記者の目

2026/3/3

郊外空き家をアーティストにマッチング

 最新の「住宅・土地統計調査」によると、2023年10月時点で空き家は全国に約900万戸存在する。3月の閣議決定が見込まれる新たな住生活基本計画(全国計画)は、ストック重視の傾向が鮮明になり、空き家の再生や活用に関する項目が盛り込まれそうだ。ただ、都市部の空き家と違い、郊外の空き家は空き家バンクに登録しても借り手や買い手がなかなか現れず、そのまま劣化が進んで結果的に解体か放置という選択肢しか残らないケースも少なくない。そうした郊外空き家を、活動の場を探すアーティストやクリエイターにマッチングするためのツアーが静岡県で行なわれた。1月31日に行なわれたツアーに記者が同行、その模様をリポートする。

◆創作・保管の場として空き家を紹介

 このツアーは、アーツカウンシルしずおか((一財)静岡県芸術財団)が主催する空き家活用パイロット事業「fresh air」の一環。制作や展示といった活動の場を求めるアーティストに、自由な表現に使える場として空き家をマッチングする取り組みだ。県内各地で空き家ツアーを行なっており、不動産会社やまちづくり会社などと連携し、地域の空き家を案内している。この2月までに島田市・川根本町、御殿場市、熱海市、静岡市の旧蒲原地区という県内4エリアで開催した。

 なぜアーティストと郊外空き家なのか。アーツカウンシルしずおかでプログラム・コーディネーターを務める立石沙織氏は「アーティストは創作や作品保管、ワークショップなどの場を求めていますが、それには『ある程度の広さ』や『静かな環境』『安価に使用可能』といった条件が必須。そのため郊外空き家と相性がいいと考えています」と語る。同じ空き家でも、都市部の空き家ではそうした条件を満たすことが難しいというわけだ。一般には借り手・買い手探しに苦労する郊外の老朽化した郊外空き家でも、アーティストであればDIYで修繕したり、その修繕自体をイベント化して集客する人も多いという側面もある。

◆地元の空き家買取会社が案内

 今回同行したツアーは、島田市と川根本町とで行なわれたもの。静岡ガス(株)のグループ会社で、「空き家買取専科」のブランドで空き家の買取再販事業を展開する(株)Sweets Investment(静岡市駿河区、代表取締役:玉木 潤一郎氏)が「fresh air」の一部を受託してマッチングツアーを企画・運営した。同社は、2018年から静岡県内で空き家を活用した官民連携を含む移住体験ツアーを行なっている。今回、アーティストと空き家のマッチングを目的としてツアーに協力するのは初めての取り組み。静岡ガスのグループとして地域の持続可能性の維持は大きな課題であり、空き家の活用はそのための重要な要素となる。

 島田市は、市でも移住体験ツアーを行なうなど、移住者確保施策を積極的に行なっており、空き家率は市全体で11%強となっているが、市北部の川根地区は中山間地域ということもあり、空き家率は市の平均よりも高いとみられる。同市の北に位置する温泉やSLの走る大井川鉄道で有名な川根本町は、人口約5,500人に対して空き家が600件という空き家率の高さが課題。そのため、空き家活用による移住・定住者確保に積極的に取り組んでいるが、町内に宅地建物取引事業者が極端に少ないため、空き家の活用を提案する担い手が不足しているとのことだ。

◆6組7人のアーティストが参加

マイクロバスで各空き家を回った

 ツアーに参加したのは6組7人。絵画や彫刻、竹細工、デジタルファブリケーション、音楽など多様なジャンルで活躍するアーティストが集まった。参加理由を聞くと、「自宅で創作活動をしているが、家の中だと大きな作品を作りたくても不可能。それに、作品保管でかなりのスペースを占領してしまったので、創作活動や作品保管に使える場所を探したい」「ワークショップを開きたいが、いちいち場所を借りるのもコストがかかるので、そうした人を集める場として使えるスペースがほしい」というものが大半。中には、「空き家とアーティストのマッチングという珍しい試みに参加することで、自分のこれからの活動のヒントを得たい」という人もいた。

 参加者たちは島田市内で2件、川根本町で2件の空き家を見学した。最初に見学したのは、島田市のJR東海道線「六合」駅から徒歩9分の住宅街に建つ空き家。築55年の木造平屋建てで、延床面積は83.58平方メートルで間取りは5DK。壁クロスや畳を新調した。外観は前オーナーがパステルカラーに塗装するなど、個性的な色合いに。ただ、この物件はツアーの前日に地元企業が社宅として賃貸することが決まっていたことから、「参考程度」の見学となった。

 次に移動したのは島田市郊外に所在する80年代後半に建てられた1棟2戸の空き家。同社が買取予定だが契約前だったことから、詳細は割愛する。地元のインフラ企業が拠点として使っていた建物で、同企業の社宅にも使われていた。現所有者の同企業子会社の担当者は「地域のインフラ関連企業はかつて、郊外部にも顧客フォローのための社員詰め所のような建物を持っていました。インターネットの発達によってその役割が失われ、空き家となる物件も増えています」と話す。郊外立地であるがゆえに活用を希望する人も少なく、「郊外空き家の活用を促進する今回のツアーのような取り組みは歓迎したい」という。

 3件目に見学したのは川根本町の中心部に所在する築62年の木造平屋建て、延床面積は92.81平方メートル。かなり経年劣化が進み、空き家バンクに登録されているが、長期間住み手が見つかっていない。「一応値段はついているが、オーナーは『ただでもいい』と言っているほど」(川根本町役場職員)。

築62年の木造平屋。かなり老朽化していた
キッチンの状態も古く、大規模な改修が必要だと感じさせた
室内もかなりボロボロになっていた

 最後は同社が買い取って修繕し、川根本町の空き家バンクに掲載している延床面積132.45平方メートル、築38年の木造2階建て。DIY可能物件として賃貸しており、賃料は5万5,000円。町営バスの停留所徒歩8分と生活利便性も高く、2台分の駐車場もある。坂を上がった高台にあり、2階からの景色は抜群だ。

空き家買取専科が取得・修繕し、空き家バンクを通じて貸し出している木造2階建て
いまの新築ではなかなかお目にかかれない味わいのある建具が目を引いた

◆修繕必須の老朽空き家が参加者の創作意欲掻き立てる

 見学後は川根本町内の飲食店に移動して意見交換会。それぞれの参加者が自分の創作活動について紹介した後、各空き家を「自分ならどう使う」などといったテーマで自由に意見を出し合った。2番目の1棟2戸の住宅については、幹線道路沿いで前面に広い駐車スペースがある点を評価する声が多く、「一方の住戸に住み、もう一方は人を集めてワークショップを開いたり、民泊を経営したりといろいろな活用方法が頭に浮かんでくる。取得や賃借を前向きに考えたい」などといった活用のアイディアを口にする参加者もいた。

 最後に見た物件は、2階の和室からの風景を生かして、「2階に直接階段を外付けし、人を集めることができる場所にしてみたい。ワークショップだけでなく、地域交流の拠点として活用するのも面白い」などといった声が挙がった。

 参加者が一番盛り上がったのは3番目に見た「オンボロ物件」。使い勝手の良いサイズ感と、「入居するのであれば改修が必須。DIYも可能」という条件がアーティストたちの琴線に触れたようだ。「建物はボロボロだが、これを改修して自分の作業場として、どのような空間に仕立てていけるのか、考えるだけでワクワクする」「古い建具に細かな細工が残っていて、とても美しい。人の住んでいた跡も残っており、インスピレーションが掻き立てられる」など、創作意欲をくすぐられたという声が多く挙がった。

ツアー最後に行なわれた意見交換会。各参加者が自分なりの空き家活用アイディアを披露した
3件目の空き家に残っていた柱の傷。こうした人が住んでいた記憶も参加者のインスピレーションに火をつけたようだった

◇◇◇

 「空き家×アーティスト」という組み合わせは「なるほどこの手があったか」と感じさせられた。老朽化が進んでいても彼らには自分で修繕して使える状態にする能力がある。実際、筆者がかつて取材した空き家活用事例では、老朽化が進んだボロボロの空き家をクリエイターが安く買い取り、DIYで修繕しながらアトリエとして使うというケースがあった。

 一口に「空き家」といっても、都市部の空き家は不動産流通市場に出れば、価格は低くても流通はすると言われている(もちろんモノにもよるが)。本当に解決が必要なのは、郊外部の老朽化した空き家だ。一般ユーザーではなかなか手が出しにくい物件だが、それとは異なる目線で見ることができる人たちにマッチングすることは、地方・郊外の空き家対策として非常に有益なのではないだろうか。(晋)

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