海外トピックス

2019/4/1

vol.355 クルマ大国が総力をあげる電気自動車のシェアライド【ドイツ】

競合2社がついに統合!

 ドイツの西端にあるデュッセルドルフは、人口約60万人の中規模な都市です。オランダやベルギー国境まで車で1時間弱、 フランスやルクセンブルクまでは2〜3時間の距離にあり、 人々が開放的なことでも知られています。

歴史ある建物と近代的なビルが混在するデュッセルドルフ

 そんな街で、ドイツ自動車メーカーが総力をあげて展開しているのが「シェアライド」です。最近ではブームを通り越して、すっかり市民生活に定着しました。

 車、バイク、自転車のシェアライドは、どれも“乗り捨て”が可能です。ドイツのレンタカー業界は、大型車種を除き、「店舗でないと、借りたり返したりすることができない」という時代が終わりに近づいています。デュッセルドルフでは、路上駐車されているシェアカーに乗って、路上駐車して返す、というのが一般的です。

 しかも空港の駐車場には大手2社の専用スペースもあり、そこに乗り捨てすることができます。長期旅行などに出かける場合、空港の駐車場代だけで高額になってしまうもの。片道だけ利用するのにもとても便利なんです。

 シェアカーの大手といえば、メルセデス・ベンツで知られるダイムラー社の「CAR2GO(カートゥーゴー)」と、BMW社の「DriveNow(ドライブナウ)」。しばらく一騎打ちを繰り広げていましたが、ついに2019年2月、両社のモビリティ部門が事業統合することになりました。投資額は10億ユーロ(約1250億円)以上とのことです。

BMWのシェアカーには、どこからでも見つけやすいデザインが施されている

潜在顧客を囲い込み?

 シェアカーには、企業の戦略といえるもう一つの側面があります。シェアを通して「試乗」してもらい、将来の顧客になってもらおうというものです。

 たとえば、ダイムラーのEV(電気自動車)やBMWの高級車に、若者はなかなか手が出ません。けれど、シェアライドなら格安で乗ってみることができます。ドライブナウの料金は、1分あたり33セント。10分乗っても3ユーロほどなので、タクシー移動するよりもはるかに格安です。ディーラーに行くほ ど車を欲してはいなかったけれど、移動ついでに乗って気に入り、 将来の購入を考え始める人もいるかもしれません。

 使い方は次のとおりです。アプリを使って、地図上で近くのシェアカーを探し、予約します。車まで着いたら、アプリ内のQRコードを窓についた機器にかざしてドアを開けます。

 運転席ではアプリに表示された暗証番号を入力し、ハンドルロックを解除します。乗り捨てするときも、アプリでドアを施錠して完了。アプリは自分のクレジットカードと連結してあるので、支払い作業も不要です。

環境に優しいスクーター

 また、シェアバイクでは「eddy(エディ)」と呼ばれるゼロエミッションの電子スクーターが人気です。音が静かで、環境にもやさしく、2人乗りもできるのでとても快適。2個のヘルメットが座席後部のケースに収まっているので、スマホさえあれば手ぶらで利用できます。こちらもアプリで運転ロックを解除する仕組みです。

 ただしこのエディ、冬は“冬眠”に入るようで街で見かけることはありません。ドイツの冬は寒くて雨も多く、 誰もバイクに乗りたがらないから、この時期にバイクのメンテナンスを行っているとのこと。聞いて納得しました。

「乗り捨て」ならではの問題も…

 一方、シェア自転車では、「フォード」が2018年まで独占状態でしたが、最近になって中国の「モバイク」が急増しています。

ショッピングモール前に置かれた「フォード」のシェア自転車
旧市街に置かれた「モバイク」のシェア自転車

 駅やオフィスビルの前など、専用ステーションが設置されているのですが、シェア自転車は基本的に歩道での乗り捨てが可能です。そのため、マナーの悪い利用者が道の真ん中や他人の家の前に置き去りにしていくのが問題になり、企業側が整備員を雇って街中の整備にあたるようになりました。おかげで、この半年間はさほど気にならなくなりました。

並木道は、自転車専用と歩行者専用レーンにわかれている

 いずれのサービスも、路上駐車スペースが充分あり、自転車専用レーンも多く、かつ人口もほどほどにいる地方都市デュッセルドルフだからこそうまくいっているのでしょう。ダイムラーとBMWが協力することで、どんな新サービスが生まれるのか楽しみです。

青木織
サンフランシスコ州立大学卒業。国内化粧品メーカーを経て、2014年から講談社「クーリエ・ジャポン」を中心にフリーライター。2017年にドイツ・デュッセルドルフに移住。

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