世界幸福度ランキングで毎年上位に名を連ねるノルウェー。フィヨルドと山に囲まれた独特な自然美を持つ北欧の小さな国は、オイルマネーによる経済発展を遂げ、今日では世界で最も裕福で健康な国のひとつになった(英国レガタム研究所調べ)。そんな豊かなノルウェーで今注目されているのは、ほっこりした「木」の建築だ。

木材は慣れ親しんだ素材
首都オスロには、現代的で超ハイテク、北欧デザインの粋を集めた建築がひしめいている。約10年前からフィヨルド沿い湾岸の再開発が盛んだ。そんな中人気なのは、次々出現し始めた木造建築。オフィス、ショップやカフェなどの商業施設、学校、マンション建設などに木材が多用されるようになった。
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9〜12世紀に活躍した祖先ヴァイキングが住んでいた家は、「ロングハウス」と呼ばれる丸太で造った家屋だった。中世時代の教会だって木造で建てられていた。この木造教会の建築技術は芸術の域で、石造りの教会が多い欧州では非常に珍しい。もともと林業が盛んなノルウェー。木はノルウェー人にとって身近な素材であり、慣れ親しんだ建築素材なのだ。

木材は健康によい!
近年ノルウェーやドイツをはじめ欧州の研究では、木材が心拍数の低下、痛みの軽減、睡眠の改善と感染リスクの低下などに効果があることが証明されている。また、木目を見る環境にあると人間はストレスが軽減されるという興味深いレポートもある。そのためか木造の教育施設や老人ホームが目立って増えている。
オスロ市にある幼稚園「Fagerborg Menighetsbarnehage」。こんなおしゃれな幼稚園があるなんてさすが北欧!と唸ってしまう斬新なデザインだ。設計した建築家Ramstad氏は、「既存の退屈なデザインとは反対の遊び心溢れる幼稚園を建てたかった」と言う。違う高さに設定された窓も面白いし、雨の日でも屋外で遊べたりなど随所に創造的な工夫がされ、子供(大人も!)がワクワクするようなデザインだ。
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確かに木目を見たり、木に囲まれているとなんだか心地よく、癒される感覚がある。Well-beingの観点からも木材に注目が集まっているのは至極納得。
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木材は低コストで環境にもよい
ノルウェー建築家協会は、街に木造を建てるのが環境にも最善であり、しかも最も安価だと提言している。オスロ市北部には若者に低コストで住宅を提供するためのプロジェクトとして作られた集合住宅がある。デザイン性に富みながら木材が温かい印象を与えている。こんな素敵な集合住宅なら住んでみたい。

また、木材はグリーンシフトにとっても重要だ。建設業界は、温室効果ガス排出の最大分を占めている。木造建築にするとかなりのエネルギーを節約できるという。
ノルウェー政府は、2030年までに1990年と比較して温室効果ガス排出量を少なくとも40%削減することを目標に掲げている。
建物がどのように健康や環境や福祉に貢献できるか。都市に大きな木造建築を建てることは、環境、経済、社会の持続可能性をもたらす。ノルウェーは国全体でそのことに取り組んでいる。この木造ブームは、ただの流行ではないのだ。

古澤恭子
ライター・編集・ガイド。流行通信社、宝島社、扶桑社などで女性誌編集を経て2010年よりノルウェー在住。北欧の文化やライフスタイルを寄稿。「海外書き人クラブ」所属。