクトを推進するのが、22年10月、開発事業本部で新たに立ち上がった「街づくり推進部」だ。「福田が中心となって行なってきたソフトの施策を生かしながら、東武鉄道が押上エリアで行なってきた街づくりを補完する形で、今度はハードの面から地域のにぎわい作りに貢献していく」(同社専務執行役員開発事業本部長・太田道春氏)。
メインとなるエリアは、東京スカイツリータウン南側の浅草通り周辺。同社開発事業本部街づくり推進部部長の野田和義氏は、「浅草通り周辺は長屋が多く、建て替えるとしてもワンルームマンションかビジネスホテルになるのが見えている。このまま放置していると、都心で働く人がただ寝に帰ってくるだけの場所になってしまう。東武不動産の本拠地として本当にそれで良いのかという疑問がありました」と語る。
とはいえ、周辺の用地を買収して大規模な開発を行なうのは容易ではない。そこで思い付いたのが、浅草通り周辺に点在する自社の所有地や所有物件を活用すること。小規模商業施設やイベントスペース、街情報の発信基地などさまざまな拠点を構想しており、現在、地元や自治体にも相談しながら進めている。
また、集客施設のテナントには地元商店を積極的に誘致する予定。「従来の街づくりは企業主導で“場”を整備しサービスを提供するのが一般的でしたが、それでは街の差別化にはつながらない。その地域の“地のもの”が楽しめたり、住んでいる人の暮らしぶりが垣間見られたりする、“押上にしかない”コンテンツを用意したい」(野田氏)。
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22年9月には、地元情報誌と連携し、墨田区で開催するワークショップ等を紹介するウェブサイト「Sumi-Time」を立ち上げた。現在はイベントの告知がメインとなっているが、いずれは“イベントを開催したい人”と“場所を貸したい人”をマッチングする機能も付加する計画だ。「今後の拠点開発と連動して、弊社が運営するフリースペースの利用募集、貸し出しも行ないたい」(野田氏)。
地元商店とのネットワークを起点に活動の幅を広げている同社。今後の展開に目が離せない。(丈)
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「月刊不動産流通2022年12月号」の「連載:電鉄会社のまちづくり Vol.3」では、東武鉄道の押上エリアにおける街づくりの軌跡などを紹介。 ぜひご一読ください。