海外トピックス

2018/7/1

vol.346 下がりそうで下がらない?リマの不動産価格【ペルー】

 堅調に上昇曲線を描き続けるリマの住宅価格。局所的な足踏みこそあれど急落とは縁遠く、常に再び上昇する可能性を秘めている。バブルの声が途絶えて久しい日本の不動産市場を尻目に、リマの泡はまだふつふつと湧き続けているのだ。そんなリマのここ10数年を振り返ってみたい。

これから分譲アパートに生まれ変わる家と、数年前に建設された新築アパート。静かな住宅街の風景がどんどん様変わりしていく

まさに日本のバブル期

 2003年頃から上向き始めた国際金属価格のおかげで、豊富な鉱物資源を擁すペルーには国外からの直接投資が増加。06年就任のアラン・ガルシア元大統領は経済政策を優先、リーマンショック直後の09年を除く05~12年のGDPは平均で7.68%の成長を記録した。至る所で黒煙を撒き散らしていたボロボロの中古車はいつの間にか姿を消し、街には新車があふれ出した。新しいショッピングモールが次々にオープンし、海外の高級ブランドも続々と進出。購買意欲の上昇はクレジットカードの普及に拍車をかけ、人々は消費を謳歌するようになった。勢いを増した高揚感は、当然不動産にもその矛先を向けていく。

たった7年で3.5倍!

 リマの不動産市場が動き出したのも、ちょうど06年ごろだ。ペルー中央準備銀行によると、リマ首都圏の住宅1平米当たりの平均価格は06年で521米ドル、7年後の13年には1828米ドル(約3.5倍)まで上昇している。
 住宅建設用地が不足するリマ新市街では、戸建てを取り壊してアパート(日本でいうマンション)にするしかない。持ち主の趣向や家族の歴史がそこかしこに刻まれた大きな家が、次々と解体されては真新しい集合住宅へと変わっていった。これまでになかった近代的なアパートがあちこちにそびえ立ち、毎週のように街角で新たなモデルルームを目にするようになった。手の届く値段ではないと知りつつも、当時は買い物帰りにそれらをよく覗きにいったものだ。

分譲アパートに建て替わる予定の一戸建て。手入れの行き届いた庭木や、屋根の上まで伸びた見事なブーゲンビリアが切り倒されてしまうのは残念だ
住宅建設用地が不足するリマでは戸建てを解体するか、これまで誰も住まなかった砂山を整地するしかない

 実は我が家も08年にアパートを購入した。当初は新築物件を狙っていたのだが、ここぞと思う物件は建設途中にもかかわらずすべて完売。値上がりを見越した投資目的の購入が盛んになり始めた矢先で、巷では住宅の青田買いが横行していたのだ。
 中古市場もかなり足が早く苦労したが、運よく状態の良い物件を手に入れることができた。ペルーでは一般的に、メンテナンスさえきちんとすれば建物の資産価値が目に見えて下落することはない。中には親からタダで相続した豪邸を50万ドルかけて改装し、100万ドルで売った強者もいると聞く。ゆえに、立地などの基本条件さえ整っていれば、たとえ投資が目的であったとしても新築にこだわる必要はないのだ。

 とはいえ日本のバブル時代を知る私には、この浮かれた雰囲気がとても気になっていた。いくら好景気とはいえ、値上り幅やそのスパンが当時の日本によく似ていたからだろう。そんな心配はどこ吹く風、街中では一向に槌音が止むことはなかった。

街中に始終鳴り響く建築工事の音

リマの泡はまだ消えない?

 リマの不動産市場に変化が現れたのは14年。国際金属価格の下落を受け対内投資が急減、景気が停滞し、富裕層向け物件がだぶつくようになったのだ。建設が中断され、絶賛販売中の看板を掲げたまま放置されるアパートが目につくようになっていった。あぁ、やっぱりバブルだったんだ。ペルーはこれからどうなるのだろう?

高級住宅街に建設中のアパート。広さ344.40平米、屋上プール付きの最上階(デュプレックス)がまだ売れ残っている

 ところがリマの“泡”は弾けずに持ちこたえた。順調な経済成長を背景に誕生した新中間層が、リマの住宅需要を支えるようなったのだ。高級住宅の多い地域を取り巻く5区には、床面積70平米前後の中間層向け20~30階建て高層アパートが続々登場。これら人気5区の住宅価格は昨年度平均3.3%の上昇、今年は建設資材の高騰で一層の値上がりが予想されている。

中間層中~上位向けの高層アパート。一戸当たり面積を100平米以下に抑えることで販売価格を抑えている。箱庭のような部屋と壁の薄さには驚きを隠せない
一戸当たり面積が52~74平米という中間層向け高層アパート。50平米大の新築アパートなど、2013年以前のリマ新市街にはほとんど存在しなかった

ペルーの不動産アナリストたちは「リマの住宅価格は近隣諸国と比べても低く、不動産バブルとはいえない」としている。経済事情が異なる他国との価格差を物差しとするのにはいささか疑問が残るものの、ペルー人がバブルでないというならそうなのだろう。「ペルーはこれまで不動産価格が下がったことがない」とする知人の言葉を信じてアパートを買ったが、それでも一抹の不安が残るのは、やはり私が日本人だからだろうか。

原田慶子
大阪府生まれ。2006年からペルー・リマ在住。08年よりフリーライターとして活動、ペルーの観光情報を中心に、文化や歴史、グルメ、エコ、ペルーの習慣や日常などを様々な視点から紹介、リマでの不動産購入・リフォーム経験を基にしたコラムも手掛ける。『地球の歩き方』『今こんな旅がしてみたい』『トリコガイドシリーズ』『世界のじゃがいも料理』などペルー編の取材協力、ラジオ出演多数。海外書き人クラブ所属。
keikoharada.com

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