記者の目 / 開発・分譲

2006/11/7

「中古」の価値を引き上げたい

再生事業に特化、「リヴァックス」が始動

 ここ数年、にわかに脚光を浴び始めたのが、中古マンションの再生事業だ。中古マンションを仕入れ、設備機器を更新したり間取りを変更したりして付加価値を付けて販売する。いわゆる「リノベーション」と呼ばれるものだ。コンスタントに供給するビジネスモデルを構築し上場を果たす企業もいれば、デザインに特化しよりコアなユーザー向けに販売する企業など、百花繚乱の様相を呈してきた。そこにまた、新たなコンセプトを掲げて参入したのがリヴァックス(株)。「古くなってこそ価値が高まるマンションを作りたい」という同社の第一号物件を見学してきた。

同社初のリノベーション物件「RE-ism(リズム)」第1号
同社初のリノベーション物件「RE-ism(リズム)」第1号
外観はまったく普通のビル
外観はまったく普通のビル
躯体を除くすべてを取り払い、新たに居室をデザインしていく
躯体を除くすべてを取り払い、新たに居室をデザインしていく
小型キッチンと収納を納めたコーナーにはパンチング加工された引き戸を設置。全閉することでプライバシーを保てる
小型キッチンと収納を納めたコーナーにはパンチング加工された引き戸を設置。全閉することでプライバシーを保てる
一新された水周り。独立型のバスタブとトイレ、コンパクトな洗面台はガラスウォールで仕切られている
一新された水周り。独立型のバスタブとトイレ、コンパクトな洗面台はガラスウォールで仕切られている
IHクッキングヒーターを装備したキッチン
IHクッキングヒーターを装備したキッチン

マンションの「ヴィンテージもの」めざし

 同社は、ワンルームマンション販売大手である(株)トーシンの常務を務めていた斉藤信勝氏が2006年1月に設立した。新会社設立について、同氏は自身のブログでこのように振り返っている。
 「なぜ不動産で中古不動産に特化するのか? 不動産というのは、国の大事な資源であり環境にも影響を与えるもの。しかし、多くの不動産業は利益追求だけに走っている気がする。私達は、今ある大切な資源と資産を有効に使い、“古くなったら価値がなくなる”という考えを根本的に変えたい。そして“古くなって味が出る”“古くなって価値が高まる”、イメージでいうと“マンションのヴィンテージもの”。価値ある不動産を世の中に残していきたい」--。この言葉には、これまで20年間にわたり新築販売一筋できた自身への反省も込められている。

 国の政策が「新築供給」から「ストック活用」へ大きく方向転換したように、中古マンションの再生事業は、いま俄然注目を集めている。既存ストックを活用することで、より魅力的な立地により個性的なデザインの住戸が供給でき、さらにより安く販売できるということで、より個性的な住まいを求める団塊ジュニア層を中心に、こうした再生物件は人気を集めている。

 ただこの再生事業は、歴史が浅いことから、さまざまな問題を抱えていることも事実だ。まず、ベースとなる「中古」物件が、どの程度の性能を持っているのかということ。デザイン性を優先するあまり、「旧耐震物件」を化粧直しするだけで販売するような会社もあるが、こうした物件は、万が一手放そうにも流通性に欠けるだろうことは明白だ。さらに、中古物件は管理情報が整っていないものも多く、相対的な担保評価や適正価格を把握できない弱みもある。新築並みの化粧直しはできても、基本保証期間は「中古」の2年に過ぎない。こうした問題に、同社はどう対応するのか。

独自の鑑定書を全物件に付与

 同社の再生マンションブランド「RE-ism(リズム)」では、全物件に「リヴァックス プロパティブック」と呼ぶファイルを添付していく。このファイルは、(1)物件のコンセプトやデザインのポイントをまとめた「コンセプトブック」、(2)主要部材や設備機器の取扱説明書などをまとめた「インストラクションマニュアル」、(3)物件取得時に実施した第三者による「デューデリジェンスレポート」、(4)売買契約書、重要事項説明書などをまとめた「コントラクトブック」、(5)リノベーション工事の様子をレポートした「コンストラクションレポート」、(6)専有部分のメンテナンスに関する提案書「ライフサイクルサポートブック」、からなる同社独自の鑑定書。これにより、ベースとなった物件の基礎的情報やその担保評価などを明確にするほか、メンテナンスの提案により将来にわたる価値評価の維持を図っていくものだ。今後は、これらレポートをベースに、現在2年間の瑕疵保証を延長する住宅性能保証体制も確立していく。

 また、ベースとなる物件は、現時点ではすべて「新耐震物件」を選定していく。現在の1室仕入れでは、建物全体の躯体補強などを手がけることができず、将来的な品質の確保ができないためだ。今後、一棟仕入れが可能になった場合は、旧耐震物件も視野に入れ、万全の躯体補強を施した上でのリノベーションも検討していくという。

第1号物件は「白」がモチーフ

 第1号物件として発売されたのは、「白」をテーマにしたデザインマンションだ。港区赤坂2丁目、東京メトロ「溜池山王」駅徒歩1分に立地する、築23年、地上7階建ての事務所系ビルの一室をフルリノベーションしたもの。建物は大手ゼネコン施工で、もちろん新耐震基準の建物であり、躯体の傷みは少ない。ベースは、専有面積約40平方メートルの事務所。ワンルーム、ステュディオタイプであれば充分な面積だ。また、従前よりオーナーが住んでいた関係で水道・電気容量も充分とのこと。事務所ならではの天井高(2,550mm)が魅力だ。

 家具や建築デザインを数多く手がけるテレデザインが、スケルトン状態から新たな設計・デザインを実施した。躯体むき出しの天井・壁紙・床タイルまで全て白色に統一し、限られた空間に視覚的広がりを持たせた。また、東西方向に細長い室内をより広く見せるための工夫として、ミニキッチンも収納する大型の棚を斜めに配しているのが面白い。この棚には、パンチング加工が施されたベニア製の扉がついている。使わないときは、扉を閉めることでキッチンや棚を完全に目隠しすることができ、プライベート、パブリックで空間を使い分けることができる。

 水周りは、既存の床を30cmあまり上げて配管を廻し、スキップフロア調に処理している。ガラスで仕切られたタイル張りのパウダールームには、独立型のバスタブと陶器製の手洗い、トイレが並んでいる。バスタブは猫足つきではないが、一般サイズでいえば1418に相当しそうで、ワンルームには十分過ぎる大きさだ。

 唯一、残念だったのは、「共用部」に該当する玄関ドアとインターフォンが、どちらも従前のままにされていること。見栄え上のこともあるが、どちらも都心立地のマンションでは重要な「セキュリティ」に密接な関係のある部分だけに、できれば一新したかったところだ。

今後は一棟リノベーションにもチャレンジ

 第1号物件の販売価格は、3,600万円。このうち、改装費は600万円程度だという。坪単価は300万円弱で、この立地とフルリノベーションされた内装を考えれば割安感もある。事前告知のみで買い手がついたという。
 今後も都心3区を中心に仕入れを進め、30歳代を中心としたヤングエクゼクティブ向けに販売していくとのことで、すでに、第2号物件を代々木で開発中だ。

 同社は、07年度39室のリノベーションマンションの販売を計画中。このほか、投資家向けに中古マンションの一棟販売も行なっていく。これは単なる転売ではなく、将来同社がリノベーションを施すことによって永続的な投資品質を保証する、いわば「先行仕入れ」的意味合いもある。今後は、リノベーションするうえで制約の少ない一棟ものの仕入れにもチャレンジしていくという。
 マーケティングには、インターネットをフル活用。齋藤社長をはじめ、スタッフそれぞれがブログで情報発信。なかでも、リノベーション工事のレポートは、潜在ユーザー掘り起こしに威力を発揮しそうだ。

 齋藤社長は、自身のブログで、こんな「夢」を語っている。「せっかく不動産業をやってきたのだから、不動産で世の中に影響与えるような大それた事をしたい!!」。
 2015年には、築30年を超えるマンションが100万戸に達するという。もし、ここまで膨れ上がったストックに最善の利活用法を与えることができれば、なるほど、それは間違いなく「大それた事」だろうと、記者は感じる。(J)

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「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。