記者の目 / リフォーム

2019/11/11

EVなし物件をDIY可で人気物件へ

変電施設付き企業社宅をクリエイター専用オフィスに

 エレベーターなしの上階は借り手が付きにくいというのが賃貸住宅において一般的だ。今回紹介する「co-factory渋谷」(東京都渋谷区、全8区画)も、EVなしでなかなか借り手が見付からずオーナーが苦慮していた物件。そこを売買・賃貸仲介、既存住宅の買取再販事業、空き家再生事業等を手掛ける(株)ジェクトワン(東京都渋谷区、代表取締役:大河幹男氏)が、クリエイター向けのDIY可オフィスとして転用することで、人気物件に蘇らせた。

◆既存の用途にこだわらない

「co-factory渋谷」外観
DIY後の専有区画

 同物件は、敷地面積601.5平方メートル。1967年7月築(築52年)の鉄筋コンクリート造地上4階建て。「渋谷」駅徒歩4分に立地する、元企業社宅。

上階の住戸へ行くには階段のみ(従前の玄関)
築50年以上とあり借り手が付かなかった(従前の居室)

 数年前に社宅としての役目を終えていたが、1・2階に変電施設があるため、建て替えることは不可能とあって、所有者は賃貸住宅として貸し出したいと考えていた。しかし、渋谷駅近くという好立地で、建物の耐震性能は問題ないものの、築年数が古く、エレベーターなし、3・4階が居住空間ということで、借り手がなかなか見つからなかったという。

 相談を受けたジェクトワンは、住居として提供するのではなく、クリエイター向けのオフィスとして活用することを考案。「階下が変電施設もしくは同じ意識を持った仲間となれば、音が出るような作業も思う存分できるのではないか、また渋谷という立地もクリエイターやスタートアップを集客するのに適しているのではと考えました」(同社地域コミュニティ事業部チーフ・布川朋美氏)。また、せっかくクリエイターに貸し出すのであれば、専有区画は入居者が自由にDIYできる形式で貸し出す方が、顧客満足度が高いうえ、改修費用も抑えられると考えた。

◆DIYしやすい状態で引き渡し

 改修では、老朽化していた箇所を中心に刷新を図った。

住居用の玄関ドアを刷新し、オートロックを設置
廊下には水回り設備を設置し、随所にアートを設置

 1階の住居用入り口のドアを金属製に変更。オートロックシステムも取り付けた。階段の踊り場や廊下には、アートを設置し、空間のアクセントに。廊下には共同トイレのほか、給湯スペースも設けた。水道管も劣化が進んでいたことから刷新している。

元々活用されていなかった3階テラス
鉢植えやテーブル・イスの設置で憩いの場に

 スペースの兼ね合いで室内にはテナント同士が交流できる共用スペースを設けられなかったことから、3階にあるテラスを有効活用。庇、ベンチ、テーブルとイス、鉢植えなどを新設し、憩いの場に変えた。

間仕切り壁等を取り壊し、スケルトン化
引き渡し時の専有区画。エアコン取り付け、電気工事などはあらかじめ済ませた

 元々3DKだった専有部(46.60、48.30平方メートル)はスケルトンにして、間仕切り壁を壊し、広く空間を使えるようにした。電気工事を済ませ、インターフォン、エアコン、スマートロックなどの必要設備は設置し、入居者が表面材の改修だけすれば良い状態に仕上げた。表面材の変更であれば、原則、原状回復は不要で貸し出している。

木材を多用した部屋
収納棚でゆるやかに空間を区切った部屋

 「空間デザインは入居者の自由としましたが、『床や仕切りに木材を多用して温かみのある空間に仕上げる』『収納棚を活用して空間をゆるやかに仕切る』など、われわれが想像する以上の素敵な空間に仕上がっており、次の入居者さんにもきっと喜ばれると考えています」(同氏)。

◆地域に貢献する仕組みも

 不動産会社がオーナーにリノベーションを提案する場合、費用はオーナーが全面負担という形式が通常。同プロジェクトでは、オーナーの初期費用の負担を減らし、事業化しやすくするため、同社が物件をサブリースして、全額リノベーション費用を負担するかたちを採った。改修費用は総額約7,000万円だ。一方で、入居者を支援するため、入居者の賃料は坪当たり1万5,000円と極力抑えた。

 その分、同物件独自の入居条件として「地域貢献活動に参加すること」を設定している。「オーナー等とせっかくこういった施設を設けるならば、まちに貢献できる仕掛けを取り入れたいという話になりました。そこで入居者には年に4回程度実施予定のミーティングを通じて地域貢献につながるようなアイディア提案をしていただくことを入居する条件としてお伝えしています。各社のクリエイティブな発想やスキルを生かしながら渋谷区の課題を解決するような試みを行なっていきたい」(同氏)。

 2019年5月に竣工。テナントによる専有部改装を実施し、6月にグランドオープンした。10月現在、グラフィックやウェブデザイン、未来型ゲームプロデュースなど、クリエイティブ系企業が入居し、満室の同物件。今後、同施設で生まれる活動がまちにどのような影響を与えるのか、その展開が楽しみだ。

◆◆◆

 駅からのアクセスはいいものの、賃貸住宅としては条件が悪く、活用が進まなかった同物件。住宅にこだわらない活用を行なうことで、人気物件へと生まれ変わった。不動産会社が空き家活用を提案する際、柔軟な発想で取り組めば、新たな活路が見つかるケースも少なくないはずだ。(umi)

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