記者の目

2023/6/12

インバウンドの「コト」消費にも拍車が!

 新型コロナウイルス感染症の拡大時には、それまでまちにあふれていたインバウンドの姿が一気に見られなくなりました。しかし2023年の春くらいから、その数は明らかに増えてきています。今後外国人観光客は順調に増えていくのでしょうか? 日本での消費に期待は持てるのでしょうか?  「月刊不動産流通」で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中の佐々木城夛氏は、実はデータ分析のプロでもいらっしゃいます。インバウンド関連の数字を紐解きながら、今後の状況について聞きました。

◆まちで見かける外国人観光客は着実に増加

 ‐‐観光地やターミナル駅などで見かける外国人観光客は、着実に増えていますね。

 「新型コロナウイルス感染症が、2023年5月8日をもって感染症法上の位置付けを「5類感染症(定点把握)」に移行され、いわゆる“水際対策”が終了。それまで訪日外国人旅行客に求めていた「72時間以下の陰性またはワクチン3回接種のいずれかを証明する書類の提示」が不要となったことで、観光で日本に訪れる外国人が増えているのは間違いありません」

 ‐‐為替相場が円安に振れていることも追い風になっているのではないでしょうか?

 「そのとおりだと思います。外国人側から見て日本の物価が割安に映っていることで、『日本に行ってみよう』という動機につながっているのでしょう。

まちで見かける外国人観光客の数は着実に増えている(写真はイメージ)

 ‐‐首都圏では、アジア系外国人より欧米系外国人が多いように思います。

 「日本政府観光局(JNTO)が発表した今年1~3月の来日外国人総数を見ると、速報値で約479万人。新型コロナ感染拡大前の19年1~3月の約805万人の6割弱まで回復しています。国別の内訳では、韓国の160万人超が最多で、全体の3分の1を占めています(図表1参照)。

 にもかかわらず欧米系の比率が高い印象を受けるのは、
①英・仏・独・伊・西の欧州諸国に加え、米・加・豪の回復率が全体平均を上回っている
②かつて最多であった中国の回復率がまだ6%台にとどまっている
からだと思われます。
 ちなみにアメリカからの来日外国人数は19年のそれをすでに上回っており、データ上では完全にコロナ前の水準まで回復しています」。

佐々木城夛氏

◆一人当たりの消費額は約5割増し

 ‐‐外国人観光客ですが、コロナ前とコロナ後で、消費活動や滞在活動に違いが見られたりするのでしょうか?

 「断言はできませんが、数字からは、訪日後の消費行動が変化している可能性がうかがえます」

 ‐‐具体的には、どのように変化しているのでしょう?

 「回復度合いが、旅行総額が9割弱、人数が6割弱であることから、単純計算で1人当たり約1.5倍消費していることが分かります(図表2)」。

 ‐‐一人当たりの消費額がそんなに増えているのですね

 「そうなんです。分類別でも、『宿泊費』『娯楽等サービス費』が19年を上回っています。このことから、以前より消費活動は活発化しているということが言えると思います。
 しかし、買物代は人数を下回る約58%までしか回復していません(図表3参照)。

 こうした状況を踏まえると、
1.円安もあって「これまでより良い宿に泊まろう」という観光客が増えている可能性がある
2.来日・滞在時の志向が、買物や土産から体験に移ってきている可能性がある
ということが考えられるでしょう。

 ‐‐モノよりコトに関心が向いているということですね。

 「はい。私はGWに浅草へ行きましたが、浴衣などに着替えて写真を撮る外国人観光客を数多く見かけましたし、リゾート地として有名な北海道のニセコ町でも、連休中、ラフティングを楽しむインバウンドの数が、ピーク時の8割くらいまで回復したとの話を聞きました。コト消費を喜ぶ人が増えている可能性は高いのではないでしょうか」

 ‐‐外国人観光客は、もう以前ほど買物はしてくれないということなのでしょうか。

 「そんなことはないと思います。かつて盛んに報じられた“インバウンド需要≒訪日中国人を中心とする爆買い”を思い返せば、中国人観光客数が往時の水準に達すれば、相応の購買需要がもたらされる可能性はあるでしょう。
 一方で、19年以降の3ヵ月毎の推移では、外国人眼光客が訪日時に消費した額に占める『買物代』の占有率は、19年4~6月期の36.79%が最高値で、以降はそこまで到達していません。やはり、大きな潮流としては、体験型消費のニーズが伸びる可能性が高いでしょう」

◇ ◇ ◇

 国内では、モノよりコトを重視する層が増え、旅行に出かけたときの過ごし方も以前とは変わってきているという話を聞くが、外国人観光客についても同様の変化が起きているようだ。そうした変化をビジネスチャンスと捉え、取り組みを進めるのも一考ではなかろうか。
例えば、民泊。コロナの時には利用者数が大きく落ち込んだが、いわゆるホテル等とは異なる場所に立地する物件も多く、長期滞在にも適していると考えれば、今後は需要が伸びてくるのは間違いないだろう。またコトの提供と組み合わせて宿泊場所を提供していけば、関係人口の獲得や地域創生にもつなげられるかもしれない。(NO)

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