記者の目 / 開発・分譲

2012/12/14

成功のカギは「コミュニティ」

総戸数640戸の団地建替え「Brillia多摩ニュータウン」

 多摩ニュータウン。旧住宅・都市整備公団が中心となって開発した、3,000haにも及ぶ巨大ニュータウンだ。入居開始当時、かなりの人気を博したその団地だが、年月の経過とともに、少子高齢化が進展。建物の経年劣化やエレベーターがないなどの事情から退去する入居者が続出し、その再生が大きなテーマとなっている。  この多摩ニュータウン内で「諏訪2丁目住宅」の建て替えが2010年に決議。現在「Brillia多摩ニュータウン」として着々と開発が進められている。先だって、この建替えプロジェクトの事業協力者である東京建物(株)が、上棟した建築棟「G棟」の建築現場見学会を開催した。多くの見学者とともに、建築中の物件を見学する機会を得た。

「Brillia多摩ニュータウン」建設現場。右に見える住棟が見学会会場となったG棟
「Brillia多摩ニュータウン」建設現場。右に見える住棟が見学会会場となったG棟
見学路のそばでは、クレーン車が工事作業中。なかなかの迫力
見学路のそばでは、クレーン車が工事作業中。なかなかの迫力
見学コースの一番目の住戸。断熱材の施工と配管工事がほぼ済んだ段階
見学コースの一番目の住戸。断熱材の施工と配管工事がほぼ済んだ段階
見学2つ目の部屋。軽量鉄骨が組まれ、間仕切り壁の下地工事が進められている状態。石膏ボードが貼られていない状態の住戸を見るのは、ほとんどの方が初めてだった様子
見学2つ目の部屋。軽量鉄骨が組まれ、間仕切り壁の下地工事が進められている状態。石膏ボードが貼られていない状態の住戸を見るのは、ほとんどの方が初めてだった様子
3つ目の住戸。石膏ボードが貼られ、この上に壁紙を貼ったら、すぐにでも生活できそうな印象だ
3つ目の住戸。石膏ボードが貼られ、この上に壁紙を貼ったら、すぐにでも生活できそうな印象だ
各所に構造や設備について理解できる説明や見本が用意されていた(写真は二重床・二重天井の説明)
各所に構造や設備について理解できる説明や見本が用意されていた(写真は二重床・二重天井の説明)
見学は、担当者の説明を受けながら進められた。写真を撮ったり、熱心に質問する参加者の姿が、そこかしこで見られた
見学は、担当者の説明を受けながら進められた。写真を撮ったり、熱心に質問する参加者の姿が、そこかしこで見られた
建替え前の諏訪2丁目住宅(10年8月撮影、東京建物提供)
建替え前の諏訪2丁目住宅(10年8月撮影、東京建物提供)
「Brillia多摩ニュータウン」建物完成予定CG(東京建物提供)
「Brillia多摩ニュータウン」建物完成予定CG(東京建物提供)

断熱材や床構造を、自分の目で確認

 多摩ニュータウンにおいてももっとも早い1971年に入居開始となった分譲物件、それが「諏訪2丁目住宅」だ。なお、2010年3月の管理組合総会にて建替え決議が成立、11年に権利変換計画が認可され、同年12月に着工した。全23棟・総戸数640戸が、全7棟・総戸数1,249戸という規模の分譲マンション「Brillia多摩ニュータウン」へと生まれ変わろうとしている。

 では早速、見学会の様子をレポートしよう。
 見学に先立ち、マンションギャラリーにて、建設会社の所長により解体工事から杭工事、基礎工事までの一連の工事について、解説が行なわれた。スライドを用いて分かりやすく説明されたので、知識のまったくない参加者にとっても、一通り理解出来た様子であった。
 その後建築現場に移動し、10人ほどのグループに分かれて建築中の物件を見学して回った。

 見学住戸は3つ。1つ目は、躯体工事が完了し、設備配管工事が進められているもの。スケルトンに近い状態で、床下・天井内となる部分を直接確認できる状態にある。
 2つ目は、二重床下地や間仕切壁下地といった内装工事の下地を施工しているもの。
 3つ目は、間仕切壁に石膏ボードを貼り、パテ処理やコーナー補強などを進めている、仕上げの最終段階のものだ。

 グループごとに同社スタッフが付き添い、「配管は、水漏れリスクを減らすために、このように継ぎ目のないものを用いている」「石膏ボードの下には、このように下地を設けている。壁にテレビなど重いものを掛けたいときは、下地の軽量鉄骨の部分にフックを作る必要がある」といった具合に、実物を前にしながら、分かりやすく解説していった。

 見学者は初めて見る光景に驚きつつも、熱心に説明に耳を傾け、メモを撮ったり写真を撮影したり。そして「二重サッシは結露はしないのか」「二重床となっているが、防音効果はどのくらいか」など、つど質問を投げ掛けていた。

 見学は30分ほどの時間をかけて、ゆっくり行なわれた。見学者からは、「丁寧に仕上げていることが分かった」「思いのほか、手作業で進められている工事箇所が多いとのことで驚いた」「物件に対する信頼性が増した」といった好評の声が聞かれた。

困難な建替決議、合意形成できた理由は…?

 マンションの建て替えが容易ではないことは周知のとおり。建て替えどころか、耐震診断を受けるというだけでも合意が形成できずに実施できないマンションが数多く存在する。

 本建替えプロジェクトは、23棟640戸という巨大団地の建て替えで、かつ「90%超の合意で成立」(諏訪2丁目住宅マンション建替組合理事長:加藤輝雄氏)したというから驚きだ。それでも、建替委員会を組織してから20年超という長きにわたる時間を要したというから、やはりその道は平坦ではなかったことがうかがえる。

 建替え決議が成立した大きな要因は何か。余剰容積があった、事業協力者を得ることができた、地権者への還元率が100%であったなどいろいろあるだろうが、長年にわたり良好なコミュニティが培われてきたことにより、困難な合意形成を乗り越えられたと言っていい。なお弊社発行の月刊不動産流通2013年1月号特集「人気の分譲住宅売れるキーワードは」でも同物件におけるコミュニティについて触れているので、参照していただきたい。

 入居者同士の交流、思いやりがこの団地には残されていた。そしてそれを育むためのイベントやお祭りなどが、この団地では数十年、継続して行なわれてきた。それらを大切にする思いが、そしてそれらによって育まれた人間関係が、建替えというもっとも困難なハードルを乗り越えるのに、大きな力を発揮したということは、想像に難くない。

仮住まい中の高齢者、新居に戻ることが生きる張り合いに

 高齢入居者が多く、移転→仮住まい暮らし→再度の移転が求められることでの金銭的負担(還元率は100%だが、それでも移転費用の捻出などが厳しい入居者があった)、肉体的・精神的負担に難色を示す人は少なくなかったという。しかし建替組合の理事たちは一人ひとりと向き合い、その悩み・不安を解消していくことで、最終的に建て替え実現に至ったそうだ。

 仮住まい生活を送る高齢の地権者も、今では新しい住まいに入居することを心待ちにしており、それが生きる張り合いにも繋がっているという。
 
 「ある購入希望者が見学に来て、『こんにちは』と挨拶されて驚いていた。『ここは挨拶する関係があるまちなのか』と」(前出・加藤氏)。

 今後新しい“仲間”を迎え、より豊かなコミュニティが醸成されていくこと、そしてここが嚆矢となって、ニュータウン全体で再生が進むことを期待したい。

 ちなみに建て替え後も、既存住民と新たな住民との交流を促進するさまざまなイベントやサークル活動の立ち上げが予定されており、それらは事業協力者の東京建物がサポートしていくという。

 「Brillia多摩ニュータウン」の建物完成は2013年8月、入居開始は11月下旬(東京建物分譲分)の予定。(NO)


***
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