記者の目 / イベント・セミナー

2008/2/28

日本のマンション50年。今、管理は転換期に

日本マンション学会東京支部が記念座談会

 日本にマンションが誕生したのは昭和30年代(1950年代後半)というから、東京タワーと同じくらいの歴史になる。東京タワーは、時代の変化の中で新タワーに役割を引き継ぐべく建て替えが決まった。マンションも今、老朽化や耐震強度不足などによる建替え(安全)問題をはじめ、居住者の高齢化問題、管理問題など、さまざまな問題が噴出、区分所有者や管理業者の意識も大きく変化し始めた。

マンション問題専門家らによる記念座談会(左から、松本氏、丸山氏、蒲池氏、米倉氏)
マンション問題専門家らによる記念座談会(左から、松本氏、丸山氏、蒲池氏、米倉氏)
30名程の会員が参加。熱心に聞き入っていた
30名程の会員が参加。熱心に聞き入っていた

マンション問題第一人者が一堂に

 そんな折、日本マンション学会東京支部が、2月16日(土)、東京都千代田区の学士会館において、2008年度通常総会ならびに「マンション50年を振り返る」と題した記念座談会を実施。  日本マンション学会東京支部支部長・松本恭治氏を進行役に、元日本マンション学会長・丸山英氣氏、不動産評論家・蒲池紀生氏、マンション管理研究所所長・米倉喜一郎氏といった、わが国マンション問題の第一人者ともいえる専門家らが出席されると聞き、聴講させていただいた。

昭和30年代、高級住宅として登場したマンション

 同座談会は、わが国マンション50年の歴史を振り返るとともに、マンションストック500万戸という中でのマンション管理のこれからのあり方を考えようというもの。  蒲池氏によれば、「マンションが登場した昭和30年代は、年間2,000戸程度の供給量で、1戸あたり平均価格は800万円~900万円、当時は戸建てよりも高価だった」という。東京、大阪の都心を中心に供給され、当初は専ら外国人や一部富裕層向けの住宅として供給されたようだ。マンションは高級住宅だったのである。

 マンションが一般世帯の住宅として普及し始めるのは昭和40年代。住宅ローンの登場による。職住近接、不燃化などを売りに一気に供給量が増加、マンション市場も急成長した。   
 これとともにマンション管理という業務が登場する。元社団法人高層住宅管理業協会専務理事を務めた米倉氏は、「1970年(昭和45年)から10年単位で管理模索期、管理体制整備期、管理体制拡充期とマンション管理体制が変わり、2000年(平成12年)に『マンション管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)』が制定されて後は、新管理体制実験期といえる」とその推移を体系づける。
 昭和30年代は管理をめぐるトラブルはなく、マンション管理においては、管理前史と位置付けているそうだ。

日本のマンション管理体制には問題が

 一方、法的なアプローチでマンション問題に取り組んでいる丸山氏は、「日本では、戦後の同潤会アパート払下げ問題をきっかけに昭和37年(1962年)区分所有法が制定されたが、そもそも区分所有者のみによって管理をすべて行なうという考え方そのものがどうなのか。ドイツなどでは管理組合というものはなく、専門家がさまざまな業者を束ねて管理にあたっている」とし、「そうした議論がないままに“マンション管理士”という存在が出てきたことで、管理士、管理会社、管理組合のどれを中心にして体制を構築すべきか、『管理者』たるべきは誰かの判断が難しくなった」と問題を投げかけた。

建替え問題、コミュニティ形成にどう向き合うか

 多くの世帯が同じ建物に住まうというマンションには、一般のコミュニティとは異なる特有の問題が発生する。これまでマンションをめぐっては、『日照問題』『欠陥問題』『管理問題』『金融問題』『建替え問題』『安全問題』とさまざまな問題が生じてきているが、ストックの増大に伴い、今後はさらに頻発していく可能性があろう。  特にストックの老朽化が本格化する今後、建替え問題は区分所有者にとって切実な問題になっていく。これらにどう向き合っていくべきか。  これに関しては、「所有権が軽視されている。借家権より保護されていないのは疑問だ」(丸山氏)、「積立金以外の救済制度(基金のようなもの)をつくってはどうか」(蒲池氏)など各氏の見解はさまざまであった。

 マンション問題解決にあたっては、なんといってもコミュニティの形成が重要な基礎になる。
 近年、居住者の価値観やライフスタイルの多様化、単身世帯の増加などに伴い、マンションにおけるコミュニティ形成の難しさが言われているが、これについて米倉氏が「マンションかくあるべし、あるべからずが多過ぎる。倫理観や善悪論だけでは相互の理解が難しい時代になってきており、もっと気楽につきあえるやり方を考えてもいいのではないか。今の人たちにはむしろ『損得論』でいったほうがさばさばして分かりやすいのかもしれないし、おおらかさも残るのでは」と説得力ある提言をしていたのが印象的だった。
 
 2007年4月に設立15周年を迎えた日本マンション学会では、現在記念学会誌を編集中で、今回の座談会の内容も同誌に掲載される予定だ。(yn)

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