記者の目 / その他

2023/2/20

自己判断を促すオフィス

 不動産業界はもちろん、さまざまな業界で事務所におけるフリーアドレス化が進んでいる。従業員の交流促進、ペーパーレス化などを狙いに採用している企業が多いだろう。今回は、フリーアドレスを前提に、多様な種類の席を用意することで、従業員が自身の作業に合わせてベストな席を選び、生産性の向上等を目指している旭化成ホームズ(株)の新本社オフィスを紹介する。

◆社員エンゲージメントの向上等へ

 同社は、2022年4月に策定した長期ビジョンに掲げた「働く人が輝くHappiness Company」の実現に向けた取り組みの一つとして、23年1月より新オフィスを稼働した。生産性の向上、グループ会社・部門間の連携強化、社員エンゲージメントの向上を目的に、多様な働き方を実現できるスペースを設けるとともに、社員同士のコミュニケーションが生まれる動線・空間づくりも意識している。対象となったのは、神保町三井ビルディング(東京都千代田区)の4~7階(9,547.84平方メートル)だ。全席をフリーアドレスに設定。対象従業員約1,200人のうち2割が在宅になることを想定し、従来比で2割ほど座席数を削減している。

◆集中スペースやコラボスペースなど、6種類の空間を用意

 同社のフリーアドレスは、自身の業務スタイルに合わせて席を柔軟に選択することを指す。朝は資料作成のために集中ブースを利用し、午後は仲間とアイディア出しを行なうため打ち合わせスペースに座るといった具合に、1日同じ席で作業するというより、業務に合わせて席を移動することを想定している。

完全個室で防音対策がなされた「Phoneブース」
複数人で会話しながら作業を進めることを想定した「コラボレーションスペース」

 そのコンセプトに基づき、同社では、「集中作業スペース」「Phoneブース」「(会話を重視した)コラボレーションスペース」といった6種類に及ぶ席(空間)を用意した。

作業のしやすい120度あるデスク
リラックス効果のある植栽付きのカウンター

 それぞれのスペースにおいても、図面等が広げやすい120度あるデスクや植栽付きテーブルといったさまざまなタイプの席を用意している。社員が自己判断で業務に合わせた空間を選択するためには、あらかじめ1日当たりの業務内容や作業工程の把握、スケジュールの設定を詳細に行なうことになるため、生産性の向上等が期待できる。

6階のスペース配置図。中心部に「交流」を、両端に「集中」を促すスペースを配置している

 また、各フロアは、中心部に交流を重視したスペース、両端に集中スペースを配置することで、すべてを壁で仕切らなくても作業しやすい環境を整備している。これは、空間の圧迫感の軽減や工事費の圧縮にもつながるだろう。

集中した打ち合わせ等ができる、ファミレスのようなボックス席
大型モニター見ながら打ち合わせができる席

 実際に現地を見学した印象としては、各スペースにおいて複数人用の席が想定より多かったこと。ファミレス席のようなタイプや大型モニター付き、横並びでレクチャ―できる席など、実際にさまざまな空間を活用しながら、社員同士が活発に会話している姿が印象的だった。

◆機器のサポートデスクや昇降可能デスクの設置でストレスを軽減

機器の相談等を受け付ける専門デスクを設置
昇降可能デスクを各所に配置。気分転換に立ちながら作業することも可能

 また、フリーアドレス化にあたっては、固定電話の廃止、デュアルモニターの導入などを行なったが、新しい機器等に不慣れな社員に向けて、相談事を受け付けるサポートデスクを共用スペースに設けた。同デスクでは、共用タブレット等の貸し出しも行なっている。また、上下に昇降可能なデスクを、通常の作業スペースでも採用するなど、各所で採用することで、作業効率の向上に配慮。さまざまな面で従業員のストレス軽減も図っている。

 記者が見学したのは稼働から約1ヵ月であったが、同社代表取締役社長兼社長執行役員の川畑文俊氏は、「若い世代を中心に空間をうまく活用・移動しながら、活発なコミュニケーションが生まれている」と、すでに新オフィスの効果が出ていると話した。一方で、ベテラン層を中心に席が固定化する傾向もあるとして、その辺りの柔軟性を高めることが今後の課題だそうだ。

◆◆◆

 同社の場合、各スペースに十分な席数があって、従業員が好きな席を選べる余地があることが、自己判断によるスペース移動を実現できる秘訣のように感じた。それは、従業員が在宅勤務を積極的に活用できる環境を整えていることに関係している。理想の働き方を実現するためには、出勤する際のオフィス環境の整備だけでなく、在宅勤務やモバイルワーク等が十分に活用されるような制度設計の構築を両輪で行なうことが重要になりそうだ。不動産業の領域を超えることにはなるが、例えば、オフィスリノベーションの提案とあわせて、在宅勤務体制のコンサルティング等も同時にできれば、顧客に喜ばれるかもしれない。(umi)

記事のキーワード 一覧

この記事の用語

フリーアドレス

席を固定せずに仕事をする働き方。和製英語である。

続きはR.E.wordsへ

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年3月号
カスハラ対策を学び、スタッフの心を守る
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/2/1

「海外トピックス」更新しました。

『ゾンビ化』するショッピングモール 【アメリカ】」配信しました。
いま米国では、ショッピングモールが集客力を失い、閑散化、閉業の憂き目に遭うケースが増えています。あの「デロリアン」が走ったショッピングセンターも今や…。一方、再利用によって明るい兆しも見えつつあります。現地ライターがレポート。