海外トピックス

2022/1/1

vol.388 ブエノスアイレスがタンゴに染まる日【アルゼンチン】

 “ブエノスアイレス“という街をご存知でしょうか。地球儀で見ると日本のちょうど反対側。南米アルゼンチン共和国の首都でありながら、どの州にも属さない自治市として独自の文化を持ち、“南米のパリ“と比喩され、アルゼンチンの他のどの地域とも毛色の違う街です。

 世界がコロナによって止まった2020年。年々増え続ける観光客がいずれ300万人に到達すると言われ、多くの外国人が滞在していたブエノスアイレスの街も、人の姿が忽然と消えました。8ヶ月に及ぶ外出禁止令を経て、やっと日常を取り戻しつつあるブエノスアイレス。今回は、今年9月に開催された「アルゼンチンタンゴフェスティバル」について紹介します。

◆世界中のタンゴ愛好家が集結

年を重ねても踊れるタンゴ。ミロンガのエキシビジョンの様子

 ブエノスアイレス市は、自治政府が文化庁を持つほど芸術に力を入れています。この文化庁が「タンゴフェスティバル」を毎年夏に開催し、世界中のタンゴ愛好家を街に集めています。フェスティバルでは、タンゴに関わる著名人の講演や演劇、タンゴ楽団のコンサート、有名ダンサーのレッスン等に無料で参加できるほか、タンゴダンス世界選手権も開催されるなど、盛りだくさんの内容です。

コロナ禍以前のブエノスアイレス市内のミロンガの様子

 アルゼンチンタンゴは世界中で踊られています。このタンゴフェスティバルやタンゴダンス世界選手権の際は、世界各地からタンゴ愛好家やプロのダンサーが集まります。南米の中でも観光地として人気の高いブエノスアイレスですが、この時期はタンゴ愛好家の聖地として特に多くの人でにぎわいます。

 そして、そのままブエノスアイレスに住みついてしまうタンゴ愛好家も多くいます。この街にしかないタンゴが、多くの外国人タンゴ愛好家を魅了して離さないのでしょう。筆者もその1人です。

◆外出禁止令で閑散とした街

外出禁止期間中、人の姿が消えたブエノスアイレス市の様子

 20年3月15日、アルゼンチンでは秋を迎え心地よい風が吹く頃、隣国ブラジルにコロナが迫った段階で、大統領は急遽国境の閉鎖を決行。同月20日からは、アルゼンチン全土で食料品の買い出し以外の外出を禁止しました。

 アルゼンチン人は、物事のルールに対して寛容な考えの人が多いですが、1980年代まであった軍事国家時代の厳しさの名残りか、コロナへの恐怖か、日本人である私も驚くほど外出する人はいませんでした。街から人が消え、各国の大使館は緊急用のチャーター便を飛ばす事態となりました。外出禁止が続いた期間は8ヶ月にもわたりました。

普段は人でにぎわう観光地、エビータが眠るレコレータ墓地

 常にインフレ状態にあり貨幣価値が日々下がるアルゼンチンは、失業率が高く貧富の差も激しいですが、コロナ禍によりそれが更に悪化。仕事を失う不安と飢える恐怖に怒った国民が、「コロナで死ぬ前に“飢えて”死ぬ」と、マニフェスタシオン(デモ)を何度も行ないました。その結果、政府は春には少しずつ外出禁止令を解除していきました。

ニュースで流れるオベリスコ周辺で行なわれたマニフェスタシオン(デモ)の様子

◆タンゴの灯を絶やすな

2021年アルゼンチンタンゴ世界選手権予選の様子。応援席の人数制限のため閑散とした印象

 そんな状況下でも、2020年はオンラインでタンゴフェスティバルが開催されました。参加者は少なく、オンライン上での投票・審査などに課題は出ましたが、たとえ外出規制中でもあっても世界を巻き込むこのフェスティバルを開催する文化庁の実行力には感嘆しました。

 そして今年9月には、空港を閉鎖した状態でタンゴフェスティバルを実施しました。市内・近郊からの参加者は会場で、海外・遠方からの参加者はオンラインで参加する形式に。リアルでも開催したことに加え、オンラインもシステムを改善したことで参加者が増え、少しずつにぎわいを取り戻している印象です。FacebookやYouTubeで全世界に配信され、多くのタンゴ愛好家がフェスティバルを見守りました。

2018年の世界選手権表彰式の様子

 例年、市内の大型収容施設「ルナ・パルク」で行なわれる決勝戦は、密集を避けるため、市内中心地の大通りを封鎖して野外舞台で開催しました。文化庁がブエノスアイレス自治区の威力を最大限に発揮して、大型収容施設の賃料と感染リスクを減らしたのです。

ブエノスアイレスの象徴オベリスコがタンゴに染まる。2021年決勝の舞台

 暮れゆく空に浮かぶブエノスアイレスの象徴・オベリスコを背景に、決勝まで残ったダンサー達がチャンピオンを目指して踊る姿はとても美しく、インターネット越しに状況を見守るタンゴ愛好家にブエノスアイレスの街とタンゴへの想いを再燃させたことでしょう。

◆にぎわいが戻ることを祈って

ブエノスアイレスの象徴オベリスコとハカランダ

 21年11月末時点でアルゼンチンではワクチン接種率が60%を超え、すでに空港も再開しています。

 タンゴはお互いが抱擁して踊るダンスです。アルゼンチンでは親しい人と頬を寄せたキスで挨拶をし、男同士は熱い抱擁を交わします。そしてマテ茶のボンビージャ(金属製のストロー)を仲間で共有し、友情を誓い合ってきました。いまはお互いマスクをして、触れ合った後は除菌する姿が目に付きますが、本来は、近すぎるぐらいの人と人との距離感がブエノスアイレスの街の魅力でもあります。

 コロナ禍が落ち着き、早くあの人懐っこい距離感とタンゴ愛好家のあふれる街が戻ることを願って止みません。

AKANE
静岡県出身。アルゼンチンタンゴダンスを学ぶため、2016年ブエノスアイレスへ留学。タンゴ発祥の地と呼ばれるボカ地区のレストランやタンゴ愛好家の社交場「ミロンガ」で踊りながら、本場のタンゴを学ぶ。現在は、市内でタンゴレッスンを主催する傍ら、アルゼンチン人の夫とタンゴダンス世界選手権へ毎年出場するのがライフワーク。著作に「人生を変える海外移住 ブエノスアイレス編」等。

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