海外トピックス

2021/4/1

vol.379 スターリン様式の誕生【ロシア】

スターリンゴシックの一つ、文化人アパート

 ヨシフ・スターリンという人物をご存じですか?

 ドイツのヒットラーと同時期に歴史に現れた、当時のソビエト連邦共和国の指導者で、ヨーロッパではヒットラーと同じくらい悪名高い独裁者です。彼の時代に国内には粛清の嵐が吹き荒れ、恐怖の時代といわれていますが、その独裁で国力は増し、ソ連が世界を2極化するまでの大国に押し上げたことも事実です。

 実はその時代に、建築界に「スターリン様式」という新しいスタイルが現れました。スターリンの圧政のように、圧迫感のある大きく頑丈なスタイルを嫌うロシア人もいますが、モスクワ大学、外務省や文化人アパートに代表される、巨大なスターリンゴシックの建物は、今ではモスクワのランドマークになっており、観光名所でもあります。スターリンゴシックの建造物はモスクワ市内に7つあり、セブンシスターズと呼ばれています。

スターリンゴシック建築の一つモスクワ大学本館

 1940年末から50年代の初頭にかけスターリンゴシックだけでなく、頑丈で質の良い住居用アパートも沢山建設されました。スターリンゴシックのアパートに住めたのは、ノーメンクラトゥーラ(ソ連時代のエリート層・支配階級)だけでなく、国から認められた文化人や芸術家達だけでした。

スターリン時代の
一般住居用アパートの特徴は?

ロシアでスターリンカの愛称で呼ばれる、スターリン様式の典型的なアパート。このアパートの天井は3.1m、1階は店舗になっている(ちなみにスターリン死後、フルシチョフ書記長の時代のアパートはフルシチョフカと呼ばれているが、質が良くないためあまり好かれていない)

 一般住居用のアパートは、スターリンゴシックのような高層の建物ではありませんが、同じく頑丈で質の高い建物でした。レンガ造りで、天井が高く、壁が厚いのが特徴です。多くのアパートは1階が店舗になっています。

 部屋数が多く、キッチンや玄関ホールが広いのも特徴です。その理由は、建築された当時は「コムナルカ」として利用されたからだと、ロシア人の友人が教えてくれました。コムナルカとは、キッチンと風呂場とトイレを共有する共同住宅のこと。何部屋かあるアパートを何家族かでシェアして暮らすスタイルです。今、モスクワにほとんどありませんが、昔は一般的だったそうです。

 壁が厚いので、外気温を通しづらく、夏は涼しく冬は暖かいためモスクワでは人気の物件でもあります。ロシアでは集合住宅に住むのが一般的。若者には、市の中心部から離れた新築アパートが人気な一方で、市の中心部に立地する古いけれど頑丈なスターリン様式のアパートを借りたり、購入してモダンなデザインに改装して住む人も多いです。

実際の住み心地は?

 さて、スターリンの一般住居用アパートに住んでいる友人に実際の住み心地を聞いてみました。

友人宅のリビング(天井の高さがよくわかる)
キッチン

 彼が居住するアパートは、大家さんがきれいに改装しているので内部はとても近代的で住みやすい造り。リビングは広々、天井はとても高く、キッチンも大きいです。最上階だからかもしれませんが、天井の高さは3.6mとのこと。リビング以外には寝室が2つ、居室のように広いクローゼットが1つ。やはり昔は、何人かでシェアしていたのだろうなと思えるくらい広いアパートです。

 「各部屋にエアコンがあるけど、外が暑くても家の中は涼しいので一度も使ったことがない。冬も暖かいし、住み心地は良いよ」と友人は言います。ちなみに、ロシアは集中暖房システムなので大概どこの家でも家中暖かく、半袖で過ごすことができますが、スターリン時代のアパートは暖かすぎて、真冬でも窓を少し開ける人がいるくらい。

 そして、壁が厚いので、隣や下からの物音がせず、とても静かです。音楽好きの友人にとっては、リビングにあるオーディオセットで大きな音で音楽を聴いても音漏れがしないのが一番気に入っているとのこと。

 私は、モスクワ大学に留学していた時に、スターリンゴシックのセブンシスターズの一つである、モスクワ大学の本館の中にある寮に住んでいたことがあるのですが、寮なので部屋は狭いですが、確かに壁は厚かったし、夏もそれほど暑さを感じず、冬は暖かく過ごしやすかったことを思い出しました。 

 不動産会社に勤務する知人曰く、スターリン時代のアパートは、モスクワ市の中心部に多く、便利でもあるので、価格は高めですが、空きが出るとすぐに借り手が決まってしまうほどの人気な物件なんだとか。古き良きものを大事にするロシア人の生活スタイルにあっているのかもしれません。


小野敦子
ロシア在住コーディネーター、フリーライター、ロシア語通訳・翻訳
MA in Russian and East European studies
(CREES バーミンガム大学)
専門分野: ロシアの現代問題・歴史・文化・劇場芸術(特にバレエ)
執筆歴: 共同通信社「海外文化通信」、Samurai Soccer King (雑誌) 創刊号から8号まで本田選手の住むモスクワ担当ライター、日経 ARIA「世界のARIAさん」。その他、JAL機内誌、旅行関係雑誌・サイト等への執筆多数

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