記者の目

2006/12/1

「産」「官」「学」連携のまちづくり

TX「柏の葉キャンパス」プロジェクトが本格始動

 昨年8月の開通以来、新しいまちづくりが急ピッチで進んでいる「つくばエクスプレス(TX)」沿線。その中で、最も注目されているまちづくりが「柏の葉キャンパス」プロジェクト(千葉県柏市)だ。三井不動産(株)の「産」、地元・柏市の「官」、東京大学・千葉大学の「学」が縦横に連携。環境・健康・創造・交流などさまざまなテーマを掲げた「キャンパスシティ」を作り上げようというものだ。その成り立ちからして「官主導」のまちづくりが多いTXにあって、民間企業と大学、NPOなどの地元活動が一体となって進むまちづくりは稀有であり、その成果が期待されている。

「柏の葉キャンパス」駅周辺の空撮。総開発面積273ヘクタール、「産」「官」「学」が連携する大規模プロジェクト
「柏の葉キャンパス」駅周辺の空撮。総開発面積273ヘクタール、「産」「官」「学」が連携する大規模プロジェクト
街づくりに関する情報を公開し、事業者、自治体、住民、学生など幅広い人達の交流をめざして開設された「柏の葉アーバンデザインセンター」
街づくりに関する情報を公開し、事業者、自治体、住民、学生など幅広い人達の交流をめざして開設された「柏の葉アーバンデザインセンター」
「魅力溢れるキャンパスシティを作り、国内外に向けて発信していきたい」と記者会見で抱負を語る、三井不動産・岩沙弘道社長
「魅力溢れるキャンパスシティを作り、国内外に向けて発信していきたい」と記者会見で抱負を語る、三井不動産・岩沙弘道社長
駅前大規模開発の先陣を切ってオープンした「ららぽーと柏の葉」
駅前大規模開発の先陣を切ってオープンした「ららぽーと柏の葉」
建物内部はアースカラーでまとめられ、ゆったりとした吹き抜けから陽光が差す
建物内部はアースカラーでまとめられ、ゆったりとした吹き抜けから陽光が差す
「環境」や「健康」に配慮した取り組みとして、風力発電や太陽光発電、住民への屋上菜園貸し出しなどが行なわれる
「環境」や「健康」に配慮した取り組みとして、風力発電や太陽光発電、住民への屋上菜園貸し出しなどが行なわれる
2007年春から販売される「(仮称)柏の葉キャンパス駅前プロジェクト」完成予想図。地上35階建てのタワーマンションを含む、総戸数977戸のマンション
2007年春から販売される「(仮称)柏の葉キャンパス駅前プロジェクト」完成予想図。地上35階建てのタワーマンションを含む、総戸数977戸のマンション

「世界に誇れるキャンパスタウン」めざし

 TXで秋葉原から30分の「柏の葉キャンパス」駅周辺では、いま総計画面積273haに及ぶ広大な街づくりが進んでいる。

 計画地の多くは、三井不動産が運営していた「柏ゴルフ倶楽部」跡地であったことから、区画整理事業の核となる駅前開発と周辺の住宅開発を、三井不動産が手がける。柏市は、20年前に「常磐新線」の計画が立ち上がった段階で、同所を豊かな自然(緑)と公園(園)、教育施設(学園)を核にした「緑園都市構想」を描いていた。その構想に合わせ、市内最大の「柏の葉公園」を整備。東京大学の柏キャンパス、千葉大学の柏の葉キャンパスをそれぞれ誘致し、両大学が積極的に街づくりに参画。「官」「産」「学」が連携し、「世界に誇れるキャンパスタウン」を合言葉に街づくりをめざしている。

 このコンセプトを具現化する施設として11月20日に誕生したのが、「柏の葉キャンパス」駅前に開設された「柏の葉アーバンデザインセンター」だ。同施設は行政、大学、企業が、街づくりに関するさまざまな情報を発信。企業、学生、市民だけでなく、地元農家、NPO団体など「柏の葉」の街づくりに携るあらゆる人や組織の交流を促し、そこから生まれる新しい提案を、さらに街づくりにフィードバックしようというのが目的だ。

 20日のオープンに際し会見した、東京大学の小宮山宏総長は、「当大学の柏キャンパスには、塀を作らなかった。日本初の国際都市にふさわしい開かれた大学をめざしたからだ。産官学の連携が必要と常々言われてきたが、なかなか実現しなかった。海外の一流の研究者を呼び込むには、彼らが“暮らしたい”と思うような街づくりや住宅を作ることが重要だと思う」などと語った。千葉大学の古在豊樹学長は「当大学の柏キャンパスでは、東洋医学や園芸療法に関する研究を行なっている。これらをベースに、環境、健康などをキーワードとした世界に通用するライフスタイルを提案したい」と語り、本田晃・柏市市長は「隣接する野田市や千葉県とも連携して街づくりを進めていく」と語った。

「産」の主役である、三井不動産・岩沙弘道社長は「スタンフォード、ケンブリッジ、ボストンなどに負けない魅力溢れるキャンパスシティを作り、国内外に向けて発信していきたい。産官学の垣根を越えた共同事業により新たな価値を創造し、このエリアのポテンシャルを引き上げていきたい」などと抱負を述べた。

駅前開発第1弾は「ららぽーと」

 その三井不動産グループが手がけるのは、「柏の葉キャンパス」駅を中心とした、約26haのエリアで、大規模商業施設、賃貸・分譲住宅、ホテル、病院、子育て支援施設などの開発を推進していく。

 その第1弾として11月22日オープンしたのが、大規模商業施設(SC)の「ららぽーと柏の葉」だ。敷地面積約4万2,000平方メートルに、185店舗が出店。「環境・健康・循環」を開発コンセプトの中心に置き、いわゆる「LOHAS」(健康と接続可能な社会に配慮したライフスタイル)という考えに基づいた業種誘致をしている。たとえば、タラソテラピーや富士山溶岩による岩盤浴が体験できる店、植物素材によるスキンケアを売りにした店、自然食のレストランなどだ。また、千葉大学も、そのノウハウを活用して、鍼灸治療院を開設。地元の人達の健康づくりの拠点とするという。

 記者は開業前の施設を見学することができた。船橋の「ららぽーと」をイメージしていたので、正直「拍子抜け」する部分もあったが、全体的に肩肘張らない「生成り」な雰囲気が漂っている。こういうナチュラルテイストが、団塊ジュニア層には受けるのだろう。

 建物全体も「環境」への配慮を前面に出しており、屋上に設置された太陽光発電や風力発電装置、ららぽーと会員に貸し出される「屋上菜園」などの新しい試みがなされている。
 
マンション供給も2,700戸超

 「ららぽーと柏の葉」の開業に合わせ、三井不動産レジデンシャル(株)が、大規模分譲マンション「(仮称)柏の葉キャンパス駅前プロジェクト」のプレセールスを本格化した。

 同物件は、「柏の葉キャンパス」駅前に隣接した敷地約2万9,000平方メートルに、地上18~35階建てのマンション5棟を建設。総戸数977戸を供給するもの。街区全体のコンセプトを継承。外観デザインは、アースカラーを基調とする。入居者同士、入居者と来街者、入居者と大学の交流を意識し、エントランスパティオなどオープンスペースを多く採った配棟計画とするほか、120種類以上の樹木を植栽する。千葉大学が提唱する化学物質を極力廃した「ケミレス仕様」のキッズルーム、将来大学のセミナーも開催できるようなライブラリーなども設置する。また、入居者は「ららぽーと」の優待や、買い物商品の無料宅配などの特典を受けられる予定。

 住戸は、1LDKから4LDK、専有面積65~132平方メートルと、バリエーションを持たせる計画で、バルコニーの奥行きは全戸3m以上とする。販売価格は未定だが、1つ手前の「流山おおたかの森」駅前で、オリックスリアルエステートが分譲したマンションが坪単価160万円強で大人気となったこと、TX沿線全体の人気・ポテンシャルが急上昇していることなどを加味すれば、坪単価170万円台突破は間違いないと思われる。販売開始は、2007年春だ。

 同社は、このほかにも駅を取り巻く周辺エリアで賃貸マンション200戸を含め2,700戸超のマンションを供給する計画だという。

TXの街づくり:民間の力をうまく活用せよ

 TX沿線では、自治体が主導する土地区画整理事業がいくつもスタートしているが、そのほとんどが自治体を中心にした「官主導」の街づくりだ。それらの多くは、街づくりのコンセプトがはっきりせず、立ち並ぶ住宅も画一的なものばかり。開発スピードも遅い。当事者の自治体は「計画どおりに」というが、ある程度街づくりの方向性が見えなければ、そこに住もうという考えは起きてこない。好き嫌いのはっきりしている「団塊ジュニア」層がターゲットならば、なおさらだ。

 たとえインフラ整備が先行する「土地区画整理事業」であっても、民間業者とうまくコラボレーションすれば具体的な街づくりのビジョンが見せられることを、「柏の葉キャンパス」は明示しているのではないか。(J)

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サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。