記者の目 / 開発・分譲

2026/3/4

住民の「愛」を未来へつなぐ

業者の撤退、団地内の分断乗り越え、建て替えに成功したマンション

 分譲マンションがその歴史を歩み出してから、すでに約70年。老朽ストックの増加とともに、建て替えを検討する物件も増えてきた。しかし、区分所有者の合意形成を筆頭に、事業費のねん出や優秀な事業協力者の不在など、さまざまな困難から、建て替えに成功するマンションはまだまだ少数だ。そうした中で、幾多の困難を乗り越え、大規模マンションの建て替えに成功した関係者の話を紹介したい。

「長期割賦」での販売が管理への無関心生む

 「団地内が賛成派と反対派に二分した経験から、中立・透明性を重視した情報提供を繰り返した。『建替えに賛成して欲しい』という合意形成ではなく、否決でも良いので棄権せず、一人ひとりが意思決定できる情報の共有に徹し、メリット・デメリットを一人ひとりに客観的に提示するドライなやり方だったからこそ、今回の建替え事業が実現できた」――20年にも及ぶ住民による議論を経ての建て替え事業を成し遂げた桜台団地マンション建替組合理事長の鈴木 実氏は、感慨深げにこう語る。

 2025年12月に竣工した横浜市住宅供給公社の「プロミライズ青葉台」(横浜市青葉区、総戸数761戸、うち非分譲住戸205戸)は、1966~67年に竣工した「桜台団地」(総戸数456戸)の建て替えマンションだ。高経年マンションがみなそうであるように、同団地も21世紀を迎えるころ、建物の劣化とその更新という問題が浮上。最終的には、建て替えという形で問題は解決するのだが、そこに至るまでには様々な困難が待ち受けていた。

20年余の時間をかけ総戸数456戸の団地を建替えた「プロミライズ青葉台」

 まず問題だったのが、戸数の多さに加え「長期割賦」により分譲されていた、ということ。全戸の支払いが終わるまでは、分譲した横浜市住宅供給公社が賃貸住宅と同様に管理をしていた。つまり、「管理組合」が存在していなかった。全戸償還が終わった1999年に管理組合が設立されるのだが、組合員(住民)の多くが組合活動(管理)には無関心だった。これが、建て替えにおいて何より重要な「合意形成」を阻む遠因となった。

 組合は2004年に建て替えに向けた調査委員会を設置。06年に建て替えコンサルティングをあるディベロッパーに委託する。ところが、リーマンショックが起きるとこのディベロッパーは、管理組合に何の説明もないまま撤退。これにより、組合員は「建て替え派」と「修繕維持派」とに分断されてしまう。

建替え前の「桜台団地」。東急田園都市線開業とともにできた大規模団地。割賦販売で管理組合が存在しなかったことが、住民の管理意識の希薄化を生み、建て替えに時間を要した遠因となった

主役はあくまで組合員。お金を払って「プロ」を使う

 「(組合員の多くが)関心を持たずディベロッパー任せにしたため、客観的な調査もないまま、老朽化を理由に建て替えに突き進んだ。新しい建物に無償で住めるのであれば、だれもが賛成するはずと根拠なく思い込んだ」(鈴木氏)。この混乱により、検討開始から8年もの時間が空白となった。

 しかし、その反省を糧に同組合は「団地の将来は組合員全員が総会で決める」「組合員の権利は平等」「必要な情報を『プロ』の力を借りて集める」「プロの力を借りるには費用が掛かる」「メリット・デメリットを明確に示し組合員自らの判断で選択する」「建て替え・修繕のミスリードは不要」といった、団地再生に向け組合員の意識変革に取り組むべく、活動を本格化していく。

 団地再生に向けた検討委員会は、あくまでも中立の立場を堅持。「建て替え」だけでなく「修繕」についても、外部コンサルタントを公募、判断材料となる情報収集にあたった。2010年から同団地の事業主でもあった横浜市住宅供給公社がコンサルタントとして参画。組合は建て替えの検討を進めつつも、13年には2億円を投じて大規模修繕も実施。建て替えがなされない場合でも、快適な生活環境が確保できるように手を打った。
 建て替え・修繕を併行して検討していく中で、居住性の向上やその後の維持管理コストなど様々な条件面から、建て替えの推進がベストとなり、検討委員会は建て替え推進特別委員会に改組、住宅供給公社は建て替え推進コンサルタントとして、組合員へのアンケートなどを介して意見の集約を図っていく。

 15年の総会で、無事建て替え推進決議が可決した。16年には(株)URリンケージにも組合員の合意形成支援を依頼。以後、横浜市住宅供給公社とともに、事業協力者として「中立の立場」から建て替えまでを伴走していくことになる。

全ての組合員と2回面談。建て替え決議を1年半延期

 「(建て替え決議に向けた)合意形成の上で、組合員の異なる課題にいかにして共感し、克服していくかが課題となった」(URリンケージマンション再生推進本部マンション再生部・坂本肇氏)。

 URリンケージが17年に組合員にアンケートを取ってみると、建て替え賛成は65%と過半になったものの(反対15%)、保留と未回答がそれぞれ10%に達しており、「全員合意」という目標には程遠い有様だった。そこで事業協力者2社は、全ての組合員との個別面談を2回開催。さらに、建替決議総会を1年半延期したうえで、団地内に建て替え相談室を設置。自己負担金が出せない、仮住まいが見つからないなどと悩む組合員の不安を極力解消するよう努めた。
 こうした取り組みを経て、19年に無事一括建て替えが決議された。最終的な棄権者は、わずか「7人」だったという。

還元率58%も200世帯以上が再居住

「プロミライズ青葉台」空撮。総戸数は従前より300戸強増えたが、それでも空地率は60%以上とゆとりがある
完成模型。敷地の中央の道路は公道であり、住民だけでなく周辺住民も歩行できる。通行量は圧倒的に少ないので、団地外の道を歩くよりはるかに安全だ

 住民の思いが結実した「プロミライズ青葉台」(横浜市青葉区、総戸数761戸、うち非分譲住戸205戸)は、25年12月第1工区が無事に竣工した。建築費高騰などの向かい風もあり、既存入居者への還元率は58%にとどまったが、205世帯が暮らしなれた地に建つ新たなマンションでの生活を選んだ。緑豊かな周辺環境との調和を図るべく、空地率62%を確保し、4haを超える敷地は1,500本の樹木で彩られる。敷地中央の街路はバリアフリールートとして近隣住民にも開放。まちの中央の広場と合わせ、コミュニティ形成の場としていく。共用棟でのイベント等も地域住民の参加を促す。

 新たな住戸は2LDK~4LDK、専有面積約31~91平方メートルとバリエーションを持たせることで様々な世帯が入居できるようにした。500戸を超える保留床も、23年9月から1年余りで完売。建て替え前は60~80歳台の入居者が7割弱を占めていたが、建て替え後は30~40歳代が半数と大幅に若返った。6月には第2工区も竣工し、建て替え事業はついに終焉を迎える。

敷地の東西で25mの標高差があるため、歩行者用通路「センターウォーク」にはエレベータも設置しバリアフリー化している
約31~91平方メートルと様々なバリエーションと広さの住戸をつくったことで、若年層から高齢者層まで多世代が住めるマンションとした(写真は販売時のモデルルーム)

 建て替えコンサルタント・参加組合員として15年にわたり組合員をサポートしてきた横浜市住宅供給公社理事長の小林一美氏は「15年間にわたり一貫して大事にしてきたことは、居住者の皆さんの桜台団地に対する“愛”を未来にどう引き継いでいけるかということ」と強調する。

「団地建て替えというと新たな姿にばかり目が行きがちだが、皆様の思いを形にしたプロセスこそが、この事業最大の特徴であると思っている。今後の高経年マンションの建て替えだけにとどまらず、“マンションの住まい方”としても大いに参考になると自負している」(小林氏)。

◆      ◆     ◆

 4月には改正マンション関係法(建物の区分所有等に関する法律、マンションの管理の適正化の推進に関する法律、マンションの建替え等の円滑化に関する法律等)が施行されるなど、分譲マンション建て替えの環境整備は着々と進んでいる。だが、いくら支援制度が充実しようが、事業を成し遂げられるかどうかのキャスティングボードは組合員一人ひとりが握っている。自分たちのマンションにどれだけの“愛”を注げるか?今回紹介したこのマンションは、それが最高の形で結実した事例と言えよう(J)

この記事の用語

マンション建替え円滑化法

「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」を参照

続きはR.E.wordsへ

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12月27日(土)~1月4日(日)の間、お休みさせていただきます。

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