記者の目 / その他

2023/3/8

出勤したくなるオフィスが増加中(後編)

企業のオフィスが一昔前とは様変わりし、出勤したくなる、快適に過ごせる、そして行けば仕事がぐんぐんはかどるオフィスが増えている。
前編に引き続き取材で訪れたオフィスを紹介しよう。

◆(株)MIXI


 異業種のオフィスも紹介しよう。デジタルエンターテインメント事業などを展開する(株)MIXIが、渋谷スクランブルスクエア(東京都渋谷区)に構えるオフィス。エントランスからわくわくする仕掛けであふれていた。

 オフィスのエントランスと言えば、最小限のスペースに呼び出し用の内線電話が置いてあるイメージだが、こちらの会社では、エレベーターを降りるとあえて暗いホールとなっていて、トンネルを抜けるかのように明るい方向に歩を進めると、同社のエントランスとなる。入ると、アミューズメント施設に来たのではないかと錯覚するつくりとなっている。

壁には巨大なサイネージが。動画の完成度の高さは、さすがゲーム事業を手掛ける同社ならでは
壁には巨大なサイネージが。動画の完成度の高さは、さすがゲーム事業を手掛ける同社ならでは
エントランスの装飾はシーズンやイベントにより変わるとのこと。写真はクリスマス時期の装飾。まるでテーマパークのよう

 受付・エントランスは、出社というより、まるでテーマパークに来たかのよう。わくわく感が演出されている。

インパクトのある巨大なサイネージで巨大なサイネージに、オフィスであることを忘れそうだ

 大規模ビルでは、フロアの移動だけでもかなりのタイムロスが発生してしまう。そこで同社は、ビル竣工前からオフィス設計に着手し、ビル着工時に内階段を設置した。移動が容易になり、人と行き交う機会が増え、コミュニケーション機会の創出にもつながっているようだ。

ガラス越しに見えるのが内階段

 同社の執務スペースは従来は完全固定席としていたがか、部署ごとの出社頻度により効率的に座席を使用できるよう、グループアドレスの導入を検討・検証中だという。

同社の執務スペース。デスクはゆとりある配置。現在グループアドレスの導入を検討・検証中

 また、メインの執務スペースのほかにも、オフィス内にはさまざまなスペースが用意されている。集中したいとき、おしゃべりしたいとき、さらにはちょっと休憩したいとき…など。歩き回ればどこかしらに、自分が求めていたスペースが現れる。この感じは、ホテルに通じるものがあるように感じた。

集中作業に適している、ミーティングや雑談などがしやすいなど、多様なスペースが用意されている
ホテルのロビーのような空間も

 会議室も多彩。人数、スペース、机など、フロアごとに雰囲気も違う。家具なども部屋により異なる。気分によって部屋を選ぶ楽しさもありそうだ。

会議室は、フロアごとのテーマに合わせて意匠を変えている。打ち合わせの内容やその日の気分によって部屋を選択することも可能
大画面モニタ付きの会議室では、ディスカッションが盛り上がりそう

 最近は社員食堂の効果が見直されているが、同社にもおしゃれな「社員食堂」が設けられている。

社員食堂。ビュッフェ形式で提供されている
メニューには麺類、カレーなども

 ビュッフェ形式で毎日16品が提供されるという。メニューは日替わり。グラムで料金が決まるが、外食するよりかなり安価に食べることができる。栄養バランスも考えられたメニュー構成で、利用者も多いという。この食事が食べたいがゆえに出社してきている人もいるはず?

館内調理のおいしそうなメニューが並ぶ。好みに合わせて好きな量をとることができる
食堂併設のスペースで眺望を楽しみながら食べるのもOK。テイクアウトしてデスクで食べるのもOK

◆日本GLP(株)

 一般的なオフィスでは、来客があった場合、受付担当者もしくは内線電話により訪問先担当者と連絡をとり、応接等へ移動…というのがセオリー。しかしこの流れを変えてしまったのが、日本GLPのオフィスだ。

 22年12月、竣工間もないミッドタウン八重洲(東京都中央区)に移転した同社のオフィスでは、受付を廃止。訪問者は同社が発行するQRコードを携行し、ビルのエントランス、同社の入口を通過する。

日本GLPの入口。入口のところにある機械にQRコードをかざして入ると…

 すると、「Isshin Hub」と名付けられた来客スペースが広がっている。来訪者はアポイントまでの時間、そして同社での用件が済んだ後、このスペースを自由に使うことができる。

来客スペースは、談話、打ち合わせ、コワーキングなど多様に使用できる空間となっている
ボックス席なども用意されている

 同社社員はもちろん、来訪者や出入りする事業者も含めて、偶発的な出会いを創出するための場として用意されているのがこのスペースである。QRコードは入室から退室まで6時間有効。QRコードを持つ人は、アポイントの時間より前にこの場所に来て休憩やモバイルワークなどをするこもできる。そしてこの場に“偶然”居合わせた人と生まれる談笑こそが、同社の狙いでもある。社員の執務エリアはこの来客スペースの反対側にあるが、フリーアドレスを導入している同社では、この来客スペースで仕事をしている人も多い。社員も含めた偶発的な出会い創出を生み出す場として機能させたいという願いがこの場所には込められている。

コーヒーマシン、ウォーターマシン、さらには冷蔵庫には茶(緑茶、紅茶など)やジュースなど多種多様なドリンクが用意されていて、来訪者はセルフサービスで自由に飲むことができる
サイズや仕様の異なる応接室が複数用意されている。打ち合わせなどで疲れたら、外に出てきて休憩できるよう、テーブルセットやバーカウンターなども設けられている

 案内された応接スペースなどで用件が済んだら、こちらで散会となる。前述のように残って仕事をしたりすることもできる。オフィスはミッドタウン八重洲内にあるため、このスペース目当てに同社を訪れる人が今後増えるのではないかと思われる。

◆ ◆ ◆

 数々のオフィスを取材する機会に恵まれたが、よく耳にしたのが、「コミュニケーションが活発化する、イノベーションを創出する場になるよう企画した」という話だった。ザイマックス不動産総合研究所の調査結果からも、メインオフィスについて関心のある施策について聞いたところ、最多は「コミュニケーションのための場づくり、集まるための機能を重視する」が最多回答となっている(大都市圏オフィス需要調査2022 秋②)。
 コロナ禍を経験し、家でも、どこでも仕事ができるということが広く認識されるようになった。一方で、グループで成し遂げる、イノベーションを起こすといった、その目的や内容によりオフィスが最適の場となる取り組みもあり、会社としてはより高い成果を生み出すためにオフィスに人を“出勤させる”必要にも迫られている。そのため、社員が“出勤したくなる”オフィスづくりは今後ますます活発化すると想像できる。
 結果として、行くと楽しい、健康になる、仕事がはかどるオフィスが増えることにつながっており、就労者の一人として大変喜ばしく思う。(NO) 

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コワーキングスペース

属性の異なる人々が共同で利用し、相互に交流することのできる仕事場。英語のcoworking space。業務のための場所を共有するだけでなく、利用者間の交流が生まれるところに特徴がある。また、交流を促すための行事などが実施される場合もある。

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