海外トピックス

2018/1/22

vol.338 賃貸住宅で今熱い、ペット・アメニティ

シカゴ中心部では高層ビルが絶え間なく建設されており、特に賃貸物件においては入居者獲得の競争が激しい。(イリノイ州シカゴ市。以下同)

 テリアが「パップチーノ」をあじわっている写真を見て笑ってしまった。パップは子犬の意味でカプチーノをもじってスターバックスが売り出した犬専用の飲み物。賃貸物件を提供する大手業者が、愛犬を持つ入居者向けに限定期間サービスをしている。
 ビル内の広い専用ドッグラン(犬の運動場)でのひとときを狙って、パップチーノサービスは愛犬家のハートを射抜く。

競争激化の賃貸市場、ペット向け施設が成功のカギに

 賃貸物件のマーケット、特にシカゴ市中心部界隈では入居者獲得の競争が激しい。
 ニューキャッスル不動産投資会社のエリザベス・ウィリアムズ氏はマーケティングの視点から「勝利の鍵はペットの取り扱い方にある」と指摘する。「賃貸住宅のアメニティは他の物件と差をつける大切な要素になってきているが、とりわけ犬や猫を“家族の一員”と考える人にとって、ペット用のアメニティは考慮するに値する」とウィリアムズ氏は加える(Chicago Tribune Newspaper 07/16/2017) 。
 現在アメリカでは44%の世帯が犬を飼っているという統計があり、氏がペットに注目するのはうなずける。

犬用おやつやシャンプーの自動販売機も

 アメニティとは、建物に付帯する入居者のための共同施設を言い、プールやジムが代表的だが、最近ペット用のアメニティを設置する物件が増えてきた。「ペットフレンドリー」とうたうにとどまらず、ドッグラン(犬を運動させるスペース)、ドッグスパ、散髪、おもちゃを備えた部屋など。自然をテーマにした壁画を設置中の物件もあるという。

消火栓は犬に最適な高さのせいか、しばしば「用足し」している姿をみかける。消火栓をドッグランに取り付けるアパートも

 都心のイーストレイクアパートメント(332戸)ではペットスパとドッグランに加えて、なんと、赤く塗った消火栓をいくつか取り付けたそうな!!! 犬は消火栓が大好き。警察犬が引退するときには消火栓(本物ではないだろうが)をプレゼントすると聞いたことがある。
 サーカ922アパートメントでは、ドッグランは建物内の4階にあり、足の洗い場、犬用おやつやシャンプーを備えた自動販売機を置く部屋もある。プランドプロパティマネージメント社は市内に何箇所かのペットフレンドリー賃貸物件を供給しているが、入居者サービスとして犬用のフードトラックや写真サービス車を招き、飼い主は犬に特別なおやつをあげたり、イースターバニーやクリスマスサンタと一緒に愛犬の記念写真を撮ってもらう。

建物内のドッグランは、深夜の利用も

ミレニアルズ(若者世代)の多くが犬や猫を飼う傾向がある。右後方は高層アパートメント群

 これらのアパートの入居者はミレニアルズ(22歳から33歳位の若者層)が多く、仕事で家を一日中留守にしたり、出張や遊びに出かけることも多い。だから多くの共同住宅では提携しているドッグワーカー(犬を散歩させる業者)やドッグシッター、保育園のサービスを頻繁に利用する。
 建物内に設置された入居者専用のドッグランは仕事を持つ若者層にとってうれしいアメニティである。犬がいると知らない人と話す糸口がつかみやすいので友達を作る機会が増えるし、深夜に犬を戸外に連れ出すにも入居者専用のドッグランなら危険が少ない。

ミシガン湖わきのドッグパーク。犬を何匹も引き連れたドッグワーカーが飼い主に代って散歩させに来る

 ステート&チェストナットアパートメント内にあるドッグランは、雪が積もってもそれを溶かす装置と排水溝を兼ね備えているので、氷や匂いに悩まされることがない。

高層アパートにあるドッグラン。人工芝だ

全米で年間6千億円が犬のために…

 ペットフレンドリー物件と一口に言っても、実際にはペットを飼っている人が20%、つまり5人に1人という現状(Chicago Tribune Newspaper 07/16/2017)では、 今後ペットを業者側がどう取り扱うかで物件の入居者獲得に差が出てきそうだ。
 アメリカン・ペット・プロダクツ・アソシエーションによると、2016年には全米で犬の飼い主がドッグワーカーや保育園などのサービスに使ったお金は約6千億円だったそうで(Chicago Tribune 01/14/2018) 、犬に対して飼い主はお金を出し惜しみしない傾向がある。 

サンタがペットと一緒に記念撮影するサービルがクリスマス頃に行なわれるが、車でやってきて撮影してくれるサービスもある

 確かにマーケティングという面で見ると、ペットアメニティは入居者を惹きつけるのに効果的だろう。しかし、これら物件の入居者全員が犬や猫を飼っているわけではない。犬や猫が嫌いな人やアレルギーがある人もいる。また、犬のうんちを放置したりドロ足でエレベーターを使う無神経な飼い主もいるかもしれない。一日中吠えたり、エレベーターが臭くなったり…、共同住宅で犬を飼うのは難しい。業者は入居者を惹きつけるアメニティ設備をただ増やすばかりでなく、騒音、匂い、そしてうんちの始末等、対処も絶対に必要であろう。

しつけ、始末は飼い主の責任!

 それにしても考えて見ると、飼い主がペットを家族同様に考えているのなら、子供を育てる親と同様に、しつけが不可欠ではないか?
 ペットが他人に迷惑をかけないよう、騒音、匂い、そしてうんちの始末を考慮するのは最低限飼い主の責任でないかと思うのだが。

雪道の散歩は犬も人も長時間はつらい。室内のドッグランがあると特に冬は助かる

参考資料
https://www.aspca.org/animal-homelessness/shelter-intake-and-surrender/pet-statistics
Chicago Tribune Newspaper 07/16/2017

Akemi Cohn
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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賃貸経営

不動産を賃貸する事業をいう。賃貸する不動産は、住宅、事務所ビル、店舗など多様であるが、賃貸料を収益源とすることは共通である。

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