記者の目 / 開発・分譲

2007/2/28

50年限定のヴィンテージマンション

「資産は子孫には残さない」が合言葉? 定期借地権という選択

 「ヴィンテージマンション」という言葉が徐々にではあるが広まりつつある。もともと高品質なマンションで、年月を重ねることで新築マンションにはない味わいや落ち着き、住環境が創出されているような、まさに「ヴィンテージ」のマンションのことだ。  そんなヴィンテージマンションが「50年限定」で新たに誕生しようとしている。ヴィンテージマンションの代表「広尾ガーデンヒルズ」を継承した定期借地権付き分譲マンション「広尾ガーデンフォレスト」だ。

「広尾ガーデンヒルズ」イーストヒル分譲時の様子。ケヤキがまだ稚い。
「広尾ガーデンヒルズ」イーストヒル分譲時の様子。ケヤキがまだ稚い。
「広尾ガーデンヒルズ」ノースヒルの分譲時の様子。雁行する建物のフォルムが続く
「広尾ガーデンヒルズ」ノースヒルの分譲時の様子。雁行する建物のフォルムが続く
「広尾ガーデンヒルズ」外観。周辺に配慮し、外側を低層、内側を高層にした
「広尾ガーデンヒルズ」外観。周辺に配慮し、外側を低層、内側を高層にした
日本赤十字病院や「広尾ガーデンヒルズ」に隣接する「広尾ガーデンフォレスト」
日本赤十字病院や「広尾ガーデンヒルズ」に隣接する「広尾ガーデンフォレスト」
「広尾ガーデンフォレスト」の配置計画。既存樹木の保存・移植を行なうなど、植栽の多さも特徴の一つ。
「広尾ガーデンフォレスト」の配置計画。既存樹木の保存・移植を行なうなど、植栽の多さも特徴の一つ。
「広尾ガーデンフォレスト」外観イメージ
「広尾ガーデンフォレスト」外観イメージ
モデルルームに設置された「広尾ガーデンフォレスト」完成模型。深い庇の雁行型建築フォルムは「広尾ガーデンヒルズ」から継承したもの
モデルルームに設置された「広尾ガーデンフォレスト」完成模型。深い庇の雁行型建築フォルムは「広尾ガーデンヒルズ」から継承したもの
モデルルームの窓の外にはめこまれている画像は実際にみえる風景とほぼ同じなんだとか。今では東京タワーが見えることも、付加価値の一つ。
モデルルームの窓の外にはめこまれている画像は実際にみえる風景とほぼ同じなんだとか。今では東京タワーが見えることも、付加価値の一つ。
ゆとりある生活の一提案であるバスルーム
ゆとりある生活の一提案であるバスルーム

ヴィンテージマンションの代表「広尾ガーデンヒルズ」

 ヴィンテージマンションと呼ばれているものの多くは、恵まれた立地もさることながら、経済性を最優先させたような容積率一杯の建築計画をとっていないものが多く、意匠が美しい。住まい手の愛着が強く、なかなか中古住宅市場に流通しないため、高値で取引されることも少なくない。そんなヴィンテージマンションの代表、つまり良質な住宅ストックのひとつに「広尾ガーデンヒルズ」(東京都渋谷区、総戸数1,181戸、着工1981年、竣工1989年)がある。

 「広尾ガーデンヒルズ」は、「日本の高級マンションのあり方を変えた」とまでいわれているマンションで、住友不動産(株)、三井不動産(株)、三菱地所(株)、第一生命の4社の共同事業として、1972年の土地取得から1989年竣工まで十数年の歳月をかけた一大プロジェクト。日本赤十字病院の跡地約6万6,200平方メートルを約200億円で取得し、事業総工費約600億円をかけて行なわれた。

 広尾ガーデンヒルズは、企画的な建物が同じ方向に並んで立ついわゆる「団地型」ではなく、各住棟の平面プラン・向きともにさまざまな変化を持たせた5地区15棟で構成されており、15棟のうち11棟は「雁行設計」が採用されている。
 「雁行設計」は、開口部を長くすることによって、通風・日照を良くし、住戸間のプライバシーを高める設計手法であるが、実はそれがし、「雁行設計」や「雁行型」をイメージする際、頭に浮かぶのはいつも広尾ガーデンヒルズだ。深い庇、雁行設計により陰影や遠近感といった表情が伴う建物群に、今では大樹となったケヤキなどの周辺の深い緑が影を落としている風景の記憶は、もはや心像に近い、というのは筆者だけではないだろう。

 広尾ガーデンヒルズの販売当時の価格は4,000万円~1億円、中心価格が6,000万円~7,000万円と、当時の東京23区の平均単価より3割高かったが、第1期227戸の平均倍率は40.8倍、最高倍率は209倍となり、その後も分譲されるごとに高い競争率であった。
 人気は今もなお顕在で、最もグレードが高いとされるサウスヒル地区は1坪当たり550万円~600万円、その他のゾーンでも300万円~450万円で売買されている。「分譲時の価格を維持している」というよりは、醸成された環境、希少価値の高い利便性により、中古住宅流通市場では分譲時よりむしろ高い価格で売買されているのだ。
 広尾ガーデンヒルズについての詳細は『月刊不動産流通2003年8月号』の「ルポルタージュ:かつて話題の住宅はいま 広尾ガーデンヒルズ」をご参照いただきたいが、実は今、もう一つの「広尾ガーデンヒルズ」ができようとしている。

広尾ガーデンヒルズを継承・進化させた定期借地権付き分譲マンション「広尾ガーデンフォレスト」

 「広尾ガーデンヒルズ」の隣接地2万9,000平方メートルに地上6階~18階地下2階建てのA棟~H棟・計8棟を立てる計画がある。三井不動産レジデンシャル(株)と三菱地所(株)が共同で進めている定期借地権付き分譲マンション「広尾ガーデンフォレスト」(東京都渋谷区、総戸数670戸)だ。すでに06年5月に着工しており、入居開始は09年3月、計画全体の竣工は2013年8月に予定されている。

 「広尾ガーデンフォレスト」の計画は約3年前から始まった。広尾ガーデンヒルズの開発にも参加した三井不動産レジデンシャル(株)と三菱地所(株)の両社は2004年、日本赤十字社が募集した敷地の有効活用に関するコンペ(日本赤十字社広尾地区再整備事業)に共同で参加。同計画地に隣接し、ヴィンテージマンションとして評価の高い「広尾ガーデンヒルズ」(東京都渋谷区、1989年竣工)との一体的な開発提案等々を提案し、両社の案が採用されたのだ。

 広尾ガーデンフォレストの開発にあたる三井不動産レジデンシャル(株)開発事業本部都市開発事業部長の井上 徹氏は、「『住まいに志あり』、を念頭において、ソフト・ハード面ともに次世代に先駆ける提案、価値創造ができた」と顔をほころばせ、同じく担当者である三菱地所(株)住宅事業本部パートナー事業部長の田村良介氏は「“ガーデンフォレスト”という名に恥じない環境が整う」と自信をのぞかせる。

 今回開発する広尾ガーデンフォレストは、深い庇、雁行型のフォルムをはじめ、既存樹木の保存・移植、駐車場の地下化といった緑あふれる環境の創出といった考えを広尾ガーデンヒルズより継承。さらにゲイティッドコミュニティーの考え方を敷地全体に導入し、ゲートセキュリティーやICカードを活用した幾重ものセキュリティーチェックなど、高度なセキュリティー体制を設けた。
 また、大きなウリのひとつとして日本赤十字社医療センターとの医療連携を提案している。隣接する日本赤十字社医療センター内に広尾ガーデンフォレスト入居者専用電話回線を開設することで、健康相談や病院に対する問い合わせに24時間365日対応するほか、毎週土曜の午前中にマンション内で看護婦が健康相談や人間ドック受付に対応する。また、分譲マンションでは珍しくなくなった共用施設予定受付やタクシー、ハイヤーの手配などの取次ぎサービス、ケータリングの紹介などを行なうコンシェルジュサービスに加え、住戸内の電球交換や粗大ゴミの運搬等の手伝いを行なう「ホームアテンダントサービス」を提供する予定だ。
 充実したサービスが提供されるマンションで気になるのは入居してから発生する管理費だが、1平方メートルあたり500円前後となる見込みで、これは都心マンションと同程度の負担。
 計8棟のうちA棟~D棟の4棟の販売は4月上旬より開始される予定で、専有面積は45.74平方メートル~288.76平方メートル、価格は5,560万円~10億円。06年6月の広告開始からすでに6,500組から反響があり、1月中旬より行なわれた優先会員向け販売によりすでに200戸が分譲済みだという。

50年限定は高い? 安い? 定期借地権

 値段をみると、「あれ? 比較的安い?」と思われる方もいるかもしれない。それもそのはず、定期借地権付き分譲マンションである広尾ガーデンフォレストは、建物は区分所有権であるが、土地は一般定期借地権(地上権)、つまり50年間の借地契約となっているため、こういった価格設定が可能になった。借地期間終了時には建物を解体、土地は更地にして地主である日本赤十字社に返還する。契約期間の延長や建物の買取請求はできない。また、解体費用も入居者が「解体準備金」として用意することになる。もちろん借地なので、購入費用とは別に、その年の公租公課相当額×1.5を地代として毎年支払う。

 子供に自分が所有する財産すべてを相続させたいと考えるのであれば、いずれは姿かたちもろとも権利がなくなる定期借地権のマンションは適さないだろう。しかし、昨今アクティブシニアといわれる層の中にも「自分達が稼いだお金は自分達でしっかり使いたい。子供達に資産を残してもろくなことにならない」と、余生を楽しむ人々が確実に増えている。
 実際、広尾ガーデンフォレスト優先会員向け販売に当たった担当者は購入者層について、「財産をすべて相続したいという考えはあまり持っていないように感じる」と話しており、子育てを終えた60代の夫婦や、周辺に教育施設が充実していることから40代前後のファミリーが多かったという。

団塊世代の大量リタイアメントを目前に、多様化する住宅双六の「あがり」

 2007年の団塊世代の大量リタイアメントを目前に、さまざまなシニアマーケットビジネスが活況を呈している。実際、住宅・不動産業界でも多様化するニーズへの対応として、田舎暮らしや地方移住、海外移住をはじめ、有料老人ホーム、趣味が実現できる家への建替え、子世帯とスープの冷めない距離に暮らすため、または都心生活を満喫するための住み替えといった、さまざまな提案や取り組みがなされている。  ライフスタイルの多様化に応じて、広がる暮らし方の選択肢。その一つとして、未来永劫所有できなくとも、恵まれた住環境を享受できる定期借地権付き分譲マンションという選択。

 以前、筆者は旅先で、モロッコの奥地で暮らす「ヒッピー」と、ニューヨーク・マンハッタンに暮らすエリートサラリーマンである「ヤッピー」から、それぞれ別の機会にある同じ言葉を聞いた。収入も属性も大きくかけ離れる彼らが口にしたその言葉とは「お金はもちろん必要だし、とても大事なもの。でも、最も重要なことは、どうやってお金を使うかだよ」というものだった。 
 もし、お金の使い方が自分のライフスタイルを表現する一つの方法、道具であるとするなら、これまでわれわれ個人や家庭、学校や会社、そのほかの社会、国、世界はどのように使ったのか、そしてこれからどう使うのか、さまざまな選択肢を前に、改めて「豊かな暮らしとは」を思い、真摯な気持ちにならなくもない。(ひ)

■「広尾ガーデンフォレスト」の関連記事はこちら

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/1

「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。