記者の目 / 開発・分譲

2006/3/22

新たな可能性が見えたリノベーション

リビタ、“一棟丸ごと”改修物件第2弾「湘南辻堂」完成

 コンバージョンで数多くの実績を持つコンサルティング会社・都市デザインシステム(株)と、オール電化を軸にした住宅供給を進めている(株)東京電力が対等出資して設立した、リノベーション事業を主業とする会社・リビタ(株)が手掛けた「一棟丸ごとリノベーション物件」第2弾となる「湘南辻堂プロジェクト」が完成、このほど内覧会が行なわれた。今回も社宅のリノベーションだが、一部を社宅として利用しながらリノベーションしている点と、購入者の希望に合わせてリノベーションのレベルを3段階に分けている点が新しい。ハード面、ソフト面での対応を充実させることで、リノベーション事業の可能性をさらに広げていこうという狙いだ。

フルリノベーション住戸のリビング。今回のプロジェクトはシンプルなリノベーション提案がメイン
フルリノベーション住戸のリビング。今回のプロジェクトはシンプルなリノベーション提案がメイン
建物外観はほとんど手を入れていない
建物外観はほとんど手を入れていない
新たに設けられたエントランスホール
新たに設けられたエントランスホール
水周りのリノベーションもオプションとしてコストを下げている
水周りのリノベーションもオプションとしてコストを下げている
デザイナーズをチョイスすればフルオーダーも可能
デザイナーズをチョイスすればフルオーダーも可能
ICロックでセキュリティを強化。全住戸をエコキュート採用のオール電化に
ICロックでセキュリティを強化。全住戸をエコキュート採用のオール電化に

分譲・社宅を共存させるという試み

 同物件は、大好評だった「井の頭公園プロジェクト・桜アパートメント」(三鷹市牟礼、総戸数12戸)に続く、社宅の一棟丸ごとリノベーション物件。所在地は、神奈川県藤澤氏辻堂新町3丁目。JR東海道線辻堂駅から徒歩19分、同線藤沢駅からバス6分徒歩1分のアクセスはやや難があるが、藤沢駅行きバスは昼間でも4分おきに出ているほか、所在地前面にエリア最大のショッピングセンターが建設中で、藤沢駅前の商業施設と合わせた生活利便性は高い。

 建物は、1993年築の地上7階建て、総戸数は54戸。もともとは、松下電工グループ会社が海外赴任から帰国した社員のため使っていた社宅で、そのため、住戸専有面積が85~110平方メートルと、建設当時では異例の広さとなっている。今となっては100平方メートルマンションも珍しくないが、このエリアの新築物件では、広くても80~90平方メートルが主流。つまり、リノベーション物件のベースとして、非常に魅力的な差別化要素があるということだ。

 今回の特徴の1つとしてあげられるのは、リビタが一棟買い上げしながら、既存の社宅住民を居住させたまま、リノベーションを行ない、販売を進めていった点がある。リビタが社宅利用会社との間で、社宅部分をリースバック。5年間にわたる定期借家契約を締結しているため、社宅利用会社はこの期間内に社員を退去させる。リビタは、社員が退去していくたびに、その住戸をリノベーションし、最終的に全戸を販売するという手法。一時的ではあるが、分譲購入者と賃貸居住者が同居するため、管理運営面での細かい取り決め等が必要になったが、あえてそれにチャレンジしたのは、少しでも良い物件を早期に入手したいリビタ側と、入居者の退去に時間がかかるが、できるだけ早く資産を売却したいという企業との利害が一致したためだ。

 現時点で社宅として利用されているのは20戸。すでに、全戸に「リノベーション後の購入」を希望するユーザーが待機待ちしているという。

基本部分はほとんどそのまま

 前回の「井の頭公園」とは違い、今回の建物は築年数が非常に新しいことから、建物外観については、劣化部分の最低限の補修以外、ほとんど手を入れていない。共用部分では、エントランスや開放廊下、エレベータなどをデザインリニューアルした。ICカード利用のオートロック(玄関扉のキーシリンダーに、電池式の電子ロックを設置するだけの簡易的なものだが、戸当たり設置価格は6万円と格安※記者注)と、1階住戸への防犯センサーを設置。共用屋上テラスも新設している。住戸が広いことから、建物外にあり利用頻度の低かったトランクルームを廃止。その敷地を使って、機械式駐車場を全戸平置きに改めた。1階住戸については、専用庭内に駐車場を設置している。書き連ねるとかなりの箇所のようだが、「井の頭公園」に比べると、外観は全く普通のマンションにしか見えない。ファサード部におしゃれなネオンライトが設置されていることぐらいか。

 施工は清水建設で、躯体はもちろん、新耐震であり劣化もない。直床・直天井、サッシュ高1,700mm、水周り段差ありと、さすがに現代のマンションと比べると見劣りするが、リノベーションの「素材」としては十分だ。補強も一切なし。給排水の縦管も、そのまま利用。あとは、東電傘下のリビタお約束の、IHクッキングヒータとエコキュートによるオール電化が行なわれている。
 ただし、昨今の耐震強度への関心の高まりに対応し、専門家による構造診断を実施。コンクリートの中性度、強度など劣化診断と、ハウスプラス(株)による既存住宅の性能表示を行なった。瑕疵保証は、中古住宅同様の2年となるが、構造に関するあらゆる情報を開示し、ユーザーの理解を求めた。

「松」「竹」「梅」のリノベーション

 さて、住戸である。前回の「井の頭公園」では、購入希望者に「自由設計」「モデルルームタイプ」「セミオーダー」の3つの選択肢を与えていた。いずれも、既存の建物をスケルトン化し、水周り等も一新したものだった。今回の「湘南辻堂」も、購入者に3つの選択肢を用意しているが、それは「井の頭公園」とは全く考えの違った選択肢だった。

 まず、「スタンダード」タイプ。一言でいえば、これはリノベーションではない。間取りはそのまま、住設機器等もオール電化部を除けばそのまま。面材やクロスを最低限張替えるだけだから、いわば“原状回復”のようなものだ。これが、ベース価格となる。坪単価は100万円強で、周辺新築マンションの8割程度。共用部のリノベーションを考慮すれば、十分お買い得な価格設定ではないだろうか。購入者の半数が、このプランを選んだというのは、記者にとっては少々驚きだったが。

 次が「フルリノベーション」タイプ。スタンダードタイプに設計料15万円を追加すると選択できるもので、デザイナーとの打ち合わせ(3回程度)により、購入者の希望に合わせて水周りを除いた間取りが一新できるほか、床、クロス、住設機器の面材類の色・素材がセレクトできる。住設機器は従前のものをリニューアルするだけとなるが、希望者は新品を導入することも可能だ。モデルルームとして見学させてもらった住戸は、水周りがすべて一新されており、追加費用265万円がかけられていた。それを合算した坪単価は114万円。正直、スタンダードとの差額は微妙だが、4割弱の購入者が選択している。

 そして、「デザインリノベーション」。要するに“やりたいことはなんでもできる”プランで、間取りも仕様も思いのままというプラン。デザイナーと8回ほど綿密な打ち合わせを行ない、自由にデザインが描ける。モデルルームとして用意されていたプランは、白黒のモノトーンで統一され、巨大なアイランドキッチン、ガラス張りの浴室、モザイクタイルと天然石使いの洗面所と豪華なもの。追加工事費は700万円。85平方メートルで3,378万円・坪単価131万円と、さすがに新築マンションと肩を並べる価格だが、得られる満足感は大きいだろう。

 どの住戸も、新築マンションにひけを取る部分はそう目立たない。ただ、サッシュの低さだけはもったいない。ハイサッシュを入れるには躯体を削らなくてはならないから実現不可能だが、それだけで商品力はぐっと増すはずだ。それから、エコキュートの貯湯タンクが居室内にあることは気になる点だ。遮音・遮熱対策を施しているとはいえ、90度のお湯が一年中溜められ、お湯を使うたびに多少の音がするものだけに、できれば外廊下かバルコニーに納めたかったところだ。

「個性」も大事だが「価格」はもっと大事?

 今回の「藤沢辻堂」は、昨年10月から販売を開始。所在エリア周辺で1回チラシ配布を行なっただけで、100組が来場し、21戸が完売。現社宅の残り住戸にも、すべて予約が入った。購入者層は、団塊世代の買い替え客がメインで、「残りの人生で払える額で、より広い住宅が欲しい」という人が多かったという。つまり、購入者はリノベーション最大のメリットである「個性」ではなく、「価格」「広さ」により敏感に反応したということだ。

 リノベーションは「人とは違った個性的な住まいを手に入れたい」というニーズに対応するものと理解されているが、それだけではない。「より安価にゆとりの住まいを手に入れたい」というニーズに応えるものでもあるのだ。実際、今回の申込者の半数が間取り改修なしを選択していることからも、それは容易に理解できる。今回のリビタのプロジェクトは、まさしくそうした「裏」リノベーションマーケットが確固として存在することを示したといえる。いや、どっちが裏か表かはわからない。中古マンションを探すユーザーにとって、前者のニーズももちろん多いだろうが、後者はもっともっと多いのだから。(J)

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サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。