記者の目 / 開発・分譲

2007/12/14

住民同士が「助け合う」まち

中央住宅が集住型の建売団地にチャレンジ

 住宅・不動産業界において、古くて新しいテーマの1つが「コミュニティー」だ。住民同士がいかにコミュニティーを形成していくか、円滑なコミュニティー形成を図るための仕掛けづくりに、各社とも力を入れている。そうしたコンセプトを前面に出したまちが、また1つ誕生する。ポラスグループ・(株)中央住宅による分譲住宅「越谷ゆいまーる」(埼玉県越谷市)だ。越谷市に拠点を置く地場ディベロッパーである同社と、官民連携のまちづくりに力を入れている越谷市がバックアップ。住民同士の「助けあい」「支えあい」を具現化した意欲的まちづくりだ。

建売団地「越谷ゆいまーる」俯瞰。手前中央が「コモン」
建売団地「越谷ゆいまーる」俯瞰。手前中央が「コモン」
団地メインエントランス。アプローチ通路は、通路に接する2住戸と奥の2住戸が敷地を提供している
団地メインエントランス。アプローチ通路は、通路に接する2住戸と奥の2住戸が敷地を提供している
団地中央部のコミュニティースペース「コモン」は、各住戸が敷地を出し合って設けたもの
団地中央部のコミュニティースペース「コモン」は、各住戸が敷地を出し合って設けたもの
コモン中央にあるシンボルツリーのケヤキ。ケヤキ前の住戸は、通常の敷地割りだと敷地延長を被る条件の悪い住戸となるが、同団地ではシンボルツリーに面しコモンを借景にできる最高のロケーション
コモン中央にあるシンボルツリーのケヤキ。ケヤキ前の住戸は、通常の敷地割りだと敷地延長を被る条件の悪い住戸となるが、同団地ではシンボルツリーに面しコモンを借景にできる最高のロケーション
コモンに設けられた井戸は、雨水桝に溜まった水を再利用するもの。水はそのままビオトープへ注ぐ
コモンに設けられた井戸は、雨水桝に溜まった水を再利用するもの。水はそのままビオトープへ注ぐ
コモン、エントランスは防犯灯でライトアップ。防犯灯は、管理組合により維持される
コモン、エントランスは防犯灯でライトアップ。防犯灯は、管理組合により維持される
各住戸は敷地境界から1メートルセットバックし、周囲をグリーンベルトとしている
各住戸は敷地境界から1メートルセットバックし、周囲をグリーンベルトとしている
周辺住民とのコミュニティースペースとなる「街角広場」
周辺住民とのコミュニティースペースとなる「街角広場」
雨水を溜め込み、散水に用いるための樽
雨水を溜め込み、散水に用いるための樽
無垢フローリングが使われるリビング。壁紙も天然素材を使用。窓周りにまで無垢材を巡らせている。
無垢フローリングが使われるリビング。壁紙も天然素材を使用。窓周りにまで無垢材を巡らせている。

官民が連携、まち並み誘導のモデル事業

 「越谷ゆいまーる」は、東武伊勢崎線「せんげん台」駅徒歩27分に立地する、開発総面積約1,500平方メートル、越谷市の西大袋土地区画整理事業地内保留地を開発した、総区画数8戸の建売住宅団地だ。
 同区画整理事業では、2006年、環境と景観に配慮したまちづくり、人にやさしい、自然共生のまちづくりをめざし、モデル住宅地開発のコンペを実施。そのコンペの優勝作品である。

 かつて典型的な農村地域だった越谷市は、急速な都市化の波に翻弄され、いままた少子高齢化等の社会環境の変化に対応するため、新たな都市の在り方を模索。大規模区画整理事業等により、それを具現化している。また、「街づくり協調会」などに代表される、官民連携、NPOなど住民との連携によるまちづくりにも力を入れている。
 一方、越谷市に拠点を置くポラスグループも、地元を活性化するための新しいまちづくりの提案を常に考えてきた。「ゆいまーる」は、その両者が連携して生み出した先導的プロジェクトである。

各住戸が敷地を供出した出会いの場「コモン」

 同団地のコンセプトは「えんのある暮らし」。名称になっている「ゆいまーる」とは、沖縄方言で「縁を回す」から転じ「仲間」「支えあう」という意味。また、「結い(結ぶ)」という意味にも掛けてあるということからもわかるように、この団地最大のテーマは住民、地域のコミュニティーである。

 住民同士のコミュニティーを向上させるための仕掛けは、配棟計画にある。同団地は、敷地の周りを取り囲むように、8つの住戸が建設されており、その住戸の真ん中に「コモン」と呼ばれる共有スペースを設けている。
 コモンとは、道路や公園といった公共スペースと、個人所有のプライベートスペースの中間にあたるスペースを指す。日本では、昔は路地や井戸端といったコモンスペースがあり、住民が交流を育んできた。ところが、近年は、個々の住戸を広く、贅沢にという風潮が強まり、こうしたコモンスペースが設けられる建売団地は少なくなってきている。同社は、それを復活させた。

 面白いのは、そのコモンの作り方である。大抵の場合、こうした共用スペースは、個々の住戸スペースとは別の場所に公共スペースとして計画され、そのコストはインフラコストに上乗せされる。だが、「ゆいまーる」では、各住戸が敷地の一部を出し合うことで、コモンを形成しているのだ。まさに住民の「支えあい」で生まれたスペースである。

 コモンの総面積は、全敷地の約25%(351平方メートル)。これだけのスペースを確保するために、通常なら9棟建てられるところを1棟減らし、各住戸の敷地にゆとりを持たせている。コモン中央には、シンボルツリーとしてケヤキが植えられ、雨水を利用した手押し井戸とビオトープも設けた。
 敷地はインターロッキング舗装で、歩車共存のボンエルフ形態。各住戸の玄関は全てコモン側に向けられており、日常のコミュニケーションを促す造りになっている。この造りは、外周道路から玄関への出入りができないほか、住戸それぞれが向かい同士の様子をチェックできることから、セキュリティー面でのメリットもある。敷地中央に大きな空間を作ることは開放感を生むだけでなく、通風、採光面でもメリットが大きい。

 通常、この規模の建売団地に敷地一杯建物を計画すると、必ず道路から奥まった住戸ができてしまう。こうした住戸は、幅2メートル強の「敷地延長」で玄関にアプローチすることになり、人気が出ずに大概売れ残る。今回の計画では、通常なら敷地延長で対応しなくてはならない敷地中央近くの住戸が、コモン中央のシンボルツリーに面し、コモンを庭のように使える最高のロケーションになる(その分、敷地供出負担も多いのだが)。もちろん、各住戸はコモンのメインエントランス(幅4m)で出入りするので公平だ。

住民協定と組合運営による住民参加のまち

 このような思想のまちづくりをするためには、住民同士の協調、そして住民と周辺住民との協調が重要となる。
 そのため同団地では、同市の地区計画だけでなく、団地住民による建築協定、住まい方に関する住民協定を策定。さらに、コモンスペースの管理運営を主な目的とした管理組合を作り、住民参加のまちづくりをめざしている。

 敷地は、最低面積を150平方メートルと定め、むやみな分筆や売却は禁じられている。また、建築物の色や意匠、高さもむやみに変更できない。
各住戸はオープン外構で、豊かな植栽により彩られているほか、各住戸は道路、隣敷地から1メートルセットバック。そのセットバック部分には、グリーンベルトとして植栽が施している。これらグリーンベルトは住民協定で保持が義務付けられ、植栽の剪定は、管理組合を中心に住民自らが推進。地域の景観・街づくりとも連動した活動を広めていく。

 住民すべてが自主管理に必要な知識や技術を習得するため、同社は2年間のサポートプログラムを策定する。なお、管理費は月額3,000円。ビオトープの維持管理や防犯灯の電気代などに使われる。
 また、コモンスペースの一部には、周辺住民とのコミュニティーの場、あるいは来街者や宅配業者の一時駐車スペースとしての「街角広場」も設置している。

「CASBEE戸建」基準で自主評価

 建物は、在来工法、専有面積108平方メートル~119平方メートルの3・4LDK。外観は、「和テイスト」をテーマにグレーやダークブラウンのシックな外壁に統一。コモン側に「縁側」付きの和室を設けて、コミュニティーの場としている。また、無垢フローリングや天然素材の壁紙、左官壁などで健康に配慮しているほか、環境共生住宅の認定を取得し、雨水を散水栓につないで再利用するなどしている。

 さらに、同団地は、08年4月からスタート予定の「CASBEE住まい(戸建)」の自主評価を行なっている。CASBEEとは、省資源・省エネルギーなどの環境負荷軽減、景観・住環境への配慮などについて建築物を評価する指標。同団地は、この基準に従った自主評価でも、環境性能で全棟「四つ星」ランク以上(最高五つ星)を取得している。
 販売価格は、4,360万円~4,790万円。建築開始時から継続的に反響を得ているが、住民同士の理解が不可欠な居住スタイル(コーポラティブ団地に近い)であることから、じっくり時間をかけ入居者を募っていく方針だ。
 
 郊外建売市場、とくに総戸数10棟以下のミニ開発は、まちなみ形成が難しいことからユーザー離れが続いている。そうしたなかで、「ゆいまーる」は、わずか8区画の建売団地でも、ハード、ソフトの創意工夫で、いくらでも中身の濃いものにできることを示すものだ。一見をお勧めしたい。(J)

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サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。