企業のオフィスが一昔前とは様変わりし、出勤したくなる、快適に過ごせる、そして行けば仕事がぐんぐんはかどるオフィスが増えている。
前編に引き続き取材で訪れたオフィスを紹介しよう。
◆(株)MIXI
異業種のオフィスも紹介しよう。デジタルエンターテインメント事業などを展開する(株)MIXIが、渋谷スクランブルスクエア(東京都渋谷区)に構えるオフィス。エントランスからわくわくする仕掛けであふれていた。
オフィスのエントランスと言えば、最小限のスペースに呼び出し用の内線電話が置いてあるイメージだが、こちらの会社では、エレベーターを降りるとあえて暗いホールとなっていて、トンネルを抜けるかのように明るい方向に歩を進めると、同社のエントランスとなる。入ると、アミューズメント施設に来たのではないかと錯覚するつくりとなっている。
受付・エントランスは、出社というより、まるでテーマパークに来たかのよう。わくわく感が演出されている。
大規模ビルでは、フロアの移動だけでもかなりのタイムロスが発生してしまう。そこで同社は、ビル竣工前からオフィス設計に着手し、ビル着工時に内階段を設置した。移動が容易になり、人と行き交う機会が増え、コミュニケーション機会の創出にもつながっているようだ。
同社の執務スペースは従来は完全固定席としていたがか、部署ごとの出社頻度により効率的に座席を使用できるよう、グループアドレスの導入を検討・検証中だという。
また、メインの執務スペースのほかにも、オフィス内にはさまざまなスペースが用意されている。集中したいとき、おしゃべりしたいとき、さらにはちょっと休憩したいとき…など。歩き回ればどこかしらに、自分が求めていたスペースが現れる。この感じは、ホテルに通じるものがあるように感じた。
会議室も多彩。人数、スペース、机など、フロアごとに雰囲気も違う。家具なども部屋により異なる。気分によって部屋を選ぶ楽しさもありそうだ。
最近は社員食堂の効果が見直されているが、同社にもおしゃれな「社員食堂」が設けられている。
ビュッフェ形式で毎日16品が提供されるという。メニューは日替わり。グラムで料金が決まるが、外食するよりかなり安価に食べることができる。栄養バランスも考えられたメニュー構成で、利用者も多いという。この食事が食べたいがゆえに出社してきている人もいるはず?
◆日本GLP(株)
一般的なオフィスでは、来客があった場合、受付担当者もしくは内線電話により訪問先担当者と連絡をとり、応接等へ移動…というのがセオリー。しかしこの流れを変えてしまったのが、日本GLPのオフィスだ。
22年12月、竣工間もないミッドタウン八重洲(東京都中央区)に移転した同社のオフィスでは、受付を廃止。訪問者は同社が発行するQRコードを携行し、ビルのエントランス、同社の入口を通過する。
すると、「Isshin Hub」と名付けられた来客スペースが広がっている。来訪者はアポイントまでの時間、そして同社での用件が済んだ後、このスペースを自由に使うことができる。
同社社員はもちろん、来訪者や出入りする事業者も含めて、偶発的な出会いを創出するための場として用意されているのがこのスペースである。QRコードは入室から退室まで6時間有効。QRコードを持つ人は、アポイントの時間より前にこの場所に来て休憩やモバイルワークなどをするこもできる。そしてこの場に“偶然”居合わせた人と生まれる談笑こそが、同社の狙いでもある。社員の執務エリアはこの来客スペースの反対側にあるが、フリーアドレスを導入している同社では、この来客スペースで仕事をしている人も多い。社員も含めた偶発的な出会い創出を生み出す場として機能させたいという願いがこの場所には込められている。
案内された応接スペースなどで用件が済んだら、こちらで散会となる。前述のように残って仕事をしたりすることもできる。オフィスはミッドタウン八重洲内にあるため、このスペース目当てに同社を訪れる人が今後増えるのではないかと思われる。
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数々のオフィスを取材する機会に恵まれたが、よく耳にしたのが、「コミュニケーションが活発化する、イノベーションを創出する場になるよう企画した」という話だった。ザイマックス不動産総合研究所の調査結果からも、メインオフィスについて関心のある施策について聞いたところ、最多は「コミュニケーションのための場づくり、集まるための機能を重視する」が最多回答となっている(大都市圏オフィス需要調査2022 秋②)。
コロナ禍を経験し、家でも、どこでも仕事ができるということが広く認識されるようになった。一方で、グループで成し遂げる、イノベーションを起こすといった、その目的や内容によりオフィスが最適の場となる取り組みもあり、会社としてはより高い成果を生み出すためにオフィスに人を“出勤させる”必要にも迫られている。そのため、社員が“出勤したくなる”オフィスづくりは今後ますます活発化すると想像できる。
結果として、行くと楽しい、健康になる、仕事がはかどるオフィスが増えることにつながっており、就労者の一人として大変喜ばしく思う。(NO)