
アメリカは先住民を圧して多くの国々からの移民により成り立っている国である。人々はアメリカン・ドリームを抱いて祖国を離れ、未知の国へやってくる。
ところが現在、移民達の受け入れ枠を減らす動きが顕著なだけでなく、夢を実現しようとしている「ドリーマー達」への制限が議会で論議中。特にアメリカにいる不法移民についての取り扱いが厳しい。
ドリーマー達の夢はしぼんでしまうのだろうか。
トランプ大統領のDACA廃止方針で多くの若者が…

アメリカン・ドリームについて本連載初期にレポートして以来10年以上経ったが、当時から事情は変化した。DACAプログラム(Deferred Action for Childhood Arrivals program の略)をご存知ない方も多いと思われるが、前オバマ大統領が提唱、不法移民としてやってきた当時16歳以下の子供達に教育と就労の機会を与え、2年ごとに更新すればアメリカに合法的に滞在できるという仕組み。
8万人の若者達がDACAの恩恵を受けて学業と仕事に励んでいるが、トランプ大統領は同プログラムを廃止する方針を以前から打ち出しており、もしも廃止が決まれば、彼らは滞在許可を喪失し不法移民となる。
仕事も健康保険も運転免許もすべて喪失
![]() |
![]() |
「ドリーマーズ」の不安の声を全米公共放送ニュースで聴いた。
3歳当時アフリカのナイジェリアから両親とアメリカにやってきたトールーさんは、家族共アメリカに留まった。訪問ビザだったので滞在期間が過ぎた後は違法滞在。トールーさんは学校に通い幸い奨学金を得て大学進学、そしてDACAプログラムに応募してしっかりした会社に就職もでき、現在管理職として働く。
しかしDACAが廃止されると、仕事も健康保険も運転免許も全てを失う。不法移民の雇用は禁じられているからだ。不法移民であるトールーさんも両親も送還されるだろう。
アメリカ生まれの娘と離れ離れになる母親
DACAプログラムで仕事を得た母子家庭の例。
アムパロさんは働いて税金を納め、会社から支給される健康保険で彼女自身と娘の医療をまかない、運転免許証も取得した。しかしDACAが廃止されると2年毎の滞在延長を申請できなくなり、メキシコへ送還される。娘はアメリカ生まれなので米国籍。つまり母と子がメキシコとアメリカに別れ別れとなるのだ。
このようなケースが何万件もあり、それに対していくつかの団体が支援したり、政府も手ををこまねいているわけではないが、未だに解決策が打ち出されていない。
![]() |
![]() |
移民支援の診療所では患者が激減
アメリカは健康保険は自分でかけなければならないが(老齢年金以外)、不法移民の大半は申請できない。しかし人間だれでも怪我をするし病気にもなる。いくつかの支援団体が健康保険を持たない移民達(多くはメキシコ人)のために診療をしているが、DACA廃止と政府による強制送還が論議されて以来、患者の数は激減した。
不法移民はもちろんだが、滞在許可を受けている移民でも移民局の調べは係累にまで及ぶかもしれないという恐怖で書類提出を渋るからである。
移民の住宅取得需要にも影響
2003年、多くの不動産専門家がヒスパニック系移民の急増により住宅購入者が激増すると予測した。しかしそのアメリカン・ドリームは果たせそうにない。
住宅を取得する際には、ローンを組むために金融機関に書類提出が必要となる。その際、先に述べた医療問題と同様、係累に不法移民がいるかもしれない、何か問題があるかもしれないなど、世間知に乏しい人々は、なによりも怯えが先に
立ってしまうのである。
低賃金の移民労働者が支えてきたアメリカ社会

「不法」移民なのだから、アメリカから出ていくべきだ!と要求する人もいて当然であろう。アメリカ人達の仕事を移民達が低い賃金でとってしまうと主張する人もいる。理屈としてわからないわけではない。例えば工事現場、野菜や果物の収穫、倉庫での仕事や掃除など、不法移民達は実際、低賃金で就労している。
では、果たしてアメリカ人達が移民達と同じ賃金や労働条件で働くであろうか。疑問である。不法移民達は安くても労働条件が悪くても仕事を得られる限り働き、家族を養い、本国へ送金もする。我々はそのおかげもあって食物や衣類やサービスなど多くのものを安く手に入れているのだ。アメリカ人達は不法移民達によって得られるそれらの恩恵を享受していると言えまいか。
移民の「夢の国」アメリカはどこへ

映画「リメンバー・ミー」(原題は「COCO」)をご覧になられただろうか?
The Day of the Dead (日本のお盆と似ていて、先祖の霊が家族の家に戻って死者と生者が共に祝う日)に家族が互いを思いやり助け合う姿が暖かく描かれていた。
少しでも良い暮らしをと困難を覚悟でアメリカに来て、最もアメリカ人が嫌がる臭い汚い危険な仕事を安い賃金で請け負っている移民達の家族を引き裂くのは気の毒な気がしてならない。
ギャングや麻薬売人などの犯罪者を追放するのは当然だ。しかし、少なくとも40万人はいるとされる不法移民達を取り扱うには何かよい方法があるのではなかろうか。DACAプログラムのような…。
一線を引いて不法移民達を切り捨てるのは、アメリカン・ドリームを掲げた国の誇りまでしぼむ気がして残念でたまらない。

参考
https://undocu.berkeley.edu/legal-support-overview/what-is-daca/
https://www.npr.org/2018/01/14/577969789/what-happens-when-your-daca-work-permit-expires
https://www.nytimes.com/2018/01/23/us/daca-dreamers-shutdown.html
Chicago Tribune newspaper 02/25/2018
Chicago Tribune newspaper 02/18/2018, 11/05/2017
https://www.washingtonpost.com/outlook/five-myths/five-myths-about-daca/2017/09/07/e444675a-930c-11e7-8754-d478688d23b4_story.html?utm_term=.61efacc6368a
Akemi Cohn
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com
お知らせ:コーン明美氏による本稿連載は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。次回からは世界各地からの住宅やまち、暮らしにかかわるレポートを掲載します。どうぞお楽しみに!

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。