海外トピックス

vol.331 大人のアートキャンプ:ペンランド工芸学校(その3)

鉄を扱うアートスタジオは門扉まで美しい工芸品だ(ノースカロライナ州 ペンランド工芸学校。以下同)

 朗らかな日本女性と知り合った。ペンランド工芸学校の楽しい食事どきである。彫金のワークショップの生徒だが、アメリカは初めてなので戸惑っている様子。しかし「言葉が通じなくてもクラスメート達は身振り手振りで助けてくれる」、「先生は有名な工芸家だが、決して閉鎖的でなく、聞けば気さくに教えてくれる」、そして「生徒が何かアイディアを出すと『試してみなさい』と奨励するそうで、皆のびのびと制作している」と目を輝かせて話す。
 さらに、日本とアメリカを比較して「工芸も食べ物も人々の表現も違いすぎる!」と語った。

 日本からペンランドの奨学金を申請、審査の結果選ばれて2週間のワークショップの費用及び住まいと食事免除の奨学金を受けた若い女性工芸家であった。

4種類の奨学金制度

ブルーリッジ山脈を眺めながらピクニックテーブルで食事。友達が増える

 前回、同校での基金集めをレポートしたが、基金の大半は4種類の教育奨学金に振り分けられる。

 第1に、前述の「朗らか女性」を例とする奨学金で、交通費は自分持ちだが、希望のワークショップ費用と期間中の寄宿舎と食事がカバーされるというもの。ペンランド側で厳しい審査を通して選抜するが、海外からも若い工芸作家を招き国際間の文化交流を図りたいと、後日ディレクターのジーンさんから聞いた。
 私のクラスにはこの奨学金を受けた生徒が2人いた。

労働を代価に

左はキッチンを手伝ってワークショップ費用免除の奨学金を受けたアリッサ。右はニューヨーク在住のエディター、ロレイン

 第2は、労働力を提供してその代わりにワークショップの月謝、期間中の寄宿舎、食事代が免除になる奨学金。ペンランド側は人件費が浮くということであろうか。
 キッチンの手伝い(皿洗いや下準備など)や掃除を決められた時間にするのだが、若くて元気でないと務まらない。早朝から野菜を切ったり、300人からの朝食の準備をしたり、何百枚の汚れた食器をゆすいで皿洗い機に入れるとか…、肉体労働である。
 私のクラスにはこの奨学金を受けた生徒が3人いたが、時間の足りない時は徹夜さえして質の高い作品を制作した。

住み込みで学校の手伝いをしながら

彼らが身に着けているパンツは、陶芸で地面に敷くキャンバス地の布で作った(男性用、女性用共)。写真右の男性がデザイン縫製した

 第3は「コア・フェローシップ・プログラム」。2年間ペンランドキャンパスに住み、3度の食事が無料で多少の小遣いが出る。また、ペンランドで行なわれるアートワークショップのうち、5つを無料で学べる。
 キッチンか庭掃除を手伝い、工芸技術を近隣で教える機会も与えられる。キッチンや庭で働く際にはシフトを作成したり、上記の奨学金で働く生徒達の管理をする。将来は「リーダー」として大学やペンランド校のような組織で働く学習ができるという奨学金であろう。

実績次第で、スタジオ付き短期居住も

ポップアップ・アートブックワークショップの生徒。90歳の母親と付き添いの息子

 第4は「レジデント・アーティスト・プログラム」。3年間ペンランドキャンパスに住む家(キッチンつき)と食事、個別のスタジオ、電気ガス水道などの費用、そして多少の小遣い(月に2万円程度)が与えられる。
 豊かではないにしても、3年間自分だけのスタジオで制作に集中できる。アーティストにとってはこの上もない機会であろう。この奨学金は駆け出しの若者ではなく、すでに創造的な制作をしてはいるが次のレベルへと飛翔を望む者に与えられる。

過疎地を活かした「創造の場」

食事はビュフェスタイルで飲み物食べ物デザートに至るまで、好きなものを好きなだけ取れる

 ペンランド工芸学校は420エーカー(およそ1.7km四方)の敷地の(東京ドームが36個入る)小集落である。その中に星を散りばめたように57の建物が点在する。超一級の設備、道具器具類を揃えたガラス、版画、陶芸、木工、染織などのスタジオ群、寄宿舎やゲストハウス、ギャラリー、図書館、画材店、講堂、食堂、バレーボールグラウンドまであるコミュニティだ。
 過疎地だからこそこれだけ広大な土地を活かして使えるとも言える。都会から遥かに離れた同校を年間何万人もの人が訪れ、アートと工芸を通して生涯教育を楽しむ場となっている。
 そして、多くの創造性にあふれた人々が巣立ってゆく。

Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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2017/10/20

「海外トピックス」更新しました

Vol.332 フェリーニ的由緒ある屋敷 の記事を更新しました。

19世紀、石油や鉄道、港湾貿易などで栄えたテキサス州には、富裕層が建てた大邸宅が立ち並びました。

今でもその面影を残すエリアがありますが、そうした地域でヴィクトリア様式の古い物件を改装してモダンなスタジオと住まいにしたイタリア生まれの女性がいます。

まるでフェデリコ・フェリーニの映画に出てくるような住まいをレポートします。