海外トピックス

2018/12/1

vol.351 渋滞率東南アジア1?首都圏人口3100万人のジャカルタ交通事情 【インドネシア】

 ジャカルタに滞在していると、そのつもりがなくても「マチェッ」(渋滞)というインドネシア語を覚えてしまう。「ジャカルタの生活で最も頭の痛い問題は交通渋滞」と、地元の日本語情報誌が発行する生活ガイドにもあるほどで、避けて暮らすのは難しいからだ。

 家に遊びに来ることになったインドネシア人の友人に到着時間を尋ねたところ、「さあ?渋滞次第ね」。その日の道路状況で所要時間が大幅に変わるため、約束をしても時間はあくまで目安。近くまで来たら、携帯電話で連絡を取り合うほかないのが実情だ。

 鉄道建設の工事で、市中の道路は幅が狭まっているところが多い。幹線道路ではそれなりに車が走っていても、急に車線が減ったり、道路が交差したりする場所での渋滞は慢性的だ。中心部ではデモや政治集会のたびに交通規制が行われる。金曜日の午後に集合礼拝が行われるモスクの周辺や、登下校時間に送迎の車で込み合う学校付近でも局地的な渋滞が起きやすい。

ムスリムの男性たちが集まる、モスクでの集合礼拝
日本人駐在者も多く住むジャカルタ南部の、夕方の帰宅ラッシュ

 雨季に入ると、しばしば道路が冠水するので車が進まない―という具合で、避けるべき場所を頭に入れておかなければならない。

雨季にはあちこちで道路の冠水が起きるため、徐行せざるを得ない

アジア競技大会でも渋滞が問題に

 今年8月に開催された第18回アジア競技大会では、やはりジャカルタの交通事情が問題になった。北部クマヨランに設けられた選手村から競技会場までの移動では、警察の先導つきでバスを走らせた場合は30分ほどだったが、ほかの車で移動した場合は1時間以上かかったという。競技や練習の時間に間に合うように会場に到着するため、複数国の選手団が同じバスに乗り合わせて移動するなどの対策がとられた。

 会期中、渋滞を緩和するため、周辺の主要道路では車両ナンバー末尾の数字が偶数か奇数かで通行が規制された。しかし、規制区域の案内がわかりにくく、日によって変わるための混乱も生じたようだ。わたしの友人は、偶数番号の自分の車と、奇数番号の家族の車を使い分けていたが、いずれにしても車を使うことに変わりはない。

渋滞による経済損失は8400億円

 ジャカルタは、いろいろな機関の調査で、常に渋滞の深刻な都市の上位に挙げられている。2016年には、世界78都市を比較したイギリスの会社の調査 (The Castrol-Magnatec Stop-Start Index)で「世界最悪の渋滞都市」という結果が出た。GPSを利用して車1台が「渋滞のためにブレーキを踏む回数」を調べたもので、トップのジャカルタは、年間で平均約33,240回だった。調査の手法により順位は多少入れ替わるが、東南アジアではジャカルタとフィリピンのマニラ、タイのバンコクが渋滞都市としておなじみの顔ぶれだ。

 インドネシア国家開発庁は、ジャカルタ首都圏で慢性化する渋滞による経済損失は、年間10兆ルピア、日本円にして約8400億円に上ると試算している。

路肩に並ぶ屋台も渋滞の原因の一つ
車相手の路上の物売り。独立記念日を前に、国旗やマスコットを売っている

首都圏の道路がすべて車で埋まる日も?

 ジャカルタの面積は東京23区とほぼ同じで、人口は一千万人以上。近郊都市を含めたジャカルタ首都圏「ジャポデタベック」*は世界でも有数の都市圏で、2005年には約2360万人だった首都圏人口は、現在3100万人にまで増加している。

 人口の増加と近年の経済発展により車両登録台数も急増していて、2000年には約300万台だったジャカルタ特別州の登録台数は、2012年には約1400万台と約4.5倍になり、特にバイクが著しい増加をみせている。

 道路整備のスピードが車両の増加に追い付いていない結果、近い将来、車両の占有する面積が、道路の面積を超える可能性も指摘されている。つまり、存在する車両が一斉に道路に出たら、まったく動けない状態になるということだ。

当てにならない公共交通が、車・バイク需要を高める悪循環

 ジャカルタ市民の足は、路線バスや乗り合いバスが主流だ。しかし慢性的な渋滞で、バスは定時に運行していない。すりや強盗など安全面でも問題があり、「外国人はひとりで乗らないほうがいい」とわたしも地元の友人に何度か注意されている。

午後早い時間でも、すでに混雑している路線バス

 バスは路線が限られているので、人びとは必要と予算に応じて乗用車のタクシーやバイクタクシー、三輪タクシー「バジャイ」などを組み合わせて移動している。最近ではグラブの配車タクシーや「オジェッ」と呼ばれるバイクタクシーも人気だ。

渋滞の車のすきまを縫ってバイクは進む

 公共交通よりは、待ち時間を快適に過ごせる自動車や、隙間を縫って進めるバイクが好まれるために交通量は一層増加し、渋滞が悪化するという悪循環に陥っている。

公共交通の整備が渋滞解消の切り札に?

 インドネシア運輸省によると、ジャカルタ首都圏の公共交通の利用率は25%(2016年)で、2029年までにはこれを60%まで高める方針だ**。

 2004年からは、専用車線を走るバス「トランスジャカルタ」の運行が始まった。料金は定額制で、止まる停留所がわかりやすいので、地理に不案内な旅行者でも利用しやすくなった。路線はさらに拡張の予定で、乗客数も増加している。

トランスジャカルタのハルモニ停留所。夕方、帰宅ラッシュ時間にはかなり混み合う
トランスジャカルタの先頭車両は、女性専用席になっている

 2017年末には、首都の玄関スカルノ・ハッタ空港と市内を結ぶ空港鉄道も開業した。初の次世代交通システム(LRT)は2019年初めの開業が予定されていて、今年9月、北部のクラパガディンからジャカルタ東部ラワマングン間で試験乗車が行われた。整備中の大量高速鉄道 (MRT) は、まずはジャルタ中心部と南部を結ぶ南北線が2019年3月の開業を予定、さらに北部への延伸が予定されており、東西線も計画中だ。ジャカルタの交通事情は大きく変わりつつある。

*ジャポデタベック (Jabodetabek)
ジャカルタ (Jakarta) に隣接したボゴール(Bogor)、デポック(Depok)、タンゲラン(Tangerang)、ブカシ(Bekasi) の頭文字を組み合わせた造語で、ジャカルタと西ジャワ州、バンテン州の都市・地区を加えた都市圏のこと。

**首都圏の公共交通利用率
「ジャカルタスタイル」日本貿易振興機構、2018年3月より。

川崎 典子(編集・ライター)

「海外書き人クラブ」所属、マレーシア在住。大学では国際関係論を専攻。卒業後、出版社でアジア関連の書籍の編集を担当するうちに、多様性に富んだアジアの面白さに開眼。東南アジアで活動する国際協力NGOでの広報職を経て、現在、編集・ライター。マレーシアを中心に、東南アジアの社会や生活文化について取材、寄稿中。これまでに約20か国を訪問。

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