海外トピックス

2017/8/21

vol.328 アメリカの広いキッチンと大皿一枚の謎

改装後の友人宅のキッチン。流しが二つもあり、広々とした大理石を使ったカウンター(イリノイ州シカゴ市)

 自宅や知人宅にしばしば食事に呼んだり呼ばれたりする。いつも感じるのだが、食事も食器もシンプルである。アメリカのキッチンは広いのになぜ簡素なのだろう?
 キッチンの収納庫の豊かさ、物置ほどに大きい冷蔵庫や冷凍庫、器具や電気製品の多さ…、まるで工場のようだ。そこで一体全体どれ程豪勢な料理の数々が調理されるのか?と思いきや、往々にして期待を裏切られる。

すべての料理を1枚の皿で

大皿とナイフ、フォークを用意したシンプルな食卓だ(バーモント州ランドルフ市)
めいめい自分の皿(テーブルの端につんである)をとってから大きな盛り皿の料理を取り分ける

 食事内容も食器も簡素、食卓に座ると自分の前には大皿が一枚だけ。ナイフ、フォークと共に置かれる。
 料理が出されると、肉や付け合わせの野菜を個々の大皿に取り分ける。サラダもパンも一緒に自分の大皿に、である。
 スープが出る時はスープ皿が大皿の上に乗っているが、それ以外は大皿1枚ですませてしまう。皿小鉢がずらりと食卓に並ぶことはまずない。
 後片付けも皿洗い機にまかせ、簡単だ。

楽しむのは料理だけではない…のがアメリカ人

仲のよい友人達とのランチはおしゃべりが何よりのご馳走であろう(コロラド州デュランゴ市)
ワインを飲み、話題は次から次へとつきず夜が更けてゆく(メイン州ベアーアイランド)

 しかし、食器や料理の品数が少ないからといって、アメリカ人が客を粗末に扱っているわけでは決してない。種明かしをしてしまうと、彼らは食卓で交わされる会話を何よりも楽しみたいのだ。

 会話は何よりのご馳走、とよく言うが、趣味の話に始まり、旅、映画や話題の小説、興味深い最新の出来事などがジョークを交えながらテニスでボールがネットを互いに飛び交うように弾んで行くのを期待する。だから料理に忙しく台所にこもっていると、客が気を使って呼びに来たり、しばしば手伝いを申し出る。
 ご馳走は第二というわけではないが、会話とご馳走で楽しい時間を共有するのが第一の目的であろう。

一方、和食のおもてなしは大騒動

 客を招ぶ時にナプキンをそえるのをたびたび忘れてしまう。アメリカ人にとってナプキンは絶対に必要なのだが、なぜ日本では(筆者が育った環境では)使わないのだろう?

 「箸はつつき、つまみ、はさみ、切り、より分けられる。和食は口のまわりを汚さず箸で口に入るように調理されているからナプキンはいらないのよ。素晴らしいでしょう?」と、食卓の話題としてよく取り上げる。そして「ナイフで肉を切り刻みフォークで口に押し込むのは狩猟民族。」と心の中でつぶやく。

 しかし、和食自慢をしたのはよいが、日本的にもてなすとなると大変だ。てんぷらはいただく寸前に揚げたい、酢の物も出す間際に和えたい。ご飯も味噌汁もあつあつで。量が少ない分、品数が多くなる。座に落ち着く暇がない。
 和食器は糸底があるので皿洗い機に放り込むわけにいかず、小さな鍋も多く、後片付けは大騒動。

食器も共有。アメリカ人の合理性

初対面の人同士でもすぐ打ち解けるよう主人役は気を遣う。皆気さくで食事を通してすぐに仲良くなる(ミズーリ州カンサスシティ市)

 父の箸や箸箱、母の湯飲み、妹のご飯茶碗など、日本では各自専用の食器があった。しかしアメリカに来てからは、フォークやナイフ、皿、カップやグラスは家族同士や人寄せの時も共有して使い回す。
 ちなみにどの家庭でも親や祖父母、結婚記念に贈られたセットを何組か持っており、クリスマスや感謝祭など特別な機会に使う。
 また、コーヒーマグに限っては誕生日などに名前入りでプレゼントされる例外もあるものの、食器を皆で共有する点は、食卓事情を単純明快にしているのではなかろうか。

アメリカの食卓にも多様性の兆し?

大皿に料理は山盛り。酔いもほどよくまわってご機嫌の友人(ウィスコンシン州ミルウォーキー市)

 アメリカ人の家庭の食事内容は日本の食卓ほどの多様性、深さ、豊かさはない。筆者のこれまでの限られた経験と印象ではあるが…。
 「最近まで肉とじゃがいもが基本。日本の食文化が素晴らしいのは古い国だからじゃない?」と友人。確かにフランスや中国の食文化は古い国だけに素晴らしい。

 しかしアメリカは進取の気性に富む新しい国だ。世界の食料品を売るインターナショナルマーケットが人気をよんでいる。スシはスーパーマーケットで買えるようになった。TVの料理番組が一挙に増え、インド料理、メキシコ料理、イタリア料理、ギリシャ料理、etc....。好奇心旺盛なアメリカ人達はこれまでに味わったことのない料理を彼らの食卓に取り入れる。楽しい会話が弾むだけでなく、食卓がさらに豊かになるのもそう遠いことではないだろう。

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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2017/11/22

「記者の目」更新しました

「“暮らしが楽しくなる”団地に再生」の記事を更新しました。

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